統計的差別について考えるために、以下のA~D2のパターンを考える。
カフェチェーン店の店長Aさんは、店舗イメージはあるものの、企業の方針で基本的に男女で雇用の枠を区別することはない。なので、バイト募集には「男女問わず」という要項を入れた。
カフェチェーン店の店長Bさんは、店舗イメージはあるものの、企業の方針で基本的に男女で雇用の枠を区別することはないが、女性がフロントを担当したら売上が上がったという経験から、Bさんの一存で今回は女性を雇用したい。なので、バイト募集には「女性のみ」という要項を入れた。
パターンBと状況は同じだが、表向きは男女で雇用の枠を区別するわけにはいかないので「男女問わず」という要項を入れ、実際には女性のみしか雇用しないつもりだ。
カフェチェーン店の店長 Cさんは、店舗イメージはあるものの、企業の方針で基本的に男女で雇用の枠を区別することはないが、本社のお達しで、「各店舗の情報を統計的に解析した結果、売上が良い店舗は女性をフロントに配置している」という統計データのみが来た。そのデータを見たCさんは、Cさんの一存で今回は女性を雇用することにした。なので、バイト募集には「女性のみ」という要項を入れた。
パターンCと状況は同じだが、表向きは男女で雇用の枠を区別するわけにはいかないので「男女問わず」という要項を入れ、実際には女性のみしか雇用しないつもりだ。
カフェチェーン店の店長 Dさんは、店舗イメージはあるものの、企業の方針で基本的に男女で雇用の枠を区別することはないが、本社のお達しで、「各店舗の情報を統計的に解析した結果、売上が良い店舗は女性をフロントに配置しているという結果が出たので、今後のフロント採用は女性にすること」という命令が来た。なのでDさんは会社の方針に従い、次回のバイト募集には「女性のみ」という要項を入れた
パターンDと状況は同じだが、表向きは男女で雇用の枠を区別するわけにはいかないので「男女問わず」という要項を入れ、実際には女性のみしか雇用しないつもりだ。
引っかかった部分を引用する。
その一方で、統計的差別についてはたとえば「偏見ではなく事実に基づいているのならやってもいいのではないか」といった反応が出てきがちで、実際大澤氏もそうした趣旨のツイートをしています。しかし差別かどうかを判断するにあたって重要なのは個人ではなくカテゴリーで判断するということであり、そこでの判断材料が事実であるかどうかは関係がありません。統計は差別的な実態を含めて事実を事実として示すだけなので、現実に差別が存在する場合、統計のみに基づいた判断はそのまま差別の肯定につながります。
"統計は差別的な実態を含めて事実を事実として示す" というのがミソだと思う。
パターンB2、C2、D2は、「男女問わず」という要項に反して女性のみしか雇う気はないので差別。
「各店舗の情報を統計的に解析した結果、売上が良い店舗は女性をフロントに配置しているという結果が出たので、今後のフロント採用は女性にすること」という本社のアクションは、統計的差別にあたりそうだ。
「各店舗の情報を統計的に解析した結果、売上が良い店舗は女性をフロントに配置している」というのが"差別的な実態を含めた統計的な事実"で、「今後のフロント採用は女性にすること」というアクションをとることが、"統計的差別"にあたると考える。
よって本社は統計的差別をしている。では店長Dはどうか。店長Dは本社の指示に従ったまでであるので、店長Dは差別行為をしていないのであろうか?しかし考えようによっては、あくまで統計的事実を用いてアクションを起こしたのは本社であるが、その支持に従った店長Dも同様に差別行為をした、もしくは加担したとも考えられる。
ちなみにここでいう差別の具体的被害というと、女性視点ならば「本当はバックヤードで働きたい人がフロントで働かされる」ということが考えられ、男性視点ならば「雇用の機会が不当に奪われている」になる。
本社のお達しで、「各店舗の情報を統計的に解析した結果、売上が良い店舗は女性をフロントに配置している」という統計データのみが来た。そのデータを見たCさんは、Cさんの一存で今回は女性を雇用することにした。
本社は確かに"差別的な実態を含めた統計的な事実"をCさんに伝えたが、伝えたのみで、アクションを促すことをしていない。元ネタURLのヘイトスピーチの定義では、
となっている。厳密にはヘイトスピーチと差別は異なるが、もしかしたらこれは煽動にあたるので差別かもしれないし、あたらないかもしれない。ただ一般的に本社と店長という立場のパワーバランス上、それを店長が忖度することを見越してのお達しだったのかもしれないし、ただの業務連絡だったのかもしれない。このへんは、実際に差別かどうかを判断するには裁判しかないのではないだろうか。つまり、「統計的事実を伝えたのみ」という言葉の裏に潜む文脈を解読しない限り、単純に差別かどうかなんて判断がつかないケースなのではないかということだ。よって本社が統計的差別をしたかどうかはここでは答えを出せないものとする。
さて、一方Cさんはどうだろうか。本社が"差別的な実態を含めた統計的な事実"をCさんに伝え、Cさんは「Cさんの一存で今回は女性を雇用することにした 」というアクションを起こした。これは統計的差別といえる。
まとめるとパターンCでは、
・本社が統計的差別をしたかどうかはここでは答えを出せない(したかもしれないししてないかもしれない)
・Cさんは統計的差別をした
となる。
「女性がフロントを担当したら売上が上がったという経験から、Bさんの一存で今回は女性を雇用したい。」としている。これは統計ではなく、個人的な経験だ。本来は「企業の方針で基本的に男女で雇用の枠を区別することはない」はずだが、Bさんの独断で女性雇用のみにしたので、これは差別と言える。
・差別が内包した統計的事実それ単体では、事実としての差別はあったとしても、行為としての差別にはあたらない。
・差別が内包した統計的事実を知ったあとに、それに基づきアクションを起こしたら行為としての差別になる(これが統計的差別)。
- (例)「女の人は身長低いからさ(統計的事実)」「だから集合写真は前に行かせよう(行為としての差別)」
・文脈を考慮しないと行為としての差別に当たるか微妙なパターンがあり、きっとそのために裁判がある
・パターンDは、本社が統計的差別をした。店長は加担、もしくは差別行為をした。あるいは命令に従ったまでなので差別行為をしていない。
・パターンCは、本社が統計的差別をしたかどうかはここでは答えを出せない(したかもしれないししてないかもしれない)。Cさんは統計的差別をした。