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大阪・関西万博の会場となる夢洲(ゆめしま)の建設工事で、先端技術の実証や導入が活発だ。官民のデータの連動や規制改革によって快適な社会を生み出す「スーパーシティー」の実装を先導する。

 万博は最先端のテクノロジーをちりばめた未来社会のショーケースといわれる。その実現に向けて進められる建設工事もまた、現場の未来像を示している。最新技術を活用して工事を円滑に進める「夢洲コンストラクション」だ。

 例えば、パナソニックコネクト(東京・中央)と大林組は2023年7月、万博会場の工事エリアに入退場する作業員や工事関係者の顔認証システムの本格的導入を発表した。ピーク時には1日当たり約5000人以上が利用する見込みだ(資料1)。

資料1■ 現場の入退場で顔認証システムを活用する様子(写真:大林組)
資料1■ 現場の入退場で顔認証システムを活用する様子(写真:大林組)
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 顔認証は一部のスマートフォンにも搭載されている技術で、目新しさを感じないかもしれない。ただし、顔認証のシステムや認証に使うIDを仕出し弁当の注文や重機の貸し出しといったシステムと連動させて、現場内の様々なサービスを「顔パス」で利用できるようになれば現場の快適さは高まる。パナソニックコネクトなどが具体化に向けて検討を続けている。

 こうしたデータの連動・活用による革新的なサービスの提供は、大阪府と大阪市が進める「スーパーシティー」の考え方に沿ったものだ。府と市は22年4月、政府からスーパーシティ型国家戦略特別区域に指定された。

 スーパーシティーでは、官民が持つ様々なデータの連動と規制改革を組み合わせて、街づくりや防災、移動・物流、健康・医療など多分野にわたる新たな公共・民間サービスを展開する。夢洲コンストラクションは、その先行プロジェクトの位置付けだ(資料2)。

資料2■ データ連携基盤の全体像
資料2■ データ連携基盤の全体像
他地域での共同利用も視野に入れる(出所:大阪府の資料を基に日経クロステックが作成)
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 冒頭の顔認証システムやBIM/CIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング/コンストラクション・インフォメーション・モデリング)、ドローンといった技術に加え、府がスーパーシティーの土台として整備した大阪広域データ連携基盤の「ORDEN(オルデン)」やAI(人工知能)を活用する。

 NTT西日本や大林組などが24年9月に実装する予定の工事車両のピークシフト誘導は、夢洲コンストラクションでオルデンを活用する取り組みの1つ。工事車両によって夢洲の周辺道路で生じ得る渋滞を軽減する。

 建設工事が集中する夢洲では、24年8月から工事車両の通行量が1日当たり3000台を超える。一般車両の通行量やピーク時間帯を把握して工事車両の通行量を制限するのが望ましい。一方、過度な制限は工事の遅れにつながる。

 そこで、一般車両の交通量を精度よく予測して、時間帯ごとに工事車両の通行を制限することで、渋滞回避と工事の円滑な進行を両立させる(資料3)。

資料3■ 工事車両の運行を最適化するシステムの概要
資料3■ 工事車両の運行を最適化するシステムの概要
(出所:大阪府)
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 具体的には、オルデンを通じて人流データやプローブデータ(時刻歴の車両の位置情報など)といった複数の情報を組み合わせてAIで解析し交通量を予測する(資料4)。

資料4■ ORDENを通じた交通量予測を実現するデータの流れ
資料4■ ORDENを通じた交通量予測を実現するデータの流れ
(出所:大阪府)
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 万博工事で効果が確認されれば、土砂の搬出入で多くのダンプトラックが道路を往来する大規模工事や、緊急車両と工事車両が入り乱れる災害復旧工事などで応用できそうだ。