自前主義が根強い建設会社の研究開発を、「競争と協調」という戦略で進める事例が出てきた。DX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させる上で有用と考えられるが、果たして成果を生み出すことはできるか。
建設会社の研究開発といえば、工事を受注するために他社に差をつける、あるいは他社に後れを取らないことを主な目的としてきた。
コンクリートなどの材料であれ、省力化工法であれ、ある技術を1社が開発すると、ライバル企業が続々と似たような技術を開発し、キャッチアップを図るケースは少なくない。大手ゼネコンがそれぞれ大臣認定を取得してアピールしている木造の耐火技術などは分かりやすい例だ。
こうした動機が強いため、開発段階で同業他社と広く協力関係を築くという発想はあまりなかった。
ところが、DXに取り組む中で見えてきたのは、同業他社を競争相手と見なしているだけではうまくいかないという現実だ。何でもかんでも自前でゼロから開発するのでは時間やコストがかかりすぎるし、開発を担うデジタル人材も不足している。
そこで注目されるようになってきたのが「競争と協調」。技術やサービスを生み出したり、普及させたりする際は協調(cooperation)し、パイを分ける段階で競争(competition)するという、ビジネス上の戦略を指す。B・J・ネイルバフ、A・M・ブランデンバーガーが著書『コーペティション経営』(1996年)で提示し、広く知られることとなった。
ロボットや配筋検査で協調
分かりやすい事例に、大手家電メーカーが70年代からVHS陣営とベータマックス陣営に分かれて争ったビデオテープレコーダーの規格争いがある。デファクトスタンダード(事実上の標準)を獲得するまでは協力し、その後はそれぞれの製品で勝負するという戦略だ。ビデオの規格争いではVHS陣営が勝利した。
最近の例では、複数の通信事業者が基地局などを共用する「インフラシェアリング」なども「競争と協調」の一種だ。
建設産業では、これまで設計や工事におけるJV(共同企業体)の組成、設計事務所や中小建設会社による事業協同組合などしか成功例はなかったが、「競争と協調」を意識した取り組みは確実に増えつつある。
建築分野における代表例が、「建設RXコンソーシアム」の活動だ。各社が個別に進めていた建設ロボットやIoT(モノのインターネット)関連の研究開発を共同で実施し、相互利用によってコストを下げて早期に普及させるのを目的としている〔図1〕。
単純作業に用いるロボットは「工具」のようなものだから、研究開発で競うのではなく、協力して良いものをつくり、早く普及させてその使い方で競う方が得策だとの考えに基づく。
実際にロボットを使って作業する専門工事会社にとっても、操作方法を習得しなくてはならないロボットの種類が減るなどのメリットがある。
同業他社との協調の例としてはこの他、準大手以下のゼネコン21社による配筋検査システム協議会が進めてきた配筋検査システムの開発なども挙げられる〔図2〕。