ERP(統合基幹業務システム)刷新で業務プロセスの9割を標準化する。グローバルでのDX推進に向けIT部門などを再編、役割も明確化した。目指すは市場に柔軟に対応できる「デジタルケミカルカンパニー」だ。
【直近の活動】
三菱ケミカルグループは現在、独SAPのERP(統合基幹業務システム)刷新プロジェクトをグローバルで進めている。2024年度から各地域に順次展開している。
導入に当たっては、ERPの標準の機能や業務プロセスに自社の業務を合わせる「Fit to Standard」を徹底する。共通の業務プロセスなどを定義したERPのグローバルテンプレートと業務モジュールに合わせるべく、業務を改革しようというわけだ。社長や執行役員が全社員に向けて、Fit to Standardの重要性と順守を継続して呼び掛けているという。
2017年にはDX(デジタル変革)を専門に担う「デジタルトランスフォーメーショングループ(DXG)」を立ち上げた。当初はデータサイエンティストなどの専門人材約10人を集めた。同社は三菱ケミカルをはじめ田辺三菱製薬、日本酸素ホールディングスなど複数の企業を傘下に抱え、それぞれがDXを推進している。DXGは各事業会社のプロジェクトにおいて技術面で支援する「スキルリソース」の役割を果たしてきた。
【DXの位置付け】
2026年3月期までの中期経営方針「Forging the future 未来を拓く」では、DXを推進することで変化し続ける市場に適応できる「デジタルケミカルカンパニー」になるとの目標を掲げた。
2024年3月期から2026年3月期は「加速」のフェーズとする。具体的にはエンド・ツー・エンドでの業務プロセス変革などに取り組む。業務プロセスの10%は競争力確保のために差異化しつつも、90%はERPなどの活用によりグローバルで標準化した上で、可能な限り自動化を推進する。従来は業務プロセスが複雑で、効率面で業界ベンチマークを大幅に下回っていたという。
【DXの重点テーマ】
DXを推進する「デジタル所管」に、担うべき3つの役割を設定した。(1)組織内の業務を円滑に回す「Trusted Operator(デジタル技術を使いこなす環境の整備)」、(2)事業部門などと連携しながら価値を作り出す「Business Creator/Cocreator(新たな価値の創造・共創)」、(3)テクノロジーを活用して事業変革をけん引する「Change Instigator(変革のリード)」である。
その上で各プロジェクトがどの役割に相当するかを明確にし、KPI(重要業績評価指標)を設定してモニタリングすることで確実に成果を出せるようにした。具体的には次のようなプロジェクトに取り組んできた。
(1)のTrusted Operatorでは、グループ企業各社の業績をリアルタイムで確認できる経営ダッシュボードを構築した。業績情報や目標に対する進捗状況を確認しやすくなり、データドリブン経営が可能になったとする。
(2)のBusiness Creator/Cocreatorでは、グループ企業が自社製品にダイナミックプライシングを導入できるようにした。営業担当者がコストや利益などに関する詳細なデータを確認できるデジタルツールを用い、データに基づいた価格を提案できる。複数の事業で導入しており、利益の改善など成果を上げているという。
(3)のChange Instigatorで取り組んだのは調達プロセスの変革だ。調達業務を地域ごとに集約することで、複数の部門の発注を組み合わせてサプライヤーと交渉することが可能となった。より良い取引条件を得ることができる。従来は部門単位の調達で、ボリュームメリットが生まれにくかった。北米とEMEA(欧州・中東・アフリカ)を皮切りに、今後グローバルで適用する。