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 先日、某大手SIerの人から「木村さんは日本企業のタコツボ組織を色々と批判しているが、当社ほど見事なタコツボ組織は他にはないですよ」という趣旨の話を聞かされた。要するに、事業部門間の連携が全くなく「隣は何をする人ぞ」状態だということだ。それどころか、同じ事業部門内であっても部署ごとにバラバラ。日本企業は「勝手にやっている現場の集合体」といわれるが、そのSIerはそんな日本企業の特徴を見事に体現する組織であるらしい。

 ただ考えてみると、タコツボ組織を見事に体現するのは、何もこのSIerだけではあるまい。人月商売のITベンダーは皆どこもかしこも、勝手にやっている現場の集合体といったほうがよいのではないか。そういえば以前、このSIerよりも経営規模が大きい別のSIerの経営幹部が「社長をはじめ経営幹部は、誰も他の役員のシマ(=事業部門)に手を突っ込むようなまねはしない。社長が関心を持つのは各シマの収益だけ」と話すのを聞いたことがある。

 記事冒頭のSIerの人にその話をすると「いやいや、うちのほうがはるかにタコツボですよ」と妙な「競争心」を発揮されてしまった。もちろん私から言わせれば、いわゆる「五十歩百歩」だよね……。いや違う。そんなことでSIer同士が張り合っても仕方がないでしょ。というか、駄目でしょ。それはともかく、SIerなど人月商売のITベンダーを「組織のタコツボ化」の観点から考えたことはこれまであまりなかったな。そう思い、また別の大手SIerの経営者に会った際に聞いてみたら、「タコツボ組織の克服が大きな経営課題だ」と言っていたな。

 一般企業(つまりSIerにとっての客)におけるタコツボ組織の問題、勝手にやっている現場の集合体がはらむ大問題については、今までこの極言暴論で何度も俎上(そじょう)に載せてきた。特にDX(デジタルトランスフォーメーション)に全社を挙げて取り組もうとした際に致命的な問題となるからだ。何せ経営者ですら他の役員のシマに手を出せないのだからな。基幹システム刷新などによる全社的な業務プロセス改革は、役員や現場の抵抗で頓挫してしまうし、新たに設けたデジタル推進組織もあっという間にタコツボ化してしまう。

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 そんな訳なので、こうしたタコツボ組織、勝手にやっている現場の集合体という組織の現状自体をDXで変革していかないと、日本の企業に明日はない。ところが、これはとてつもなく困難な作業だ。それこそ経営者が腹を決めて、他の役員のシマに手を突っ込む覚悟で組織改革などを進めなきゃいけない。カイゼン活動といった現場の属人的な創意工夫に頼った業務のやり方を抜本的に改め、基幹システムをはじめ全社的に標準化された「デジタルの仕組み」を活用したビジネスへと改めていく必要がある。

 SIerなどの人月商売のITベンダーも本来、こうした一般企業と同じでタコツボ組織、勝手にやっている現場の集合体である現状を改めていかなければならないはずだ。客の企業には「基幹システム刷新などによりDXを推進し、全体最適を実現していきましょう」などとささやいているわけだしね。当然SIerらも自らDXに取り組まなければならないよな……。そんなふうに考えを巡らしていたら、突然ひらめいた。「勝手にやっている現場の集合体から変われるわけないじゃん。何せ『お客様に寄り添っている』わけだしね」。