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 各地のガソリンスタンドで販売するガソリンや軽油といった燃料油は、製油所などからタンクローリーを用いて配送する。石油元売り各社は、ガソリンスタンドなどで販売する燃料油が枯渇しないように、綿密な計画を立ててタンクローリーを配車しなければならない。

 このタンクローリーの配車計画は、担当者が時間をかけて作成する。配送する内容物が液体かつ危険物であるだけでなく、取引先情報や売り上げ情報などの様々な条件にも配慮する必要があるからだ。

 タンクローリーの配車計画を短時間かつ効率的に実施したい――。こうした要望をAI(人工知能)で実現しようとしているのが出光興産だ。出光興産は1日当たり約5000件のオーダーに対応し、最大で約1800台のタンクローリーの配車計画を作成している。

ボタンを押すだけで配車計画を作成できる

 出光興産では、これまで約70人の配車担当者が長年の経験則に基づいてタンクローリーを配車していた。しかし配車計画を作成する担当者はベテランが増え、長期的に配車計画の質を担保できるか分からない。そこで同社は2024年12月からこの配車計画作成業務を支援するため、AIと最適化モデルを活用した新システムを本格稼働した。配車計画の質を維持しつつ、作成時間の短縮を図る。

 新システムでは、担当者がボタンを押すだけで配車計画を作成できる。担当者が新システムに事前情報を入力。画面上にある立案のボタンを押すと、システムが配車計画を出力する。その後、担当者が出力結果を確認して、調整・再立案を施して配車計画を確定する。新システムはアクセンチュアと共同開発した。

 新システムは、「入力」、コアとなる「AI×最適化モデル」、「出力」の大きく3つの工程で処理する。

配車担当者は出力結果を確認し、調整または再立案して配車計画を確定する
配車担当者は出力結果を確認し、調整または再立案して配車計画を確定する
(出所:出光興産への取材を基に日経クロステック作成)
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 入力の工程では、ガソリンスタンドをはじめとする納入先のタンク容量から導き出せる取引先情報や売り上げ情報、車両の稼働状況を表すタンクローリー情報など、多数の情報を担当者が入力する。

 また入力の工程では、出光興産が保持する販売時点情報管理(POS)データや在庫データを参照する。出光興産の友野寛流通業務部企画課担当マネジャーは「以前は納入先のタンクの在庫量や売り上げ情報などを、(納入先でばらつきがあるが)1日当たり数回取っていた」と話す。しかし取得回数が少ないとデータの粒度が粗くなり、AIで予測しても適切な結果が出づらい。そこで現在は「1日当たり最大48回取得している」(同)。