120万年前の気候は?厚さ2.8kmにおよぶ「南極の氷」が紐解く

  • author Margherita Bassi - Gizmodo US
  • [原文]
  • Kenji P. Miyajima
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120万年前の気候は?厚さ2.8kmにおよぶ「南極の氷」が紐解く
Image: Scoto @ PNRA / IPEV

南極の氷が厚すぎる件…。

私たち人類は数千前から天気の記録を残してきましたが、実は南極の氷の中には、私たちの想像をはるかに超える100万年以上前からの天気の記録が保存されているんですよ!

深さ2.8kmの氷が語る120万年の気候

国際的な科学者チームは、南極大陸の岩盤に到達する全長2.8kmの氷床コアを採取しました。この氷床コアは、地球の気候と大気の歴史を時系列で記録しており、最も古い氷は少なくとも120万年前までさかのぼるのだとか。

「Beyond EPICA-Oldest Ice」プロジェクトの声明によると、この成果は気候科学における重要な疑問の解明につながると期待されています。

ちなみに、これが史上最古の氷床コアというわけではありません。その称号は2017年に採取された270万年前の氷床コアに譲らなければなりません。

でも、Beyond EPICAの氷床コアがすごいのは、120万年分の記録が途切れることなく高解像度で残っているところ。これによって、古代の大気の状態や氷期のサイクルに関する非常に貴重な情報が得られるわけです。120万年前に埋めたタイムカプセルみたいですね。

Ice core
Image: Beyond EPICA project

Beyond EPICAプロジェクトのコーディネーターを務めるヴェネツィア大学のCarlo Barbante氏は、同プロジェクトによる第4次南極調査で採取された氷床コアについて、次のように述べています。

「私たちは気候と環境の科学にとって歴史的な瞬間を迎えました。これは氷床コアから得られる過去最長の連続した気候の記録であり、地球の炭素循環と気温の相互関係を明らかにしてくれるでしょう」

90万年前から120万年前の間に、氷期のサイクルが4万1000年から10万年へと変化しました。Beyond EPICAプロジェクトは、この「中期更新世気候変換期(Mid-Pleistocene Transition)」として知られる古代の気候現象の謎を解き明かせるかもしれません。

イタリア国立研究評議会極地科学研究所(ISP-CNR)が主導するこの研究では、科学者たちが200日以上にわたって、リトルドームCと呼ばれる東南極の遠隔地で氷床コアの掘削と処理を行ないました。ちなみに、その地域の夏の平均気温は、なんとマイナス35度という極寒なのだとか。

コペンハーゲン大学のポスドク研究員で、Beyond EPICAプロジェクトの主任科学者を務めるJulien Westhoff氏は次のように述べています。

「リトルドームCでの初期分析から、氷床コアの上部2,480mには、120万年前までさかのぼる高解像度の気候の記録が含まれていることが強く示唆されています。氷1mあたり約1万3000年分もの記録が圧縮されているんです」

氷床コアの最深部にある最も古い部分は岩盤に最も近く、「大きく変形し、混ざり合っているか再凍結した可能性がある未知の起源を持つ」古代の氷と、岩盤自体の岩石で構成されています。

この部分を研究することで、南極氷床下部の再凍結した氷の性質や、この地域の氷河形成の歴史、さらには南極大陸が最後に氷に覆われる前の姿を知ることができるかもしれません。

最後の難関は、輸送

とはいえ、このプロジェクトにはまだ大きなハードルが残されています。特に、分割された氷床コアを融解のリスクを冒さずに研究室に輸送するという物流上の課題をクリアしなければいけません。

Beyond EPICAの輸送責任者を務める、イタリア新技術・エネルギー・持続的経済開発機構(ENEA)のGianluca Bianchi Fasani氏は次のように説明します。

「今回の調査で採取された貴重な氷床コアは、砕氷船ラウラ・バッシ号でヨーロッパまで運ばれます。その間、マイナス50度を維持しなければなりません。そのために、特殊な低温コンテナの設計や、イタリア国立南極プログラム(PNRA)の航空・海上輸送手段の緻密なスケジュール調整など、さまざまな戦略を練りました」

分割された氷床コアが(超低温の)研究室に無事到着したあと、研究者たちが古気候の記録からどんな秘密が解き明かすのか、楽しみですね。

現在のところ、2004年にEPICA(European Project for Ice Coring in Antarctica)プロジェクトで南極のドームCから採取された氷床コアによって、約80万年前までの気候が明らかになっています。古気候を知ることは、未来の気候を予測する手がかりになります。氷床コアが解けずにヨーロッパまでたどり着きますように。

※ Beyond EPICAの名称は、このEPICAプロジェクトが元になっています。