FF市販車最速の名をかけ、Hondaの「シビック TYPE-R」のライバルであるルノー・スポールの「メガーヌR.S.」が「メガーヌR.S.ウルティム」をもって生産が終了します。終わる前に乗ってみようということで、タレントのあらた唯さんとともにシビック TYPE-Rとの比較も交えつつ試乗レポートをお届けします。
AT限定免許には「メガーヌR.S.ウルティム」しか選択肢はない
ゴルディーニ、アルピーヌを買収し、ルノーのモータースポーツ部門として1976年に誕生した「ルノー・スポール」。F1やル・マン24時間レース、世界ラリー選手権などに参戦しモータースポーツ史に名を刻みつつ、レース参戦で得た知見を元に、市販車に独自のチューニングを施したモデルを制作。長年に渡り多くのエンスージアスト(熱狂的な自動車ファン)を魅了してきました。
そんなルノー・スポールですが、2021年5月の組織再編でアルピーヌに統一。さらにアルピーヌは「電気自動車専用スポーツブランド」になると公言しており、ガソリンエンジン車を作る予定はない模様。つまりルノーのガソリンエンジン搭載車をベースにしたホットモデルは今後登場せず、本稿で紹介する世界限定1976台の「メガーヌR.S.ウルティム」がラストモデルになるというわけです。ちなみに通常のメガーヌR.S.の生産は終了しているので、メガーヌR.S.を手に入れるラストチャンスでもあります。
そんなルノー・スポールとHondaは、過去F1でライバル関係にありました。また2000年代になると、ドイツ・ニュルブルクリンク北コースを舞台に「FF市販車最速」の戦いを繰り広げるように。現時点ではタイヤに「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2コネクト」を装着し、欧州市場のみに設定されるエアコンなどを装着しない軽量化バージョンで7分44秒881をたたき出したシビック TYPE-Rに軍配が上がっています。このタイムは997型のポルシェ 911 GT3 RS(2007~2009年)のタイムとほぼ同等というからとんでもない話です。
そのシビック TYPE-Rの現行型ですが、2022年9月に受注を開始するも、受注が殺到したことと半導体不足をはじめとする部品の入荷遅れ、物流の遅延などの影響もあり、2023年1月に受注を一時停止。2025年になっても、その状況は変わりません。
さらに環境問題の影響もあり、この先、Honda側もFFレイアウトの純エンジン搭載のスポーツモデルが誕生する可能性は、(仕様違いは出るとしても)おそらく最後かもしれません。「最後のガソリンエンジン車」としてメガーヌR.S.ウルティム、またはシビック TYPE-Rにするか、というぜいたくな悩みが今回のテーマです。
武闘派な顔つきで速そうな雰囲気のメガーヌR.S.ウルティム
最後のルノー・スポールであるメガーヌR.S.ウルティムを見てみましょう。ボディーにはルノーのエンブレム「ロサンジュ(ひし形)」を模したデカールが貼られるとともに、フロントリップにモデル名「ULTIME」の文字。さらにバッジ類やサイドガーニッシュなどはブラック化するなど、武闘派を前面に押し出した様相です。
従来の「メガーヌR.S. トロフィー」と比べ1本あたり2kgの軽量化を果たした専用ホイール「Fuji Light」がおごられたほか、タイヤもミシュランから、ニュルブルクリンクで市販車FF最速ラップをたたき出した「メガーヌR.S. トロフィーR」と同じ、ブリヂストンの「ポテンザS007」に換装されています。それ以外はメガーヌR.S.トロフィーと同じとのこと。
シビック TYPE-Rは前述のとおりミシュラン・パイロットスポーツ カップ2コネクトでレコード樹立しましたが、標準で履くのはミシュラン・パイロットスポーツ4S。Hondaがフランスのタイヤを履き、ルノーが日本のタイヤを装着するのはちょっと面白いですね。
メガーヌR.S.ウルティムのエンジンは1.8L 直列4気筒直噴ターボで、最高出力は300馬力を発生。最大トルクは42.8kgf・m。
ライバルのシビック TYPE-Rはというと、2L 直列4気筒ターボで、最高出力は330馬力。最大トルクはメガーヌR.S.ウルティムと同値の42.8kgf・m。ちなみに排気音はメガーヌR.S.ウルティムの方が猛々しいように感じました。
AT免許でも刺激的な走りが楽しめる
ここで、ご自身の免許証をご確認ください。備考欄に「普通車はAT車に限る」と書かれていたら、シビック TYPE-Rを運転することはできません。なぜならMT設定しかないから。しかし、メガーヌR.S.ウルティムには変速によるエンジン回転数を最小限に抑えて、常に最適なギアをチョイスする電子制御6速ATが用意されています(6速MTモデルもあります)。
続いて「レバー式のハンドブレーキが欲しい」という方も、メガーヌR.S.ウルティムが選択肢になります。というのも、シビック TYPE-Rはボタンのオンオフで作動する電動パーキングブレーキだから。パーキングブレーキに力を入れたくないという人は電動、手動でのパーキングブレーキに抵抗がない人はレバーで選ぶといいでしょう。
似たような2台ですが、寸法を見るとかなり違います、メガーヌR.S.ウルティムは全長4410×全幅1875×全高1465mm、ホイールベース2670mm。
シビック TYPE-Rは全長4595×全幅1890×全高1405mm、ホイールベース2735mm。この数値からわかるとおり、メガーヌR.S.ウルティムはコーナーリング、シビック TYPE-Rは直進安定性に重きを置いた設計です。
さらにメガーヌR.S.ウルティムは“4Control”という、速度により後輪の操舵角を変化させる四輪操舵システムを採用しており、想像以上にコーナーリング速度が速いクルマに仕上げられています。極言すれば「高速道路」を重視するならシビック TYPE-R、峠を重視するならメガーヌR.S.ウルティムといえるでしょう。
ちなみに1900mm近い車幅は、一般的なコインパーキングの枠ギリギリの大きさ。ちなみに輪留めによっては、どちらもリアバンパーに傷をつける可能性があります。スポーツカーほどではありませんが、少し気を使う必要があります。
足回り(乗り心地)もかなり異なります。メガーヌR.S.には様々なグレードがありましたが、ウルティムは最もハードな「トロフィー」グレードをベースにしたスペシャルモデル。つまり「硬派の中の硬派」。シビック TYPE-Rは日常で苦痛を感じにくい硬さに留めています。
それゆえ走り始めると「どこか冷静なシビック TYPE-R、ラテンの楽しさに溢れるメガーヌR.S.ウルティム」という違いが如実にわかります。
背の高い荷物を入れられる使い勝手の良さ
日常において重要なのが荷室の使い勝手。その違いは荷室の使い勝手に大きな差となって表れています。
メガーヌR.S.ウルティムのトノカバーは着脱式。
シビック TYPE-Rはトノカバーが巻取り式であるほか、シートを倒した時にも傾斜は少ない様子。形状的に背の高い大型の荷物は積めない場合がありますが、シビック TYPE-Rの方が奥行きが深いばかりか、開口面積が広いため荷物が積み込みやすいです。
ディスプレーの大型化でナビ画面が見やすくなった
インテリアでは、R.S.のロゴがあしらわれたレカロのセミバケットシートが目を惹きます。
そして今までのメガーヌR.S.と比べて、センターのインフォテインメントディスプレイが大型化しているのも見逃せないポイントです。
シビック TYPE-Rはというと、赤いシートとフロアーカーペットが印象的。インフォテインメントはほかのグレードと同じ物ですが、LogRというラップタイム計測ソフトがはいっています。
どちらも車内にはシリアルナンバーが刻印されたプレートが入っています。メガーヌR.S.ウルティムには、シリアルナンバーに加え、ロラン・ウルゴン氏のサインが描かれたプレートがありました。ウルゴン氏はメガーヌR.S.のニュルのタイムアタックでもハンドルを握り続けてきた、スゴ腕テストドライバーです。どちらも所有感を高めるアイテムといえるでしょう。
ホイールベースに依るため、後席はシビック TYPE-Rの方が広い印象。
日常性を求めるならシビック TYPE-R
非日常を味わうならメガーヌR.S.ウルティム
似た生い立ちですが、街中で乗るとかなり違う2台。端的に言えば日常での使い勝手ではシビックTYPE-R、ワインディングを走るならメガーヌR.S.ウルティムという印象です。
特にメガーヌR.S.ウルティムをワインディングで走らせると、ドーパミンが全身から噴き出すかのような気持ちよさが味わえます。シビックTYPE-Rは、その点、少し冷静な印象。しかし、都内の青山通りなどを走行すると、足の硬さなどから「シビック TYPE-Rの方が……」と思うのも事実。
「シビック TYPE-Rの方が速い」「最後のルノー・スポール」という選び方も楽しいですが、「自分がこのクルマをどのような場所で走らせたいか」で選ぶべき、というのがどちらも試乗した筆者としての結論です。
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モデル紹介――あらた唯
10月5日栃木県生まれ。ファッションモデルとしての活動のほか、マルチタレントを目指し演技を勉強中。また2022年はSUPER GTに参戦するModulo NAKAJIMA RACINGのレースクイーン「2022 Moduloスマイル」として、グリッドに華を添えた。