米連邦地裁、国際開発局の職員休職求めるトランプ氏の大統領令を一時差し止め

国際開発局(USAID)の閉鎖に抗議する人々。プラカードには「USAIDを救おう、人命を救おう」、「USAIDを救うべきだ」と書かれている

画像提供, Getty Images

画像説明, 国際開発局(USAID)の閉鎖に抗議する人々。プラカードには「USAIDを救おう、人命を救おう」、「USAIDを救うべきだ」と書かれている

米首都ワシントンの連邦地裁は7日、アメリカの対外援助を担う国際開発局(USAID)の職員2200人を有給休暇にするドナルド・トランプ米大統領の計画を、一時的に差し止めた。

大統領令は、休職の開始を米東部時間7日午後11時59分としていたが、直前にカール・ニコルズ連邦地裁判事が、労働組合による訴えに応じて「非常に限定的な」一時差し止め命令を出すと述べた。

ニコルズ判事の判決は、アメリカ外交サービス協会と連邦政府職員連盟(AFGE)という、USAIDの職員を代表する二つの労働組合による緊急請願に応じたもの。

労組側は訴状で、USAID解体を目指すトランプ大統領の動きは、合衆国憲法および連邦法に違反していると主張。「USAIDを解体しようとする被告の行動の何一つ、連邦議会の承認に基づいたものではない」、「連邦法に基づき、USAIDを合法的に解体できるのは議会だけだ」としている。

第1期トランプ政権で指名されワシントンの連邦地裁判事に就任したニコルズ判事は、今後、書面による命令が発行され、詳細が記載されると述べた。

訴えに参加した市民団体「パブリック・シチズン」のローレン・ベイトマン弁護士によると、USAIDに直接雇用されている労組組合員2000人以上の職は、当面は無事のようだという。

トランプ政権はすでにUSAIDスタッフ約500人を、休暇扱いにしている。

一方で、ニコルズ判事はUSAIDからの助成金や契約の復元、USAIDの建物再開といった、労組の他の要求を認める可能性は低いように見えた。

司法省のブレット・シュメイト氏は、トランプ大統領が「USAIDには腐敗と詐欺があると判断した」と判事に伝えた。

撤去されたUSAIDの看板の前に、墓石を模したプラカードと花がささげられている。プラカードには「RIP USAID  1961~2025年」と書かれている

画像提供, Getty Images

画像説明, 撤去されたUSAIDの看板の前には、墓石を模したプラカードと花がささげられた

トランプ大統領は1月20日の就任直後、すべての対外援助を停止する大統領令に署名した。この資金が精査され、「アメリカ第一主義」政策に沿うまで停止されることになった。

その後1月31日から、トランプ氏の側近の大富豪イーロン・マスク氏が中心となり、連邦機関の効率化を担う「政府効率化局(DOGE)」が次々と連邦政府庁舎に入った。DOGEはトランプ氏が大統領令でホワイトハウス内に設置したチーム。

そうした中でUSAIDに業務停止命令が出され、世界中の数百のプログラムが凍結され、国際援助システムが混乱に陥った。

USAID職員は3日、自宅待機を指示された。また、BBCが入手した内部文書によると、何百人もの職員が自分のメールアカウントを開けなくなった。

首都ワシントンの本部では、USAIDの看板が取り外され、覆われている。

「アメリカは人の生死に関心がない」というメッセージに

アメリカは世界最大の人道援助提供国で、USAIDは1960年代初頭に設立された。職員約1万人を雇い、その3分の2は国外で働いている。

60カ国以上に拠点を持ち、それ以外の数十カ国でも活動している。しかし、現地での作業の大部分は、USAIDが契約し資金提供している他の組織が請け負っている。

政府データによると、アメリカは2023年に680億ドル(約10兆円)を国際援助に使った。

この総額は複数の部門や機関にわたるものだが、USAIDの予算はその半分以上を占め、約400億ドルだった。これは、アメリカの年間政府支出総額6.75兆ドルの約0.6%に相当する。

トランプ大統領は、USAIDが納税者の資金の有効な使い道ではないと主張。USAIDを国務省と統合する方針を示している。側近のマスク氏も、同局の「閉鎖」を強く主張。マスク氏率いるDOGEの計画では、611人の職員が引き続き機関で働くことになっているという。

トランプ氏は7日、自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に、「USAIDは急進的左派を狂わせている」「腐敗はこれまでに見たことのないレベルに達している。閉鎖しろ!」と投稿した(太字は原文ではすべて大文字)。

これに対して複数の元USAID長官は、この削減計画を批判している。その一人のゲイル・スミス氏はBBCに対し、アメリカは常に世界中の人道危機に最も早く対応してきたと強調した。

「これをすべて取り除けば、非常に危険なメッセージを送ることになる」とスミス氏は述べた。「アメリカは人の生死に関心がなく、信頼できるパートナーではないと言っていることになる」。

ジョー・バイデン政権でUSAID長官だったサマンサ・パワー氏は米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿で、「アメリカ史上最悪で最もコストの高い外交上のミスを、私たちは目の当たりにしている」と書いた。

国連のHIV/AIDS対策を担当する国連合同エイズ計画(UNAID)のウィニー・ビヤニマ事務局長はBBCに対して、トランプ政権の措置によって世界中のエイズ対策が深刻な影響を受けると述べ、資金提供が復活されなければ「今後5年間でエイズ関連の死者が

630万人は増えることになる」と警告した。