AIアクションサミット、英米は共同声明に署名せず

AIアクションサミットの会場風景

画像提供, Getty Images

仏パリで開かれていた「人工知能(AI)アクションサミット」が11日に閉幕した。AI技術の開発に対して「オープン」、「包括的」、「倫理的」なアプローチを約束する共同声明が発表されたが、イギリスとアメリカは署名しなかった。

この声明には、開催国のフランスや中国、インドを含む60カ国・地域が署名した。

イギリス政府は短い声明で、国家安全保障と「グローバル・ガバナンス」に関する懸念から署名できなかったと述べた。

また、サミットに出席していたJ・D・ヴァンス米副大統領は、AIに対する過度の規制が「変革的な産業を、立ち上がったばかりの段階で殺してしまう可能性がある」と述べた。

ヴァンス氏は、「トランプ政権はAIの可能性を無駄にしない」と語り、「成長を促進するAI政策」が安全性よりも優先されるべきだと主張した。

ヴァンス氏の発言とは対照的に、エマニュエル・マクロン仏大統領は、さらなる規制の必要性を擁護した。

マクロン大統領はサミットで、「AIが前進するためにはこうしたルールが必要だ」と述べた。

イギリスは以前からAI安全性の理念を支持しており、2023年11月には当時のリシ・スーナク首相が、世界初のAI安全サミットを開催した。

事実確認団体「フルファクト」のAI部門責任者、アンドリュー・ダッドフィールド氏は、英政府が今回のパリ声明に署名しなかったことがその信頼性を危うくすると述べた。

「イギリス政府は、この国際的なAIアクション声明への署名を拒否したことで、安全で倫理的かつ信頼できるAI革新における世界的リーダーとして苦労して得た信頼性を損なうリスクを負っている」

一方、国内の業界団体UKAIは、これは正しい決定だと述べた。

「UKAIは環境への配慮が重要だと認識しているが、AI産業のエネルギー需要の増加と、この責任をどのように均衡させるかについては疑問を持っている」と、UKAIのティム・フラッグ最高経営責任者(CEO)は述べた。

「UKAIは、政府がこの声明に署名しなかったことを慎重に歓迎している。これは、UKAIが求めてきた、より実用的な解決策を探る意向を示していると考えている。また、アメリカのパートナーと緊密に協力する機会が保たれる」

共同声明の内容は?

今回の声明には60カ国が署名。AIへのアクセスを促進し、技術の開発を確実に「透明」で「安全」かつ「信頼できる」ものにすることで、デジタル格差を縮小するという目標を掲げている。

また、「人々と地球にとって持続可能なAIを実現すること」も優先事項として挙げられている。

さらに、将来的には小国並みのエネルギーを消費する可能性があると専門家が警告しているAIのエネルギー消費についても、このサミットで初めて議論されたことが記された。

「サミットの宣言を見ても、イギリス政府が具体的にどの部分に反対しているのかを特定するのは難しい」と、AIの活用について研究している独立団体「エイダ・ラブレス研究所」のマイケル・バートウィッスル副所長は指摘した。

イギリス政府は声明で、「首脳らの宣言の大方に同意するが、一部に欠けている点があると感じた」と説明した。

政府報道官は、「この宣言はグローバルガバナンスに関する実践的な明確さが十分ではない。また、国家安全保障とAIの脅威に関する難しい問題に十分に対処していないと感じた」と述べた。

一方で政府は、このサミットで合意された、持続可能性やサイバーセキュリティーに関する他の協定には署名したと付け加えた。

英首相官邸も、イギリスはドナルド・トランプ米政権に追随したわけではないと強調している。

「これはアメリカの問題ではなく、イギリス自身の国益に関するものであり、機会と安全のバランスを確保することが重要だ」と、報道官は述べた。

バランスの問題

このサミットでは、AI開発が社会、環境、ガバナンスに与える影響について議論された。

政策立案者や経営者、外交官らは、AIイノベーションの経済的利益を享受しつつ、AI技術のリスクに対処する方法を模索している。

サミットの冒頭でマクロン大統領は、自身が人気映画やテレビシリーズに出ていると見せかけたディープフェイク動画をソーシャルメディアに投稿した。

欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は11日、「このサミットは行動に焦点を当てており、まさに今必要なものだ」と述べた。

フォン・デア・ライエン委員長は、サミットを通じて支持されてきた欧州のAIに対するアプローチは、イノベーションと協力、そして「オープンソース技術の力を受け入れる」ことを強調するものだと述べた。

この会議は、アメリカと欧州の間で貿易摩擦が高まっている中で開催された。

トランプ米大統領は先に、アメリカへの鉄鋼とアルミニウムの輸入に関税を課すと発表。この措置はイギリスと欧州連合(EU)にも影響を与える。

イギリスは、トランプ政権との良好な関係を維持しつつ、EUとの関係を強化するため、直ちに報復措置を取らない方針だとみられている。