カスタマーレビュー

  • 2020年4月22日に日本でレビュー済み
    ①本書は著者が主に依拠してきた英米の史学史研究の総括と展望であり、何より広範な理論的射程を有している。 社会史研究の歩みを言語論的展開を踏まえて、グローバリゼーションから新自由主義の台頭の中で位置付ける。
    ②社会史研究はフランスでは、アナール学派の研究に始まり、ドイツでは、構造史派による構造史・社会史研究を導き、『言語から見たドイツ史事典』10巻に結実した。
    ③こうした戦後史学の独仏の歩みを批判し、グローバリゼーションとオリエンタリズムの台頭によって、グローバルヒストリーが登場した。これにより、西洋中心史観が否定された意義は大きい。ウォラーステインの『近代世界システム』も西洋中心史観に依拠した従属理論として否定された。
    ④言語論的転回は、構造主義からポスト構造主義への思想的転換として位置付けられるが、 ヘイドン・ホワイトの『メタヒストリー』が果たした役割が大きい。ホワイトはデリダの脱構築=解体(ディコンストラクション)の手法を用いて史学理論の総括と展望を述べた。
    ⑤ここで著者が問題提起しているのは、言語論的転回が「物質主義」を否定し、「思想・文化」的視点を史学研究に導入したことである。それによって様々な「語り」を史学研究に導入した歴史書が登場した。著者の近著(岩波書店刊)でも、魔女裁判記録を繙いて、被告人や陪審員・書記の「語り」の変容に着目して、発言や文書の信憑性(真実)に迫る。こうした研究は大変面白い。
    ⑥新しい個別研究の集積は大きな成果であるが、ポシトモダンの史学理論を構築すべき時ではないだろうか?
    グローバルヒストリーに代わる新しい歴史理論である。幸い、日本人は西洋・東洋に呪縛されずに、全体を俯瞰しやすい立場にいる。日本史・東洋史・西洋史の枠組みを越えた総括が必要な時ではないか?
    本書はそのための第一歩として位置付けることが出来よう。こういう書物が待望される。
    お勧めの一冊だ。
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5つ星のうち4.1
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