2024年にさまざまなフィールドで活躍が目立った「挑戦者」たちを突撃取材。彼ら彼女らが今考えていること、その先に見つめるものを深掘りします。

 書店員が売りたい本を多数決で選ぶ「本屋大賞」。2024年に受賞したのが青春小説『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)だ。主人公・成瀬あかりのわが道を行くユニークなキャラクターは、年齢性別を問わず人気を呼び、舞台となった滋賀県には全国からファンが訪れる異例のヒット作となった。著者の宮島未奈さん(41歳)はまぎれもなく今年注目の作家だ。小説家として大きな転機になったこの1年の印象的な出来事や、デビューまでのエピソード、今後の目標について話を聞いた。

本屋大賞を獲得した『成瀬は天下を取りにいく』と続編『成瀬は信じた道をいく』(新潮社)を手にする宮島未奈さん。シリーズは2冊合わせて95万部の大ヒット。「3作目も準備中です」。写真提供/新潮社
本屋大賞を獲得した『成瀬は天下を取りにいく』と続編『成瀬は信じた道をいく』(新潮社)を手にする宮島未奈さん。シリーズは2冊合わせて95万部の大ヒット。「3作目も準備中です」。写真提供/新潮社

「本屋大賞作家」は一生背負う看板と覚悟

編集部(以下、略) 2024年4月に第21回本屋大賞の発表があり、全国の本屋さんに『成瀬は天下を取りにいく(以下、成瀬)』が並びましたね。41歳となった24年に作家として大きく飛躍しましたが、宮島さんにとってはどんな1年でしたか。

宮島未奈さん(以下、宮島) ほぼ1年を通して本屋大賞イヤー。忙しいの一言でした。プロモーションでサイン会や書店訪問に出かけることも多くて、どこの書店に行っても『成瀬』が置かれていることに「本屋大賞」の影響力を感じました。授賞式のスピーチでも言ったのですが「本屋大賞作家」というのは一生背負う称号なんだと思います。

 お笑いの賞レース「M-1」のチャンピオンは何年たっても「M-1チャンピオン」と呼ばれます。それと同じだと覚悟が決まった1年でした。重荷ではありますが、意外と平気です。メンタルが強いというのとは違うのですが、何か大変なことを背負っていても堂々としていられるほうなんです。

―― 本屋大賞受賞後、執筆依頼がどんどん来ているのでは?

宮島 出版社ごとに担当の方が挨拶にいらっしゃって、書いてほしいと依頼がありました。もう10何社と待ってくれているんです。とりあえず3年先ぐらいまでは具体的に決まっていて、その後は保留にしているので立ち消えになる仕事もあるかもしれませんが、全部やろうと思ったら10年くらいかかると思います。今後、本屋大賞作家として生きていくからには、期待を裏切らないようにいい作品をつくっていきたいと思っています。

 ただ、今はいろいろなプロモーションが入ったり、コラボ企画の確認や許諾などもしたりしなければならない。その合間に執筆をするのはやっぱり大変です。私まだ新人なんですよ(笑)。デビュー2年目で、まだ2社からしか本を出していません。書き仕事とそうでない仕事のバランスの取り方もこれから見つけていかなければならないと思っています。