「子どもを信じて見守ることが大切」と言われ、多くの親はそれを認識しつつも、「信じて待つ」ことの難しさを実感しています。何より難しいのが、「しない」こと。子どものために、あれもこれもしてあげたい、という思いは誰しも強いもの。そこをぐっとこらえて、親が余計な口出しや手出しを「しない」ことで子ども自身のペースを守り、自発性を促すことが理想ですが、なかなか実践できないのが実情です。そこで本特集では、親が子育てにおいて、余計な事を「しない」ことの大切さや注意点を専門家が解説。「しない」子育てを心掛け、子どもを大きく伸ばしてきた先輩親のエピソードもご紹介していきます。

「思春期の回り道」も親として見守ってきた

 開成、東大、東京大学大学院を経て、ピアニストの道へ。ショパン国際ピアノコンクールセミファイナリストに選出されるなど、ジャンルの垣根を越える音楽性が高く評価され、国際的に活動する角野隼斗さん。妹の角野未来さんも進学校を経て東京芸術大学に進み、留学先のフランスを拠点に、気鋭のピアニストとして活躍しています。

 勉強と音楽の両面で結果を出してきた2人を育てた母・美智子さんは数々の生徒をコンクール受賞に導くピアノ指導者です。美智子さんが2人をさぞ厳しく育てたのかと思いきや、実際は正反対でした。

 2人とも幼い頃からクラシックピアノを習い、数々のコンクールに出場するなど将来が期待されてきましたが、中学受験を経てそれぞれ開成と名門女子中高一貫校に進んでからは、いったんピアノから離れたように見えました。しかし、美智子さんは「子どもの世界が広がるほうがうれしい」と、気にしませんでした。そもそも中学受験も親から強要したわけではなく、中高時代は勉強についてもあまり口出ししなかったといいます。

 東大受験を目前に控えた高3の12月、隼斗さんが、音ゲー(音楽ゲームの略称。音楽のリズムに合わせて疑似的に楽器を演奏したり、タイミングよくボタンを押したりして、スコアを獲得するゲーム)の全国大会に出場したい、と言い出した時は驚きはしたものの、最終的には、大会に出場するための書類に保護者としてサインをしたそうです。

 また、未来さんが突如、離れていた音楽の世界に戻り、東京芸術大学付属高校を受験まで残り5カ月を切ったタイミングで外部受験したいと意思表示した時も、両親はびっくりし、頭を抱えましたが、最終的には未来さんの意思を尊重したそう。通っていた中高一貫校は外部受験をすれば内部進学の資格を失うため、落ちれば高校浪人となるのが必至でしたが、親子で腹をくくって難しい賭けに挑みました

 それぞれの「思春期の回り道」をハラハラしながらも見守り、子どもたち自身が出した答えを第一にサポートしてきた美智子さんが、一貫して大切にしてきたものは何だったのでしょうか。詳しく聞いていきます。