新劇場版『頭文字D』Legend1-覚醒- の公開に合わせ講談社は、頭文字D連載18年の歴史を振り返るガイドブック『頭文字Dの軌跡 挑戦の記』を発売した。「挑戦」をキーワードに、原作者しげの秀一氏によるロングインタビューや、名シーンの解説のほか、単行本未収録の番外編なども収めたファン必携の書に仕上げられた。
また、本書の見所のひとつ「レジェンドインタビュー5連発」では、レスポンス編集部との共同編集により、劇中に登場する国産スポーツカー開発者へロングインタビューを敢行。開発秘話を語ってもらった。
マツダからは、主人公・藤原拓海のライバル高橋啓介の愛車『RX-7』(FD3S型)の開発に深く関わり、『ロードスター』の育ての父としても知られる元マツダの貴島孝雄氏が登場。FRへのこだわり、譲れない50:50の重量配分などマツダならではのスポーツカー作りについて熱く語った。
本稿では、『頭文字Dの軌跡 挑戦の記』に掲載された貴島氏のインタビューを、一部抜粋してお届けする。
◆操ることを楽しく乗るなら50対50は譲れない
----:FD3Sはどのようにして生まれたのでしょうか
貴島:FD3S(3代目RX-7)を開発したときはすでにロードスターがありました。スポーツカーはその会社の技術の粋を集めて作るのですから、スポーツカーが2種あるというのも珍しいですよね。ご存じのようにFD3Sは小早川さん(小早川隆治氏)が主査だったので、私は主査の下でタスクチームというのを作ってやっていました。エンジン以外のすべての部分を集めて開発を進めたのです。
軽量化についても徹底していました。すでにアルミを使う技術を研究所がいろいろと出していましたから、それを活かせる方向性を考えましてね。
(中略)
ボディ材だけでなく、サスペションアームもアルミを使用しました。できれば全部アルミにしたかったぐらいなんです。FD3Sが登場する1年ほど前にホンダNSXが登場していますよね。あれはオールアルミでしたよね。でもRX-7はNSXの半分の価格です。それでも、NSXはライバルではないのだけどNSXに勝ちたいという気持ちがありました。NSXの半分の価格のクルマで筑波のラップタイムで勝てたら面白いじゃないですか。
そしてチャレンジして、勝ちましたよ。朝イチの気温が低いときを選んで、タイヤが温まる2ラップ目、一発勝負で勝ったんです。うれしかったですね。NSXはオールアルミで1350kgだったのですが、RX-7は部分アルミで1250kgでした。パワーウエイトレシオを5kg/1psを切るのが大きな目標で、それを実現するために各部署が徹底的にがんばったのです。他所に言って自分達はやらないのか……と言われるわけにはいかないから。
(中略)
----:FD3Sの開発コンセプトとは?
貴島:FD3Sを造ったときに主査の小早川さんが、「志・凛・艶・昂(し ・りん・えん・こう)」という言葉を掲げました。ものを造るのではなく“事(こと)”を描いて造ろうと。人間ともの(クルマ)が一緒になって何をするのか、を描いて造ったのです。私は足まわりをやっていたから足まわり、コーナリングでは絶対に負けない、凛々しい状態、それを市販車で造るということです。まさにこの『頭文字D』の世界なんですよね。
(中略)
操ることを楽しく乗るなら50対50は譲れない。そして出来上がると、それを感じるクルマになる。だからマツダのスポーツカーは50対50の重量配分を貫こうとなったわけです。
クルマの運転というのはインプットに対してアウトプットが決まる。そのアウトプットに対してドライバーがインプットを決める……というクローズドループになっていますよね。結果を反映していくのですから素直でないといけない。人間の感覚に合わないとだめですよ。この本を読んでいるとそれを感じますね。しげのさんってけっこう乗るのでしょう? 乗らないとわからない世界のことがたくさん描いてあります。
『頭文字Dの軌跡 挑戦の記』
価格:907円+税
発行:講談社
◆8月14日 『頭文字Dの軌跡 挑戦の記』発売記念トークショーを開催
『新劇場版「頭文字D」Legend1-覚醒-公開記念86“超”夏祭りin Daiba at MEGA WEB』内にて、「国産スポーツカーと5人のレジェンド with 土屋圭市~『頭文字Dの軌跡 挑戦の記』発売記念トークショー~」を開催。GT-R、RX-7、WRX STI、NSX、そして86開発者が勢揃いし、開発秘話を語る。
日時:8月14日 15時00分~16時00分
会場:東京・台場 MEGA WEB 1F、MEGAステージ