天職に出会うにはどうすればいいのか。解剖学者の養老孟司さんと精神科医の名越康文さんとの対談を収録した『虫坊主と心坊主が説く 生きる仕組み』(実業之日本社)より、一部を紹介する――。

やりたいことっていうのは仕事じゃねえよ

――「やりたいことをやりましょう」という言葉が、就職を考える人たちへのアドバイスとしてよくでてきます。たとえば有名ユーチューバーのHIKAKINさんも、「好きなことをして生きていきましょう」と言っている。でも、10代や20代で、必ずしも一生続けていける「好きな仕事」にめぐり会えるわけではないと思うんですね。そもそも好きなことを仕事にするということについて、どうお考えでしょうか? 養老さんは解剖医、名越さんは精神科医ですが、お2人はそれぞれの仕事を好きで始めたのでしょうか。

【養老】そもそも、やりたいことっていうのは仕事じゃねえよ。僕が好きなのは虫だもの。

解剖学者の養老孟司さん
写真=時事通信フォト

【名越】僕はやりたいことをみつけた方がいいという気はしますが、やりたい仕事をやりましょうっていう話には現実感があまり持てないんです。だって僕は、やりたい仕事がなかったから精神科医になったんやから。消去法です。HIKAKINさんは、生きているうちの八割は好きなことをやってるってどこかで言っていたけど、仕事量からすると、ユーチューバーってめちゃくちゃハードワーカーだと思うけどね。

「好きでやる仕事」をやる人は二番目

【養老】やっぱり『論語』を読んだ方がいいよ。『論語』っていうのは、その弟子たちの対話を集めたものだけど、孔子はこう言っているから。

「これを知る者はこれを好む者にかず。これを好む者はこれを楽しむ者にかず」(『論語』岩波書店)

ごくわかりやすく言うと、いま一般的に言われている「好きでやる仕事」をやる人は二番目で、好き・嫌い関係なく、楽しんでやるのが一番というのが孔子の考え。好きで仕事をやっている奴は、楽しんで仕事に取り組んでいる人にはかなわないということです。いま自分が取り組んでいる仕事を楽しめと。もっといえば、どの仕事がいいかを思案するよりも、仕事をやりながら考えるということですよね。なんでもない仕事におもしろみを見つける。やってみなきゃわかんないんだから。

論語(Books in Östasiatiska museet/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)
論語(写真=Books in Östasiatiska museet/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

自分がやっていた解剖医なんて、まさに「これを楽しむ者に如かず」だよね。自分から頼みまくって解剖をやるといったら、ちょっと性格異常かもしれない。

【名越】解剖はそうですよ。初めから解剖が楽しいって、ちょっと感覚がズレてるかもしれない。