中学時代に、好美(仮名)というショートヘアの同級生がいました。彼女は、運動神経抜群で、ソフトボール部の主将でした。チームでは、一番、遊撃手を務め、打率が.500を超えていたそうです。握力は私よりも強く、50m走でも負けそうでした。
ある日、掃除当番で一緒だった流れで、好美と長く話す機会がありました。
私は、そこで初めて口裂け女の話を知りました。好美の語り口には迫真性があり、恐怖心を煽るのが抜群に上手でした。
間もなくして、あるエリアで高頻度に出没するという噂が出るようになり、そこを通らなければ登下校できない彼女が、私に泣きついてきました。途中まで一緒に下校して欲しいというのです。
田畑や雑木林のあぜ道を通らなければならず、痴漢さえもめったに現れない田舎でした。
男女5対5くらいのこともあれば、2対2のこともありました。途中からは、好美と二人きりになり、いくらかの交通量がある県道まで出ると、「ここまでくれば大丈夫だろう」ということで、別れていました。
あるとき、好美に呼び止められました。
御礼がしたい、と。
「御礼かあ」
「なんでもいいよ。なにがいい?」
「バレンタインデーのチョコとか」
「そんなの、頼まれなくてもあげるよ。私にしか頼めないこととか、そういうの、なんかないの?」
二人の間に、妙な間ができていました。酸素の代わりに、気まずさを包み込んだ二酸化炭素が充満し、息苦しくなりました。
「あっ、でも、変なこととかは駄目だよ」
いろいろな変なことしか思いついていなかった私は、その動揺を隠しながら、話を続けました。
「例えばさあ、一日だけ俺のカノジョになるとか、そういうことならいいのか?」
「そうそう。そういうの。そういうのだったら私にもできるからさ」
その場では、決められず、週明けに学校で会うまでに決めると約束しました。
最終的に、私のお願いで、彼女に髪を伸ばしてもらうことになりました。
短かった髪が肩近くまで伸びた頃、卒業式を迎えました。
お互い別々の高校に進学することになっていました。
「好美ちゃん。その髪型のほうがいいよ。よく似合ってる」
「嬉しいわん」
「元気でね」
好美は、卒業間際に付き合いだしたカレシの次に、「君が二番目に好き」と言い残して踵を返し、小走りで去っていきました。
Posted at 2023/07/01 08:00:55 | |
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