2016年問題
2016年問題(2016ねんもんだい)とは、2020年の東京オリンピックに向けて、東京都や首都圏のうち主に東京圏各地の劇場やコンサートホールが改修工事などのために閉鎖し、コンサート用の施設が不足するとされた、日本における年問題である[1][2]。
概要
[編集]問題の表面化
[編集]2020年の東京オリンピックに向けて、大型施設の改修や建て替えが重なってしまい、ライブやコンサートのみならず、バレエや伝統芸能やクラシック音楽の公演会場を予約できなくなってしまう問題である[1]。青山劇場や五反田ゆうぽうとなどの閉鎖により、10年間で約2万5,000席分が失われた。2013年までに、新宿コマ劇場・東京厚生年金会館・九段会館講堂・普門館大ホール・横浜BLITZなど閉鎖施設が相次ぎ、それが会場不足に拍車を掛けている[3]。
さらに大型の会場(アリーナ級)が使えないため、大規模な公演を行う開催者が中規模会場(ホール級)の複数日程占有に走り、さらにその煽りを受けて中小規模の開催者が、ホール級から小規模な会場(ライブハウスなど)の占有に走る、と言う連鎖的な事象により、多くの会場の稼働率がほぼ100パーセントとなり、全体的に会場不足が深刻化している[4][5]。
また、全国ツアー公演を行う開催者にとっては、首都圏・関西圏など、大都市圏以外の地方公演は、大都市圏での公演の利益を元手にして、地方公演での利益僅少ないし赤字を補填していることが多いことから、首都圏以外の地方会場の存在が、首都圏の会場不足の穴埋めとなるものではないとしている[2]。利用できる会場が減る中で、ライブの需要は増え続けており、2014年の観客動員数は2008年の2倍となっている[6]。
2016年問題の直接の影響を受けた団体等は、1月の段階で存在しつつある。乃木坂46はデビュー記念ライブの開催延期を決定している[7]。
2016年5月、東京都庁は緊急の取り組みとして、ホールや野外コンサート会場の情報収集、日本国政府への提言を行っている[8]。
一方で、近年の新規開業や計画としてZepp Divercity(2012年)、EX THEATER ROPPONGI(2013年)、KT Zepp Yokohama(2020年春)、Zepp Haneda (TOKYO)(2020年夏)、大阪圏でもZepp Osaka Bayside(2017年2月)などがあり、主要アリーナ級会場の閉鎖も一部では比較的短期間であり、またこれまでの交通至便な東京・横浜中心部から、やや離れた郊外の公共ホール会場に開催を移す動きもあり、「2016年問題」はそこまで深刻ではないと言う意見もあった。また、施設会場の供給が細くなる分の埋め合わせとして、夏に「ロック・フェスティバルを増やすこと」によって、不足分をカバーするという意見もあった[9]。
背景
[編集]日本経済新聞は、この問題の原因の1つとして特に、民主党政権における「事業仕分け」を挙げており、一例として東京厚生年金会館の閉鎖を指摘する。また、バブル期に建設された建物が、東日本大震災を受けて耐震補強工事も含めて施設改修時期に差し掛かっている事もあり、さらに前述の2020年の東京オリンピックに向けての施設改修も追い打ちを掛けている、としている[3]。
その後
[編集]コンサートプロモーターズ協会の統計によれば、2016年の年間公演回数・動員数は前年を超えたものの伸び率は従来より鈍化、総売上額は若干の前年割れであった[10]。リアルサウンドの久蔵千恵は、2018年の記事で「さほど大きな問題ではなかったように映る」「東京オリンピックの会期前後に会場が使用できないことのほうが問題」と評した[10]。
ぴあ総研の統計によれば、2016年のライブ・エンタテインメント市場[11]の規模は5年ぶりの前年割れであった[12]。「主に音楽市場において大規模会場(アリーナ級)での公演回数が減少し、1公演あたりの動員数が低下した」ことにより伸び悩んだが、「動員1人あたりの単価は上昇しており、市場規模の減少は比較的軽微に留まった」との見解を示している[12]。
2019年時点で会場不足はほぼ元の状態に戻り、大規模会場(アリーナ級)についてはより充実していく見込み[13]。ただし、2000人程度の中規模会場(ホール級)についてはいまだ不足ぎみである[13]。
2017年以降のライブ・エンタテインメント市場は右肩上がりで拡大していったが、新型コロナウイルス感染症の世界的流行により2020年の市場規模は激減することとなる[14]。
関連する施設
[編集]2016年前後に改修や建て替え、閉鎖される主要な施設。[1][5][15][16][17][18][19]なお、短期間の一時閉鎖や営業を続けながらの改修工事については原則として含めていない。△は再開済みの施設。
- 2014年 - 2016年
-
- SHIBUYA-AX - 2014年に閉鎖
- △国立競技場(国立霞ヶ丘競技場陸上競技場→国立競技場) - 2014年から建て替えのため閉鎖、2019年12月開場
- 青山劇場 - 2015年1月に閉鎖、改修が計画されたが断念[20]
- 津田ホール - 2015年3月に閉鎖、2018年に解体され現在は広場「梅公園」として整備[21]
- △日本青年館 - 2015年3月に移転のため閉鎖、2017年8月に移転再開済み[22][23]
- ゆうぽうと - 2015年9月に閉鎖、多目的ホールを含む後継施設「五反田JPビルディング」が2024年4月に開業
- △渋谷公会堂[24] - 2015年10月建て替えのため閉鎖、2019年10月に再開済み[25][26]
- △横浜アリーナ - 2016年1月 - 7月に改修のため閉鎖(再開済み)[27]
- △さいたまスーパーアリーナ - 2016年2月改修のため閉鎖(5月に再開済み)[28]
- △豊島公会堂 - 2016年2月に建て替えのため閉鎖、2019年11月に東京建物 Brillia HALLがオープン[29]
- 日比谷公会堂 - 2016年4月に改修工事のため閉鎖、再開は2029年頃を予定
- 2017年 - 2020年
地方での2016年問題類似の事象
[編集]首都圏のほか、もともとライブ施設の供給が潤沢でなかったり、特定の少数施設に対する依存度が高い地方でも同様の問題が取り上げられることもある。
福岡圏
[編集]西日本新聞[40] は、福岡市・福岡都市圏において、Zepp Fukuokaの閉鎖(2016年5月)を例に挙げている。福岡圏・九州圏においてほぼ唯一の大型ライブハウス(いわゆる「大箱」)が無くなる事の影響の大きさを取り上げている。また、首都圏のように2016年直近の問題ではないが、近年Zepp Fukuokaを始め福岡圏でも施設会場の閉鎖などが増加傾向にあることを指摘している。なおZepp Fukuokaは2018年12月に再開した[41]。
福岡圏では、公共事業や商業施設の再開発に伴い、施設会場の一時閉鎖や移転を余儀なくされる事例が増加傾向である。2015年12月時点の「HKT48劇場」は、ホークスタウンモールの再開発事業に伴い退去。福岡市民会館は、詳細未定であるが、近年の建て替え移転予定が取り沙汰されている[42]。福岡サンパレスは、博多港地区のウォーターフロント再開発事業に伴い、詳細は未だ決まっていないが、新設移転(代替ホールを新たに建設、移転してから閉鎖予定)なども取り沙汰されている。その一方で、福岡県久留米市の「久留米シティプラザ ザ・グランドホール」の新規開設(2016年4月)などもある。[43][44]
- 2016年頃までに閉鎖済みなど
- (△は再開済み、再開予定(半年以内)の施設)
- 2016年頃以降に改装、閉鎖などの予定があるもの
名古屋圏
[編集]産経新聞では、名古屋市圏での会場不足問題を「(平成)30年問題」(2018年)として取り上げている[50]。2016年頃から会場の閉鎖、閉鎖予定が相次いでおり逼迫的状況にあるとする。
- 2016年頃までに閉鎖済みなど
- (△は再開済み、再開予定(半年以内)の施設)
- 2016年以降に改装、閉鎖などの予定があるもの
脚注・出典
[編集]- ^ a b c “コンサートが観られなくなる?「劇場・ホール2016年問題」”. BARKS (2015年11月5日). 2015年11月7日閲覧。
- ^ a b “サカナ山口ら会見 ライブ会場『2016年問題』時期の調整、代替施設確保訴える”. オリコン (2015年11月5日). 2015年11月7日閲覧。
- ^ a b 日本経済新聞社・日経BP社. “ホール・劇場不足、「2016年問題」はなぜ起きた?|エンタメ!|NIKKEI STYLE”. NIKKEI STYLE. 2019年5月27日閲覧。
- ^ “ライブ会場が足りない 「2016年問題」歌手ら訴え”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). (2015年11月5日) 2015年11月7日閲覧。
- ^ a b “サカナ山口ら会見 ライブ会場『2016年問題』時期の調整、代替施設確保訴える”. オリコン (2015年11月5日). 2015年11月7日閲覧。(画像)
- ^ “「ライブ会場足りない、特に収支がとれるハコが危機的」歌手ら訴え【2016年問題】”. ハフィントンポスト日本語版 (2015年11月6日). 2015年11月7日閲覧。
- ^ “乃木坂46、デビュー記念ライブ開催延期 「2016年問題」余波”. オリコン (2015年12月21日). 2016年1月13日閲覧。
- ^ “ホール・劇場等問題に関する東京都の緊急の取組について|東京都生活文化局”. www.seikatubunka.metro.tokyo.jp. 2019年5月27日閲覧。
- ^ “ライブ会場が不足「2016年問題」「もはや手遅れ」との声も”. NEWSポストセブン (2016年1月3日). 2015年1月13日閲覧。
- ^ a b 久蔵千恵 (2018年4月7日). “ライブ会場不足、本当に深刻化するのは“東京五輪前後”? 関東のアリーナ&ホール新設の傾向を探る”. Real Sound|リアルサウンド. 2023年5月12日閲覧。
- ^ 「音楽コンサート」「ステージでのパフォーマンスイベント」の合計。
- ^ a b “ライブ会場不足問題が表面化。2016年ライブ・エンタテインメント市場は微減となるも、高水準を維持/ぴあ総研が調査結果を公表”. ぴあ株式会社 (2017年9月1日). 2023年5月12日閲覧。
- ^ a b “ホール不足のライブ業界が注目 ユニークな多目的ライブ会場誕生”. ORICON NEWS (2019年10月30日). 2023年5月12日閲覧。
- ^ “2020年1月〜12月のライブ・エンタテインメント(音楽・ステージ)市場規模は8割減 /ぴあ総研が確定値を公表”. ぴあ株式会社 (2021年5月13日). 2023年5月12日閲覧。
- ^ “新国立の白紙撤回で深刻化 ライブ会場の2016年問題”. 日経エンタテインメント (2015年10月22日). 2015年11月7日閲覧。
- ^ http://www.asahi.com/articles/ASG7R4F5CG7RULFA012.html[リンク切れ]
- ^ http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015092790070819.html[リンク切れ]
- ^ “次々に閉館!劇場の「2016年問題」もはや打つ手なし?音楽イベントがピンチ”. 日経ビジネス (2015年12月14日). 2016年1月13日閲覧。
- ^ “ライブ会場が不足する「2016年問題」が、いよいよ表面化している”. ニューズウィーク (2016年4月28日). 2016年7月2日閲覧。
- ^ “旧「こどもの城」“都民の城” 改修を断念 計画の経緯や今後は”. NHK首都圏ナビ (2022年5月30日). 2023年5月12日閲覧。
- ^ “津田塾大学 総合政策学部 基本情報”. 大学ポートレート. 日本私立学校振興・共済事業団. 2023年5月12日閲覧。
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- ^ “【10月開業、こけら落とし公演はPerfumeに】新公会堂、名称は「LINE CUBE SHIBUYA」”. 【10月開業、こけら落とし公演はPerfumeに】新公会堂、名称は「LINE CUBE SHIBUYA」 ~ 日刊建設工業新聞ブログ (2019年5月15日). 2019年5月27日閲覧。
- ^ “渋谷公会堂の新名称は「LINE CUBE SHIBUYA」、こけら落とし公演にPerfume” (2019年5月14日). 2019年11月1日閲覧。
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- ^ http://kurumecityplaza.jp/shisetsu/the_grandhall.html
- ^ “インフォメーション | Billboard Live(ビルボードライブ)”. www.billboard-live.com. 2018年11月27日閲覧。
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- ^ pj-design (2018年9月14日). “「Zepp Fukuoka」2018年12月7日に復活! こけら落とし公演は『SMAのド自慢』に決定!”. Zeppホールネットワーク. 2018年12月12日閲覧。
- ^ “福岡の通年公演、劇団四季が復活 キャナルシティ劇場で29年6月から”. 産経新聞 (2015年9月27日). 2015年10月14日閲覧。
- ^ a b c d e f g “【東海の議論】ブラタモリは来たが…マドンナもマイケルも「名古屋飛ばし」 コンサートが会場不足で開けない「30年問題」の深刻さ” (日本語). 産経WEST. (2017年6月19日) 2018年11月27日閲覧。
関連項目
[編集]- 2016年の音楽
- 2019年展示場問題 - 東京ビッグサイトなどの大型展示場が2020年東京オリンピック開催のための準備作業の始まる2019年夏からパラリンピックが閉幕する2020年9月までの期間、他の催しに使用できないため、東京モーターショー、東京おもちゃショー、コミックマーケット等のイベントに影響が出る。