コンテンツにスキップ

電子政府

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

電子政府でんしせいふ: E-government、eGov、e-gov)とは、主にコンピュータネットワークデータベース技術を利用した政府を意味する。また、そのような技術の利用によって政府の改善、具体的には行政の効率化やより一層の民意の反映・説明責任の実行などを目指すプロジェクトを指す。

概要

[編集]

最も単純な形態としては、イントラネットの導入による行政処理の効率化や、ウェブサイトにおける行政活動の紹介、情報公開、行政サービスに関する情報の提供が挙げられる。

より複雑な技術的、組織的取組を伴うものとしては、行政サービスの提供をオンライン(ウェブサイトや専用端末の専用インターフェースなど)で行うものがある。これは一般市民に対して住民票を提供するようなサービスもあれば、行政が管轄下の事項に関する各種の申請手続を電子的に、すなわちウェブサイトや電話回線を利用した通信で、受け付けるものなどもある。

英語でe-Governmentと称されるプロジェクトは、Governmentの定義が必ずしも行政府に限定されず、電子投票、市民立法など立法部門に関わる電子技術の活用も含むことがある。司法についても並行する動き(電子司法[1]電子裁判英語版)がある。日本では日本経済再生本部で平成29年(2017年)から裁判手続等のIT化検討会が行われた[2]

関連して、政策論議や世論調査、立法府の投票、行政へのパブリックコメントなどを電子的に行ういわゆる電子民主主義の試みがある。

取引を伴う場合には、電子商取引と同じく、セキュリティ暗号化電子認証個人情報保護などの技術的、政策的問題が関わることになる。

用語
  • Government to Citizen(G2C) ‐ 電子政府から国民、市民へ
  • Government to Business(G2B) ‐ 電子政府から企業へ
  • government-to-employees (G2E) - 電子政府から雇用者へ
  • government-to-government(G2G) ‐ 電子政府から政府・行政機関へ
  • C2G ‐ 市民から電子政府へ。電子行政参加英語版(e-participation)
  • 各公共部門内(InG)

各国の取り組み

[編集]

詳しくはen:E-government#By_country[3]

ウクライナ

[編集]

2020年にアプリ『Diia英語版』(ウクライナ語: Дія)がリリースされた。戦時下においても行政手続きが行え[4]、政府へ様々な戦場の情報を提供し[5]、身分証やワクチン接種証明書などの公的な証明提示にも使われる[6]

エストニア

[編集]

エストニアは世界で最も発達した電子政府国家である[7]。2023年9月25日時点で、唯一離婚以外の行政手続きは全てオンラインで出来る。しかし、唯一出来ないオンラインでの離婚手続きも2024年には出来るようになる見込みである[8]。結婚、不動産売買、免許証更新、出生届、死亡届、住所登録など2500を超える行政サービスが全て含まれる[9]

選挙も電子投票が可能で、2023年3月5日に行われた議会選挙では、電子投票率が紙での投票率を超えた[10]。また、若者の投票率は低いものの、日本よりは高く、若者においては電子投票率が6割を超えている。さらに、現在ではパソコンからの投票しか出来ないが、早ければ2024年にはモバイル端末でも投票が可能となるため、投票率の上昇が予想されている[11]

日本

[編集]

日本では、1994年高度情報通信社会推進本部の設立、行政情報化推進計画の策定から始まり、2000年12月に高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)が制定された。これに基づき2001年作成されたIT基本戦略(後のe-Japan戦略)によって電子政府の実現は重点政策課題のひとつとされた。

日本政府は、2018年には「デジタル・ガバメント実行計画」を閣議決定。「デジタル・ガバメント」を「サービス、プラットフォーム、ガバナンスといった電子政府に関する全てのレイヤーがデジタル社会に対応した形に変革された状態」と定義し、「電子政府」の発展的段階としてIT国家戦略の中心概念とした[12][13]。デジタル技術を使って、手続のワンストップ化を実現することを謳った[14]。その後、2019年12月20日に閣議決定[15]

2020年9月に発足した菅義偉内閣は、デジタル庁設置など、デジタル・ガバメント実現に向けた取組みの加速・強化を重要施策として掲げた[16]

「e-Gov」(イーガブ、e-gov.go.jp)と名付けられた総務省行政管理局、現在はデジタル庁が運営するポータルサイト[17]、電子申請の窓口は「e-gov電子申請」などがある。

アメリカ

[編集]

アメリカではクリントン政権のNII構想に「インターネットによる政府情報へのアクセス提供」が盛り込まれ、Government Paperwork Elimination Actを策定し、電子ファイルと電子署名の利用を促進するとともに、トランザクション(情報の受発信)について、2003年までにオンライン化を実現することを目標とした[18]。NII構想では具体的に税務申告手続の電子化、紙による文書作成の撤廃、政府の総調達でのEDI化などを挙げている[18]

また、電子政府計画の“E-GOVERNMENT” INITIATIVESに基づいて、連邦政府がオンラインで提供する全ての情報を集約した公式ホームページ「FirstGov」を開設している[18]

イギリス

[編集]

イギリスでは1999年4月に全行政手続の電子化を目標としたModernizing Governmentを策定した[18]

1999年にGSI(Government Secure Intranet)に全省庁のシステムを統合させており、地方公共団体や医療機関への接続を推進している[18]。2004年までに新しい公文書をすべて電子化し、2000年までに政府調達手続の90%を電子化するとし、2005年に全行政手続の電子化を実現することを目標とした[18]

出典

[編集]
  1. ^ 裁判手続等のIT化検討会 第2回 議事要旨
  2. ^ 裁判手続等のIT化検討会- 日本経済再生本部”. 首相官邸ホームページ. 2021年12月7日閲覧。
  3. ^ 総務省|平成25年版 情報通信白書|電子政府推進にかかる諸外国の動向”. 総務省(www.soumu.go.jp). 2024年3月15日閲覧。
  4. ^ 情報ライブ ミヤネ屋|記事|読売テレビ”. 情報ライブ ミヤネ屋|読売テレビ. 2023年11月23日閲覧。
  5. ^ スマホが変えた戦争 市民から4000件の情報提供も…ウクライナの戦略”. 毎日新聞. 2023年11月23日閲覧。
  6. ^ 海外の「ワクチン証明書アプリ」の実情とは? ウクライナ、トルコからレポート”. Real Sound|リアルサウンド テック (2021年12月28日). 2023年11月23日閲覧。
  7. ^ 在エストニア日本国大使館”. Ministry of Foreign Affairs of Japan. 2023年9月24日閲覧。
  8. ^ IT先進国「エストニア視察記」前編|なんでもオンライン化で経済成長 - MKメディア”. MKメディア - (2023年6月1日). 2023年9月24日閲覧。
  9. ^ powerinteractive (2022年4月22日). “世界が注目する「電子国家」エストニア 国家規模のDXがもたらすものとは”. マーケティングブログ | パワー・インタラクティブ. 2023年9月24日閲覧。
  10. ^ 議会選で電子投票による票数が制度導入以来初めて過半数に(エストニア、欧州) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース”. ジェトロ. 2023年9月24日閲覧。
  11. ^ 2023年のエストニア国政選挙におけるインターネット投票について”. Japan Estonia/EU Association for Digital Society. 2023年9月24日閲覧。
  12. ^ 清水 響子 (2018年5月18日). “電子政府が衣替え?「デジタル・ガバメント実行計画」”. IT Leaders. 2021年12月7日閲覧。
  13. ^ 内閣官房IT総合戦略室「デジタル・ガバメントの推進について」
  14. ^ 内閣官房IT総合戦略室「死亡・相続ワンストップサービスの検討状況について」
  15. ^ デジタル・ガバメント実行計画”. 政府CIOポータル. 2021年8月22日閲覧。
  16. ^ 大豆生田崇志=日経クロステック/日経コンピュータ (2020年9月18日). “菅新政権の「デジタル庁」構想、焦点は人事権と内製化に”. 日経クロステック(xTECH). 2021年12月7日閲覧。
  17. ^ 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ総務省
  18. ^ a b c d e f 平成13年版 情報通信白書 6 海外における電子政府の動向”. 総務省. 2022年7月27日閲覧。

参考文書

[編集]
  • 電子政府のガバナンス: 拡張型技術演用枠組みからの一考察 著:藤井秀之、編:東京大学行政学研究会 ISSN 1349-9971

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]