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都道府県警察航空隊

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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

都道府県警察航空隊(とどうふけんけいさつこうくうたい)は、都道府県警察本部警備部に所属する執行隊の一つであり、ヘリコプターなどの航空機を運用して各種警察活動を行う組織である。

来歴

警察庁では、昭和35年度から各都道府県警察へのヘリコプターの導入を開始し、昭和38年度までにピストンエンジンの小型ヘリコプター6機を配備して、警視庁大阪福岡北海道を拠点として、おおむね管区単位で広域運用を図った。その後、昭和41年度で大阪府警察に川崎/ベルKH-4 1機が導入されたものの、これは同年の全日空松山沖墜落事故に伴う二重遭難事故で失われた機体の補充機であり、1960年代を通じて、国有機6機の体制が維持された[1]

この間、ヘリコプターの改良発達はめざましく、また警察用航空機の需要も著しく増大していた[1]。これに応じて、警視庁では、1968年に富士-ベル204Bを追加導入していた[2]。また昭和46年度からは国有機の増強も開始されたが、こちらもいずれもターボシャフトエンジン搭載の高性能機とされた[1]

大規模災害対応における運用が増加し、広域運用の強化などによる災害対処能力の向上が求められていることなどを踏まえ、航空機の運用に万全を期すため、警察法施行令(昭和二十九年政令第百五十一号)十三条の規定に基づき、警察用航空機の運用等に関する規則を改正施行(令和三年国家公安委員会規則第一号)し、令和3年度から航空機の運用事務を地域部門から警備部門に移管した。

任務

主な任務は以下のとおりである。

  • 災害その他の場合における警備実施
  • 警ら、遭難者の捜索救助その他の警察業務の支援

具体例としては

  • パトロール(警ら)活動
  • 犯人の捜索・追跡活動
  • 交通状況調査、交通情報の提供、交通安全広報活動
  • 公害事案の監視活動
  • 廃棄物不法投棄等の監視活動

また、山岳警備隊などが設置されている地域の航空隊では、遭難者の救助活動を担当している。さらに、大規模災害が発生した際には、広域緊急援助隊を速やかに被災地に派遣し、ハイジャックやテロ事件等の重大事件が発生した際には、特殊部隊 (SAT)を現場に展開させるなどの任務にも当たる。

都道府県や政令指定都市消防局の消防防災ヘリコプターが運行出来ない場合、要請により、離島・僻地からの救急搬送に出動する。

機材

通常、航空隊が使用するヘリコプターは、警察庁が購入した国有財産であるが、一部のヘリコプターは都府県が購入しており、自治体所有となっている。ヘリコプターの機種や配備数は都道府県警察により異なるが、以下の機種が使用されている(2015年2月現在)。

塗色は機首が黒色、機体はオレンジ色の縦帯を巻いた空色と銀色のツートーン。これは全国で共通。メインローターは白と赤の縞模様で統一されているが、テールローターは赤白と黒白の2種類が存在する。

一部の整備は朝日航洋などの民間企業に委託されている[3]

装備

一部のヘリコプターに設置されている装備として、以下のものが挙げられる。

  • ヘリコプターテレビシステム
    振動で映像が乱れない「防振カメラ」を機体外部に設置し、地上の状況を中継するシステム。通称「ヘリテレ」と呼ばれている。
  • 赤外線カメラ
    夜間飛行用のカメラ。機体外部に設置されている。
  • レスキュー・ホイスト
    ケーブルを電動または油圧を用いて巻き上げる救助用のウインチ。機体側面に設置されている。救助隊員が降下し、要救助者を吊り上げて収容する際に使用。

この他に、遭難者救助用の各種機材をヘリコプターに搭載する。

都道府県警察航空隊の使用機種一覧
区分 機種 メーカー 配備先 備考
小型 ベル 206 ベル・ヘリコプター・テキストロン 神奈川 大阪
ベル 429 ベル・ヘリコプター・テキストロン 長崎
EC135 ユーロコプター 警視庁 北海道 埼玉 福井 大阪 徳島 高知 宮崎福岡
A109 アグスタ 警視庁 北海道 宮城 山形 福島 群馬 埼玉 神奈川
新潟 静岡 愛知 三重 滋賀 奈良 兵庫 岡山
鳥取 島根 広島 山口 愛媛 佐賀 大分 沖縄
BK117 川崎重工業 MBB共同開発 秋田 岩手 茨城 栃木 埼玉 千葉 神奈川 愛知 石川
京都 和歌山 熊本
中型 ベル 412 ベル・ヘリコプター・テキストロン 警視庁 北海道 青森 福島 山梨 新潟 愛知 岐阜
大阪 福岡 鹿児島
AS365ドーファン ユーロコプター 神奈川 長野 静岡 広島 福岡 沖縄
EC155 ユーロコプター 警視庁 兵庫 AS365の改良型
S-76B シコルスキー・エアクラフト 兵庫 香川
AW139 アグスタウェストランド 警視庁 北海道 宮城 福島 千葉 新潟 長野 富山 大阪 鹿児島
大型 S-92 シコルスキー・エアクラフト 警視庁 2020年4月に登録抹消[4]
EH101 アグスタウェストランド 警視庁 2018年6月に登録抹消
EC225/H225 エアバス・ヘリコプターズ 警視庁 福岡 沖縄

テロ対策機

北海道警察「だいせつ3号」

近年、一部地域の航空隊に、テロ対策機能を強化したヘリコプターが配備されている。これは中型ヘリコプターベル 412EPに、夜間飛行用の赤外線カメラや、電線を切断するためのワイヤーカッター等を装備したもので、機体は抗弾仕様であると言われている。

テロ対策機は、特殊部隊(SAT)と連携して運用するため、SATが置かれている都道府県警察に配備されている。

また、各機体の所属、名称、登録番号は以下のとおりである。

これらのヘリコプターは必ずしも「SAT専用機」ではなく、航空隊の警戒飛行にも使用される。また、大規模災害が発生した際には、災害支援ヘリコプターとして広域緊急援助隊などが使用する。

なお千葉県警察神奈川県警察沖縄県警察にはSATが置かれているが、ベル 412EPは配備されていない。これらの県警察には、中型ヘリコプターAS365ドーファンや、AW139が配備されている。

隊員

隊員は操縦士、「ヘリコプターテレビシステム」等の操作や救助要員として搭乗する特務員、整備士等に分かれている。

自衛隊海上保安庁に比べ人数が少ないため、効率の観点から操縦士や整備士の内部養成は行っていない。操縦士は警視庁航空隊のように選抜した警察官を外部の養成所(陸上自衛隊航空学校など)に派遣する余裕のある自治体は少なく、多くは自衛隊や民間からの中途採用に頼っている[5]。また整備士も航空関係の専門学校から新卒採用するか、民間から中途採用している[6]

通常、隊長・操縦士などは警察官だが、整備士は警察職員であることも多い。専門職であるため基本的に異動はない[6]

整備士はヘリに搭乗してヘリテレ操作やホイスト操作も行う[6]など、自衛隊の航空士に近いシステムである。

配備機一覧

都道府県警察に配備され、現役で稼働中のヘリコプターは以下のとおりである(2023年6月現在)。

都道府県警察航空隊の配備機一覧
管区 都道府県 愛称 機体番号 機種 基地 所有 備考
北海道警察航空隊北海道警察 だいせつ1 JA04HP AW139 札幌飛行場 警察庁
だいせつ2 JA05HP AW139
だいせつ3 JA01HP ベル 412EP テロ対策機
ぎんれい1 JA03HP A109E
ぎんれい2 JA21DK H135 帯広空港 帯広分遣隊
東北管区警察局 青森県警察航空隊青森県警察 はくちょう JA826A ベル 412EP 青森空港 警察庁
岩手県警察航空隊岩手県警察 ぎんが JA412X SUBARU BELL 412EPX 花巻空港 警察庁
秋田県警察航空隊秋田県警察 やまどり JA005Y BK117D-3 秋田空港 警察庁
宮城県警察航空隊宮城県警察 くりこま JA109M A109E 霞目飛行場 警察庁
まつしま JA139M AW139
山形県警察航空隊山形県警察 がっさん JA80GT A109E 山形空港 警察庁
福島県警察航空隊福島県警察 ばんだい JA110B A109E 福島県警察ヘリポート 警察庁
あずま2 JA139F AW139 保管
警視庁航空隊警視庁 おおとり1 JA11MP EC155-B1 立川飛行場 東京都
おおとり2 JA12MP AW139 東京ヘリポート 東京都
おおとり3 JA13MP AW139 立川飛行場 警察庁
おおとり4 JA14MP AB139 東京ヘリポート 東京都
おおとり5 JA15MP EC155-B1 立川飛行場 東京都
おおとり6 JA19MP SUBARU BELL 412EPX 警察庁
おおとり7 JA17MP ベル 412EP 警察庁
おおとり8 JA18MP ベル 412EP 警察庁 テロ対策機
はやぶさ1 JA36MP AW109S 東京都 黒色
はやぶさ2 JA32MP EC135-T2+ 警察庁
はやぶさ3 JA35MP AW109S 東京都 黒色
はやぶさ4 JA34MP A109E 警察庁
おおぞら1 JA03MP H215(AS332L1 Super Puma) 東京ヘリポート 東京都
おおぞら2 JA04MP H225(EC225LP Super Puma Mk2+) 立川飛行場 警察庁 2022年5月更新

(ベルーガ)

関東管区警察局 茨城県警察航空隊茨城県警察 ひばり JA18RK H135 百里飛行場 警察庁
栃木県警察航空隊栃木県警察)  なんたい JA15TP BELL 429 宇都宮飛行場 警察庁 2022年4月更新
群馬県警察航空隊群馬県警察 あかぎ JA01GP A109E 群馬ヘリポート 警察庁
埼玉県警察航空隊埼玉県警察 さきたま JA310A EC135-P2+ 入間基地 埼玉県
むさし JA634P BK117D-3 警察庁 2022年1月更新
みつみね JA323N A109E 警察庁
千葉県警察航空隊千葉県警察 かとり1 JA91CP AW139 成田国際空港 警察庁
かとり2 JA92CP H135 2022年1月更新
かとり3 JA93CP BK117C-2
神奈川県警察航空隊神奈川県警察 はまかぜ JA14KP A109SP 横浜ヘリポート 警察庁
おおやま JA16KP BK117C-2
たんざわ JA03KP AS365-N3
かもめ JA07KP ベル 206L-4 神奈川県
新潟県警察航空隊新潟県警察 ときかぜ JA01NP ベル 412EP 新潟空港 警察庁
はるかぜ JA02NP A109E
こしかぜ JA13NP AW139
山梨県警察航空隊山梨県警察 はやて JA110Y ベル 412EP 山梨県警察ヘリポート 警察庁
長野県警察航空隊長野県警察 やまびこ1 JA01EE AW139 松本空港 警察庁 2023年2月更新
やまびこ2 JA220E AW139
静岡県警察航空隊静岡県警察)  ふじ2 JA23PC AW139 静浜基地 警察庁 納入待ち
ふじ3 JA13PC A109E
中部管区警察局 富山県警察航空隊富山県警察 つるぎ JA139T AW139 富山空港 警察庁
石川県警察航空隊石川県警察 いぬわし JA14PE Bell 429 石川県警察ヘリポート 警察庁 2022年4月更新
福井県警察航空隊福井県警察 くずりゅう JA110K EC135-T2+ 福井空港 警察庁
岐阜県警察航空隊岐阜県警察 らいちょう2 JA110G ベル 412EP 岐阜基地 警察庁
愛知県警察航空隊愛知県警察 あけぼの JA21AP ベル 412EP 名古屋飛行場 警察庁 テロ対策機
あさやけ1 JA11AP BK117C-2
あさやけ2 JA6816 BK117C-1
あかつき JA6922 A109E
三重県警察航空隊三重県警察 いせ JA06ME A109E 津市伊勢湾ヘリポート 警察庁
すずか JA10ME A109E
近畿管区警察局 滋賀県警察航空隊滋賀県警察 いぶき JA110P A109E 滋賀県警察ヘリポート 警察庁
京都府警察航空隊京都府警察 みやこ JA6004 A109E 京都府警察ヘリポート 警察庁
へいあん JA6818 BK117C-1
大阪府警察航空隊大阪府警察 つばさ JA10PD EC135-P2+ 八尾空港 警察庁
はやかぜ JA6523 AW139
ちはや JA20PD H135 2022年3月更新
まいしま JA6868 ベル 412EP テロ対策機
おおわし JA6196 AW139
せんなり JA6956 ベル 206L-4 大阪府
兵庫県警察航空隊兵庫県警察 ひよどり JA110H アグスタ A109E Power 大阪国際空港 警察庁
フェニックス JA155H エアバス・ヘリコプターズ EC155B1
奈良県警察航空隊奈良県警察 あすか JA110A A109E 奈良県ヘリポート 警察庁
和歌山県警察航空隊和歌山県警察 きのくに JA03WP EC135-P3 南紀白浜空港 警察庁
中国管区警察局 鳥取県警察航空隊鳥取県警察 さきゅう JA39GE A109SP 鳥取空港 警察庁
島根県警察航空隊島根県警察 ちどり JA02PC A109E 出雲空港 警察庁
岡山県警察航空隊岡山県警察 わしゅう JA110W A109E 岡南飛行場 警察庁
広島県警察航空隊広島県警察 みやじま2 JA22HP A109E 広島ヘリポート 警察庁
みやじま1 JA11HP AS365-N3
山口県警察航空隊山口県警察 あきよし JA10YP A109E 山口宇部空港 警察庁
四国管区警察局 徳島県警察航空隊徳島県警察 しらさぎ JA110T EC135-T2+ 徳島空港 警察庁
香川県警察航空隊香川県警察 さぬき JA110U EC155-B1 高松空港 警察庁
愛媛県警察航空隊愛媛県警察 いしづち JA03EP A109E 松山空港 警察庁
高知県警察航空隊高知県警察 くろしお JA02KP EC135-T2+ 高知空港 警察庁
九州管区警察局 福岡県警察航空隊福岡県警察 とびうめ1 JA03FP AS365-N3 奈多ヘリポート 警察庁
とびうめ2 JA01FP ベル 412EP テロ対策機
さちかぜ JA02FP EC135-P2+
ふくたか JA002P EC225LP Super Puma Mk2+ 国境離島警備隊
佐賀県警察航空隊佐賀県警察 かささぎ JA023G A109SP 佐賀空港 警察庁
長崎県警察航空隊長崎県警察 さいかい JA03NP ベル 429 長崎空港 警察庁
熊本県警察航空隊熊本県警察 おおあそ JA010K EC135-P3 熊本空港 警察庁
大分県警察航空隊大分県警察 ぶんご JA971V A109E 大分空港 警察庁
宮崎県警察航空隊宮崎県警察 ひむか JA110M EC135-T2+ 宮崎空港 警察庁
鹿児島県警察航空隊鹿児島県警察 はやと JA15KP AW139 鹿児島空港 警察庁
沖縄県警察航空隊沖縄県警察 しまもり JA01RP AW139 那覇空港 警察庁
なんぷう JA22RP A109E
うりずん JA001P EC225LP Super Puma Mk2+ 国境離島警備隊

事故・インシデント

  • 2002年6月15日、上空から不審者の追跡をしていた新潟県警ヘリコプター「ゆきかぜ」(ベル206L-3)が墜落した。搭乗者3人のうち県警航空隊長が左腕骨折などで3か月の重傷、操縦していた副操縦士と整備係員が軽いけがを負った。立ち木に接触したと考えられている。
  • 2005年5月3日、交通渋滞の状況を調べていた静岡県警ヘリコプター「ふじ1号」(A109K2)が住宅街に墜落、炎上した。搭乗者5人全員が死亡したほか、アパートの屋根の一部を壊した。事故原因は燃料切れとされている。
  • 2020年2月1日朝、会津[註 1]から福島空港[7]移植のための心臓を運んでいた[8]福島県警ヘリコプター「あづま2」(AW139)が郡山市内の田に墜落・横転した。移植用心臓は福島空港からチャーター機羽田空港に移送され、東大病院へ運ばれる予定であった。事故後心臓はパトカーで福島空港に運ばれ、当初予定のチャーター機で羽田に移送、東京消防庁のヘリで東大病院に届けられたが、到着が遅れたこと等で移植した場合に心臓がうまく動くか保証できないと医師が判断し、移植は断念された[7]。搭乗者7人(警察官3人・整備士2人・医療関係者2人[8])全員が怪我を負い、うち福島県警地域企画課長や男性医師らの4人が重傷だった[7]

脚注

注釈

  1. ^ 会津若松市竹田綜合病院で摘出された心臓をヘリポートのある会津中央病院から、福島空港に向けて搬送する途中だった

出典

参考文献

  • 警察庁警察史編さん委員会 編『日本戦後警察史』警察協会、1977年。 NCID BA59637079 

関連項目

外部リンク