王道進行
王道進行(おうどうしんこう)または小悪魔コード進行(こあくまコードしんこう)は、J-POPにおいて多用される「IV△7–V7–iii7–vi」で表されるコード進行である[1][2][3][4][5][6]。七の和音の下属音・属音・中音に下中音を加えた構成で、例えば、ハ長調であれば「F△7–G7–Em7–Am」となる[7]。また、代理コードによるバリエーションとして、「iii7」を「III7」にしたもの、「IV△7」を「ii9」にしたものなども含まれる[1][2]。
概要
[編集]1990年代以降、J-POPの特にサビの部分において多用されるコード進行で、日本人が好む「抒情的」あるいは「せつない」雰囲気の曲調を生み出すことができるとされている[8]。「王道進行」という名称は、2008年、ニコニコ動画に投稿された動画内で「音極道」を名乗る音楽家が命名したものである[1][2][3][8]。一方で、「小悪魔コード進行」という名称は、2014年、NHK教育テレビジョンの音楽教養番組『亀田音楽専門学校』内で亀田誠治が命名したもので[4][5]、明るい和音(V7)から暗い和音(iii7)へ変移する瞬間を遊び人の失恋に擬えて表現したものである。
音極道は王道進行について、1980年代に流行したユーロビートにおいて多用されていたが、1990年代に流行が世界的に下火になった後も日本人の耳に残り、以降、J-POPにおいて乱用が続いていると批判的に指摘した[1][2]。亀田は王道進行について、明るい和音が続くと思わせて暗い和音に繋がる、「迫ってきたと思ったら突き離される、答えが出ない情景を作り出すコード」であると分析している[4][5]。また、『亀田音楽専門学校』にゲスト講師として出演したスキマスイッチの大橋卓弥は、「音楽を始めたころに一番初めに覚えたコード進行。これを知っておけば色々な楽曲を弾けるようになる」「このコードは色んな結末に行けるし、どのコードの間にも入れる」とJ-POPにおける王道進行の汎用性の高さを指摘している[4][5]。
経済学者の高増明は、ユーロビートにおいて多用されていたコード進行が日本でのみ再生産され続けている現状を「日本人全体が洗脳されている」という言葉で表現し、王道進行のほか、カノン進行やその変形である純情コード進行(後述)、小室哲哉が好んで用いた小室進行など、コード進行の定型化が進んでいると指摘している[8]。また、メロディーについても、日本人はわかりやすく繰り返しの多いものを好む傾向があり、日本の音楽業界はそのような「日本的な」特徴を備えた楽曲の量産によって一定の成功を見たが、次第に日本のアーティストの海外への進出意欲の低下、楽曲の質の低下、ひいてはガラパゴス化による日本のポピュラー音楽の国際競争力の低下を招いたと述べている[8]。
使用例
[編集]以下では、音極道[1][2][9]、亀田、スキマスイッチが動画や番組などで紹介した楽曲のみを挙げる[4][5]。
J-POP
[編集]J-POP以外
[編集]発表年 | 楽曲 | アーティスト |
---|---|---|
1982年 | Can't Take My Eyes Off You | Boys Town Gang |
1986年 | Give Me Up | Michael Fortunati |
1987年 | I Should Be So Lucky | Kylie Minogue |
1988年 | Together Forever | Rick Astley |
類似例
[編集]王道進行と同様にJ-POPにおいて多用されるコード進行として、亀田は「純情コード進行」の存在を指摘、命名している[8][10][11]。純情コード進行はカノン進行の変形で、「C-G/B-Am-Em/G-F-C/E-Dm-G」で表されるコード進行である。純情コード進行の使用例として、「守ってあげたい」(松任谷由実)、「勇気100%」(光GENJI)、「恋するフォーチュンクッキー」(AKB48)などがある[10][11]。
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ a b c d e 音極道『JPOPサウンドの核心部分が、実は1つのコード進行で出来ていた 前編』2008年10月16日 。2022年10月23日閲覧。
- ^ a b c d e 音極道『JPOPサウンドの核心部分が、実は1つのコード進行で出来ていた 後編』2008年10月16日 。2022年10月23日閲覧。
- ^ a b 音極道 (2008年10月16日). “JPOPサウンドの核心部分が、実は1つのコード進行で出来ていた、という話”. 音極道 Music Hacks. 2022年10月23日閲覧。
- ^ a b c d e "第6回「恋するコード学~小悪魔編~」". 亀田音楽専門学校. 6 November 2014. NHK教育テレビジョン。
- ^ a b c d e “ミスチルや平井堅らのヒット曲に見られる「小悪魔コード進行」とは? 亀田誠治とスキマスイッチが解説”. リアルサウンド (2014年11月7日). 2022年10月23日閲覧。
- ^ 梅村祥之; 伊達彩斗 (2017). “地図標高データを用いたメロディ生成の試み”. 研究報告音楽情報科学 115 (39): 1-6. ISSN 21888752 2022年10月23日閲覧。.
- ^ 大須賀淳『作りながらおぼえる作曲術入門』秀和システム、2014年、135頁。ISBN 978-4-7980-4107-0。
- ^ a b c d e 高増明 (2015). “日本のポピュラー音楽の危機と経済停滞”. 関西大学社会学部紀要 (関西大学社会学部) 47 (1): 1-20. ISSN 02876817 2022年10月23日閲覧。.
- ^ 音極道 (2008年10月15日). “YouTubeで見る “J-POP王道コード進行” の歴史”. 音極道 Music Hacks. 2022年10月23日閲覧。
- ^ a b "第5回「恋するコード学~純情編~」". 亀田音楽専門学校. 30 October 2014. NHK教育テレビジョン。
- ^ a b “J-POPのヒット曲に多用される“純情コード進行”とは? 亀田誠治とスキマスイッチが仕掛けを分析”. リアルサウンド (2014年10月31日). 2022年10月23日閲覧。
関連項目
[編集]- ビッグ・イン・ジャパン - 日本でのみ人気がある洋楽アーティストを指す俗語。
- パラパラ - 日本でユーロビートが独自の文化的発展を遂げた例。