有機金属化学
この記事は英語版の対応するページを翻訳することにより充実させることができます。(2024年6月) 翻訳前に重要な指示を読むには右にある[表示]をクリックしてください。
|
有機金属化学(ゆうききんぞくかがく、英語:organometallic chemistry)とは金属と炭素との化学結合を含む化合物である有機金属化合物を研究する学問であり、有機金属化学は無機化学と有機化学とが融合した領域である[1][2][3][4][5]。なお、類似の語である合成有機金属 (organic metal) の場合は、ポリアセチレンなど金属を含まないが電荷移動錯体を形成することで導電性を示す純粋な有機化合物を示し、有機金属化学の範疇外である。
化合物
[編集]有機金属化合物は「有機パラジウム化合物」のように頭に「有機-」を付けた形で呼ばれる。典型的な有機金属化合物にはクロロ(エトキシカルボニルメチル)亜鉛 (ClZnCH2C(=O)OEt) のような有機亜鉛化合物、ジメチル銅リチウム (Li[CuMe2]) のような有機銅化合物、グリニャール試薬[6]・ヨウ化メチルマグネシウム (MeMgI) や ジエチルマグネシウム (Et2Mg) のような有機マグネシウム化合物、n-ブチルリチウムのような有機リチウム化合物などがある。
重要な有機金属化合物として金属カルボニル、カルベン錯体、フェロセンをはじめとするメタロセンが挙げられる。[7]有機金属化学には、ケイ素、ヒ素、ホウ素などの半金属の化合物も含まれる。例えば、有機ホウ素化合物であるトリエチルボラン (Et3B) などである。また、ツィグラー・ナッタ触媒[8][9][10]に用いられるアルミニウムのような卑金属も含まれる。
有機金属化合物はしばしば触媒として実用に供せられ、例としては石油化学製品の製造や有機重合体の製造が挙げられる[11]。また有機合成化学分野において、グリニャール試薬、ヒドロホウ素化、パラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応[12][13]などは重要な地位を占める。
18電子則やイソローバル則 (isolobal principle) は有機金属化合物の結合や反応性を理解するうえで重要な理論である。
年表
[編集]- 1760年 ルイ・クロード・カデ・ド・ガシクール (fr:Louis Claude Cadet de Gassicourt) はコバルト由来のインクを研究し、ヒ素を含むコバルト鉱物からカコジルを単離する
- 1827年 最初の白金-オレフィン錯体であるツァイゼ塩 (Zeise's salt) が発見される[14]
- 1859年 有機アルミニウム化合物が合成される
- 1863年 シャルル・フリーデルとジェームス・クラフツによる有機クロロシランの製造
- 1890年 ルードウィッヒ・モンドによるニッケルカルボニルの発見
- 1899年 グリニャール試薬の発表[6]
- 1900年 ポール・サバティエの金属触媒を使用した有機化合物の水素化に関する研究。油脂を手始めに食品工業の発展。マーガリンに詳しい
- 1912年 フランソワ・グリニャールとサバティエがノーベル化学賞を受賞[15][16][17]
- 1930年 ヘンリー・ギルマンのリチウム銅の研究[18]
- 1963年 カール・ツィーグラーとジュリオ・ナッタがツィグラー・ナッタ触媒でノーベル化学賞を受賞[8][15]
- 1971年 溝呂木・ヘック反応の発見 (Mizoroki)[19]
- 1972年 溝呂木・ヘック反応の発見 (Heck)[20]
- 1973年 ジェフリー・ウィルキンソン[21]とエルンスト・オットー・フィッシャーがサンドイッチ構造を持つ有機金属化合物(メタロセン)でノーベル化学賞を受賞[15]
- 2005年 イヴ・ショーヴァン、ロバート・グラブス、リチャード・シュロックがオレフィンメタセシス反応でノーベル化学賞を受賞[22]
関連項目
[編集]
|
出典
[編集]- ^ 山本明夫 (2015). 有機金属化学. 東京化学同人
- ^ Mehrotra, R. C. (2007). Organometallic chemistry. New Age International.
- ^ 熊田誠. (1962). 有機金属化学の現状. 有機合成化学協会誌, 20(2), 177-189.
- ^ 松田勇, & 石井義郎. (1975). 有機金属化学の最近の話題. 金属表面技術, 26(1), 2-9.
- ^ 萩原信衛. (1995). 有機金属化学のれい明期. 有機合成化学協会誌, 53(7), 645-649.
- ^ a b The Grignard Reagents, Dietmar Seyferth, Organometallics 2009, 28, 6, 1598–1605, https://doi.org/10.1021/om900088z
- ^ 本山泉, & 佐藤勝. (1971). メタロセンの化学. 有機合成化学協会誌, 29(7), 664-684.
- ^ a b 山本明夫. (1983). チーグラー・ナッタ触媒 生みの親と育ての親. 高分子, 32(1), 30-33.
- ^ 木岡護, & 柏典夫. (1989). チーグラー• ナッタ触媒の最近の展開. 日本ゴム協会誌, 62(10), 641-649.
- ^ Sinn, H., & Kaminsky, W. (1980). Ziegler-Natta catalysis. In Advances in Organometallic Chemistry (Vol. 18, pp. 99-149). Academic Press.
- ^ 『高機能性金属錯体が拓く触媒科学 - 株式会社 化学同人』 。
- ^ 中野幸司. (2019). クロスカップリング反応—その発見と展開—. 化学と教育, 67(4), 180-183.
- ^ Miyaura, N., & Buchwald, S. L. (Eds.). (2002). Cross-coupling reactions: a practical guide (Vol. 219). Berlin: Springer.
- ^ Thayer, J. S. (1969). Historical origins of organometallic chemistry. Part I, Zeise's salt. Journal of Chemical Education, 46(7), 442.
- ^ a b c James, L. K., & Laylin, J. K. (1993). Nobel laureates in chemistry, 1901-1992. Chemical Heritage Foundation.
- ^ Che, M. (2013). Nobel Prize in chemistry 1912 to Sabatier: Organic chemistry or catalysis?. Catalysis today, 218, 162-171.
- ^ Kagan, H. B. (2012). Victor Grignard and Paul Sabatier: two showcase laureates of the Nobel Prize for Chemistry. Angewandte Chemie International Edition, 51(30), 7376-7382.
- ^ Eisch, J. J. (2002). Henry Gilman: American pioneer in the rise of organometallic chemistry in modern science and technology. Organometallics, 21(25), 5439-5463.
- ^ Mizoroki, T., Mori, K., & Ozaki, A. (1971). Arylation of olefin with aryl iodide catalyzed by palladium. Bulletin of the Chemical Society of Japan, 44(2), 581-581.
- ^ Heck, R. F., & Nolley Jr, J. P. (1972). Palladium-catalyzed vinylic hydrogen substitution reactions with aryl, benzyl, and styryl halides. The Journal of organic chemistry, 37(14), 2320-2322.
- ^ Green, M. L. H., & Griffith, W. P. (2000). Sir Geoffrey Wilkinson. 14 July 1921-26 September 1996. Biographical Memoirs of Fellows of the Royal Society, 46, 595-606.
- ^ 2005 Nobel Prize in Chemistry. Development of the Olefin Metathesis Method in Organic Synthesis, Charles P. Casey, J. Chem. Educ. 2006, 83, 2, 192. https://doi.org/10.1021/ed083p192