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冪零群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

群論における冪零群(べきれいぐん、: nilpotent group)は、「ほとんど」アーベルな群である。この概念は、冪零群が可解群となるという事実に裏打ちされ、有限冪零群に対して位数互いに素な二元は可換となる。有限冪零群はさらに超可解英語版でさえある。冪零群の概念の創始は1930年代におけるロシア人数学者セルゲイ・チェルニコフ英語版の業績に帰せられる[1]

冪零群はガロワ理論において、また群の分類理論において、用いられる。あるいはまた、リー群の分類においても顕著である。

冪零あるいは降中心列・昇中心列といった用語は、(導来群を作る操作を、リー括弧積で代用した類似概念を用いて)リー環の理論においても用いられる(冪零リー環の項を参照)。

定義

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考えている群が冪零であるとは、以下の同値な条件の何れか(したがってすべて)を満足するときに言う:

  • 有限の長さの中心列英語版を持つ。それはすなわち、正規部分群からなる有限の系列 であって、Gi+1/GiZ(G/Gi) あるいは同じことだが [G, Gi+1] ≤ Gi となるものである。
  • 降中心列英語版が有限の長さで自明群に到達する。すなわち、G0G および Gi+1 ≔ [Gi, G] によって定まる正規部分群の系列でとできる。
  • 昇中心列英語版が有限の長さでもとの群に到達する。すなわち、Z0 ≔ {1} および Zi+1Zi+1/Zi = Z(G/Zi) なる G の部分群と定めるとき、得られる正規部分群の系列でとできる。

冪零群 G に対して、G が長さ n の中心列を持つとき(定義により、長さ n を持つとは中心列に自明群と G 自身を含めて n + 1 個の部分群が並ぶときに言う)、そのような n の最小値を G冪零度 (nilpotency class; 冪零性の等級) と呼び、また G は冪零度 n の冪零群であるという。G の冪零度は、降中心列または昇中心列を用いても同じ値が定められる。[注釈 1]

冪零度を上記のどの仕方で定義したとしても、直ちにわかることに「自明群が冪零度零の唯一の群である」ことおよび「冪零度 1 の群は非自明なアーベル群である」ことが挙げられる[2][3]

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よく知られた冪零群の例である離散ハイゼンベルク群ケイリーグラフの一部

用語の説明

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冪零群の名称は、それが任意の元による「随伴作用」が冪零となることによる。つまり、冪零度 n の冪零群に対して、その元 g の定める作用 g, x に依らずn反復合成で自明となる(ここで、[g, x] ≔ g−1x−1gxg, x交換子である)。

これは冪零群を定義可能な特徴づけとはなっていない。実際、(既にみたように冪零度 n の)随伴作用素 adg 全体の成す群は n-次エンゲル群英語版[注釈 2]と呼ばれ、一般には冪零群でない。位数有限ならば冪零であることが示され、有限生成ならば冪零であろうと予想されている。

アーベル群はちょうど、そのような群で随伴作用が冪零でも自明でもないもの(1-次エンゲル群)になっている。

性質

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昇中心列の連続する部分群による各剰余群 Zi+1/Zi はアーベル群であり、かつ列は有限であるから、任意の冪零群は比較的単純な構造を持つ可解群である。

冪零度 n の冪零群の任意の部分群は、冪零度高々 n である[9]。加えて、f が冪零度 n の冪零群上の準同型ならば、f の像は冪零度高々 n の冪零群になる[9]

有限群に対して以下は同値[10]であり、冪零性の有効性が顕わになる:

  • (a) G は冪零群である。
  • (b) 正規化性質: HG の真の部分群ならば、H は(HG における)正規化群 NG の真の正規部分群になる。
  • (c) G の任意のシロー部分群は正規部分群である。
  • (d) G はそのシロー部分群直積である。

最後の性質 (d) は無限群の場合にも拡張することができる:

命題
G が冪零群ならば、G の任意のシロー p-部分群 Gp は正規であり、それらシロー部分群の直積は G における位数有限な元全体の成す部分群に一致する。

冪零群の性質の多くは超中心群英語版と共通している。

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注釈

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  1. ^ 冪零度高々 m の冪零群を、nil-m groupm-乗零群)と呼ぶこともある
  2. ^ この呼び名に関して、冪零リー環の表現に関するエンゲルの定理を想起せよ
  3. ^ これは p-群に対するのと同じ論法—単に GG/Z(G) がともに冪零となるという事実だけあればよい—ゆえ、詳細は省略する

出典

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  1. ^ Dixon, M. R.; Kirichenko, V. V.; Kurdachenko, L. A.; Otal, J.; Semko, N. N.; Shemetkov, L. A.; Subbotin, I. Ya. (2012). “S. N. Chernikov and the development of infinite group theory”. Algebra and Discrete Mathematics 13 (2): 169–208. 
  2. ^ a b Suprunenko 1976, p. 205.
  3. ^ Tabachnikova & Smith 2000, p. 169.
  4. ^ Hungerford 1974, p. 100.
  5. ^ Zassenhaus 1999, p. 143.
  6. ^ Zassenhaus 1999, p. 143, Theorem 11.
  7. ^ von Haeseler 2002, p. 15.
  8. ^ Palmer 1994, p. 1283.
  9. ^ a b Bechtell 1971, p. 51, Theorem 5.1.3.
  10. ^ Isaacs 2008, Thm. 1.26.

参考文献

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関連文献

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  • Stammbach, Urs (1973). Homology in group theory. Lecture Notes in Mathematics. 359. New York: Springer-Verlag : review

外部リンク

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