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ユリウス・ポルクス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ユリウス・ポルクス[1]ラテン語: Iulius Pollux英語: Julius Polluxfl. 2世紀ごろ)は、ローマ帝国期のアテナイで活動した、エジプトナウクラティス出身の学者[2][3][1]文法学者弁論家第二次ソフィスト古代ギリシア語辞典『オノマスティコン』の編纂者として知られる[2]

ポルクスではなくポルックス[4]ポッルクス[5]とも表記される。古代ギリシア語に即した表記はイウーリオス・ポリュデウケースまたはユリオス・ポリュデウケス[6]Ἰούλιος Πολυδεύκης, Ioulios Polydeukēs)。

人物

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ピロストラトスの『ソフィスト列伝』にポルクス伝があり、略歴や人物評、弁論の例が記されている[2][7]

ローマ帝国期のエジプトナウクラティスで生まれた。同地で少年期を過ごした後、アテナイに赴き、第二次ソフィストのテュロスのハドリアヌス英語版のもとで弁論術を学んだ。その後、アテナイで弁論術の学校を開いた。その弁論術の腕前によってコンモドゥス帝から寵愛され、アテナイの弁論術教授の席を賜った[2][7][8]。弟子にソフィストのアンティパトロス英語版がいる[2][9]

同時代の風刺作家ルキアノスの『レクシパネース』(Λεξιφάνης)で、風刺の対象になっている[2]。同じくルキアノスの『弁論教師』(Ῥητόρων Διδάσκαλος)のモデルとも推測される[10]

作品

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ポルクスは、全10巻からなる古代ギリシア語辞典『オノマスティコン』(Ὀνομαστικόν, Onomasticon)の編纂者として知られる[2]

『オノマスティコン』は、その題名の通り、様々な「オノマ」(名前名辞ὄνομα)について説明する書物であり、日本語では『名前の書』[11][12]、『語彙辞典』[3]、『辞林』[13]などとも訳される。なお、「オノマスティコン」という題名の書物は、同書以外にもある[注釈 1]

同書は辞典・百科事典のような形式をとりつつも、項目をアルファベット順ではなく分類順に並べて、シソーラスのような形式で書かれている[2][12]。扱う項目は多岐にわたり、現代の西洋古典学文化史の研究においても時々参照される。とりわけ、演劇史音楽史法制史法廷弁論に関する項目が注目に値する[1]。珍項目として、収税吏英語版に対する罵倒語の一覧がある[11]。項目の多くは、1世紀の学者、アレクサンドリアのパンフィロス英語版に依拠している[1]。項目にはしばしば、散逸した文献の断片が収録されている。

16世紀には、アルドゥス・マヌティウスらによって『オノマスティコン』の版本が出版された[2]。また、スイスプロテスタント神学者Rudolf Gwaltherによってラテン語訳が編纂された[14]。これにより、ルネサンス期の好古家解剖学者たちがギリシア語の語彙を使用しやすくなった。

19世紀には、イギリスの古典学者、ウィリアム・スミス英語の『古代ギリシア・ローマ辞典英語版』などを編纂する際の土台の一つになった。また19世紀から20世紀にかけては、ドイツイマヌエル・ベッカーヴィルヘルム・ディンドルフ英語版エーリヒ・ベーテ英語版によって、ギリシア語の定本・注釈書が編纂された(#外部リンク)。

なお、ポルクスには弁論術についての著書も複数あった。10世紀の百科事典『スーダ』にはその題名が記されているが、全て散逸してしまった[2]

関連項目

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脚注

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注釈

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  1. ^ 例えば、5世紀の聖書注釈者、カエサレアのエウセビオスの、聖書の地名を考証する書物『オノマスティコン』(オノマスティコン (エウセビオス)英語版)や、1989年日本の、麻生建黒崎政男小田部胤久山内志朗編『羅独-独羅学術語彙辞典』(欧題: Onomasticon philosophicum latinoteutonicum et teutonicolatinum)など。オノマスティコン英語版 も参照。

出典

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  1. ^ a b c d Julius Pollux Greek scholar and rhetorician” (英語). ブリタニカ百科事典. 2020年8月11日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j ウィリアム・スミス (1849年). “Pollux, Ju'lius”. A Dictionary of Greek and Roman biography and mythology. ペルセウス電子図書館. 2020年8月11日閲覧。
  3. ^ a b G.S.カーク、J.E.レイヴン、M.スコフィールド 著 / 内山勝利、木原志乃、國方栄二、三浦要、丸橋裕 訳「固有名詞索引 訂正版(2008.4.23更新)」『ソクラテス以前の哲学者たち(第2版)』京都大学学術出版会、2006年、630頁「ポルクス」頁。ISBN 978-4876986880http://www.kyoto-up.or.jp/errata/688errata.pdf 
  4. ^ スカリゲル, ユリウス・カエサル、加藤, 浩「『詩学七巻』第一巻第七章から第九章」『文芸学研究』第13巻、2009年、93頁。 
  5. ^ 佐藤真理恵「顔を逃れる顔--古代ギリシア世界におけるアプロソポス試論」『ディアファネース 芸術と思想』第1巻、2014年、71頁。 
  6. ^ 岡村眞紀子、伊藤博明 (2018). “ロバート・バートン『憂鬱の解剖』 : 第3部第1章第2節第3項-第2章第2節第1項”. 京都府立大学学術報告. 人文 70: 34. http://id.nii.ac.jp/1122/00006159/. 
  7. ^ a b ピロストラトス、エウナピオス 著 / 戸塚七郎、金子佳司 訳 2001, p. 174-176.
  8. ^ Avotins, I. (1975). “The Holders of the Chairs of Rhetoric at Athens”. Harvard Studies in Classical Philology 79: 313. doi:10.2307/311142. https://www.jstor.org/stable/311142?origin=crossref. 
  9. ^ ピロストラトス、エウナピオス 著 / 戸塚七郎、金子佳司 訳 2001, p. 196.
  10. ^ ルキアノス著、戸高和弘訳「弁論教師(第四十一篇)」『偽預言者アレクサンドロス 全集4』京都大学学術出版会〈西洋古典叢書〉、2013年。ISBN 9784876982516 327頁(訳者解説)
  11. ^ a b ジョナサン・グリーン著、三川基好訳 1999, p. 59f.
  12. ^ a b ポルクス』 - コトバンク
  13. ^ 平山晃司 (2015). “ストラッティス断片訳注余滴”. 言語文化共同研究プロジェクト (大阪大学大学院言語文化研究科) 2014. https://doi.org/10.18910/54546. 
  14. ^ MDZ-Reader | Band | Onomasticon / Pollux, Iulius | Onomasticon / Pollux, Iulius”. reader.digitale-sammlungen.de. 2020年8月11日閲覧。

参考文献

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(ピロストラトス『ソフィスト列伝』第2巻12章「ポリュデウケス」)

外部リンク

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