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ピクラス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ヴィーデヴートのものとされる旗(左がピクラス)

ピクラスとは、異教時代のプロイセン神話英語版リトアニア人の神話英語版で言及される神である。パトロ (Patollo)、ピコッロス (Pikollos)、ピコッルス (Pikollus)、ポックルスといった名前でも知られている。

ピクラスは、パトリムパスペルクナスと共に、リトアニアの神話における3つの主要な神格の1つに数えられる[1]

神話

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ピクラスは、鋭い眼光に白髭を蓄えた風貌[2]、あるいはターバンを頭に巻き、緑色の長い顎髭を持った風貌の[3]、蒼白な顔をした老人の姿で表現される[2]地獄を根城とし、不幸、悪、憎悪を象徴する。戦いの神であり、人間に幸福を与える一方[3]、時折を要求することがあり[2][3][注釈 1]、ピクラスが立て続けに三度人前に現れた際には凄惨な不幸に襲われ、生贄を捧げなければその不幸を回避できないと言い伝えられていた[2]

ピクラスには、女神クルミネーとその娘ニヨラに関連する伝説がある。それによると、ピクラスはニヨラをさらい、地下の自分の王国へ連れて行った。ニヨラはそこで不死となり、たくさんの子供を得た。クルミネーは各地を跋渉して娘を探したが、その間に旅先で農耕の技法を学んではリトアニアの人々に伝えていた。ようやく地下で娘と再会したが、娘を連れ戻すことはできず、クルミネーは1人で地上に戻った。すると地上からは不幸が払拭され、幸福に満ちていたという。この伝説は、19世紀にテオドール・ナルブト英語版によって採集されたもので、ギリシア神話におけるデーメーテールコレーのエピソードとの類似が認められている[4]

ラシキウス[注釈 2] によれば、1582年の時点で古プロイセン人達が信仰していた神々の中には、ポックルス(ピクラス)およびこれと対をなす、天地を司る神オッコピルヌスもいたという[5]

信仰

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ロムヴァの神殿。大樹に3柱の神々が祀られている

ピクラスは、1853年にルートヴィヒ・ベヒシュタイン英語版[注釈 3]が書いた『ドイツ伝説集 (Deutsches Sagenbuch)』の中でも言及されている。

古プロイセンの町ロモーフェ英語版には、夏も冬も青々とした葉を茂らせた大きなの木があり、そこに雷神ペルクノス (Perkunos)、死神ピコッロス (Pikollos)、そして戦争と豊饒を司る神ポトリンポス (Potrimpos) [注釈 4]が祀られていた[7]。ある時、ヴィーデヴート英語版(ヴァイデヴートとも)王は、自身が高齢となり敵とも戦えなくなったことを悟ると、国を息子達に譲り、それからロモーフェにある柏の大樹の元で自身を3柱の神々に生贄として献げるべく薪の炎の中に身を投じた[8]

プロイセン地方のトルン(現在はポーランドの都市)にも、古プロイセン人達に広く知られた聖なる柏の大樹の4本目があった。そこにもペルクンノス (Perkunnos)、ピコッルス (Pikollus)、そしてポトリンプス (Potrimpus) [注釈 5]の3柱の神々とそれらに次ぐ地位の多くの神々が祀られていたという[9]

脚注

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注釈

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  1. ^ パトロ(ピクラス)のこうした性質には、北欧神話の神オーディンとの類似が認められるとの指摘もある[3]
  2. ^ Lasicius(1534年 - 1602年)。キリスト教聖職者で、バルト地方の古来からの神々に関する記録を残す。詳細は英語版記事「Jan Łasicki」を参照。
  3. ^ Ludwig Bechstein(1801年 - 1860年)はドイツの著述家、民話の収集家。詳細は英語版記事「Ludwig Bechstein」を参照。
  4. ^ Perkunos、Pikollos、Potrimposは訳注112で確認した綴り[6]
  5. ^ Perkunnos、Pikollus、Potrimpusは訳注112で確認した綴り[6]

出典

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  1. ^ アレグザンスキー & ギラン (1993), pp. 125-126.
  2. ^ a b c d アレグザンスキー & ギラン (1993), pp. 126, 128.
  3. ^ a b c d コットレル (1999), p. 446.
  4. ^ アレグザンスキー & ギラン (1993), pp. 128-129.
  5. ^ ジョーンズ & ペニック (2005), p. 282.
  6. ^ a b ベヒシュタイン,鈴木訳注 (2014), p. 314.(訳注112)
  7. ^ ベヒシュタイン,鈴木訳注 (2014), p. 225.(227 ロモーフェ)
  8. ^ ベヒシュタイン,鈴木訳注 (2014), p. 226.(228 自らを生贄に捧げたヴィーデヴート王)
  9. ^ ベヒシュタイン,鈴木訳注 (2014), p. 276.(271 柏の樹からできたトルン)

参考文献

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  • アレグザンスキー, G.、ギラン, F. 著「リトワニアの神話」、ギラン,フェリックス編 編『ロシアの神話』小海永二訳(新版)、青土社〈シリーズ世界の神話〉、1993年10月、pp. 93-143頁。ISBN 978-4-7917-5276-8 
  • コットレル, アーサー「パトロ」『ビジュアル版世界の神話百科 - ギリシア・ローマ/ケルト/北欧』松村一男蔵持不三也、米原まり子訳、原書房、1999年10月、p. 446頁。ISBN 978-4-562-03249-5 
  • ジョーンズ, プルーデンス、ペニック, ナイジェル『ヨーロッパ異教史』山中朝晶訳、東京書籍、2005年8月。ISBN 978-4-487-79946-6 
  • ベヒシュタイン, ルートヴィヒ鈴木滿訳注「ルートヴィヒ・ベヒシュタイン編著 : 『ドイツ伝説集』(一八五三)試訳(その六)」『武蔵大学人文学会雑誌(平林和幸教授追悼号)』第46巻第1号、武蔵大学人文学会、2014年10月、209-330頁、NAID 120005568896 

関連項目

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