ニューヨーク市の地理
イースト川が大西洋へ注ぐ自然港に位置するニューヨーク市の地理は特に沿岸部が特徴的である。また、海と川に囲まれていることから利用できる土地が乏しくアメリカ国内で最も人口密度の多い都市の1つとなっている。しかしながら、ニューヨーク市は都市の管理が行き届いていることからアメリカ国内で最もエネルギー効率の良い都市となっており、かつ最も公共交通機関の利用率が高く自動車依存率の低い都市となっている。都市の気候は温暖である。
地理
[編集]ニューヨーク市はアメリカ合衆国北東部のハドソン川の河口のあるニューヨーク州南東部に位置している。ニューヨーク=ニュージャージー港河口に位置し、その中心はニューヨーク港であり水深の深い水路と大西洋から直接入港可能という自然の利点を持つことからニューヨーク市の貿易産業の振興を促進した。しかし、港と水路は大きく土地を隔てており、ニューヨーク市の5つの行政区のうち、マンハッタン区とスタテンアイランドは離島、ブルックリン区とクイーンズ区は離島であるロングアイランドの西に位置しており、ブロンクス区のみ北アメリカ大陸本島と陸続きになっている。このことから開発可能な土地が少なく人口密度の増加に拍車をかけている。
ニューヨーク市は北アメリカ大陸の2つの地質構造の境界に位置している。東海岸平野の一部であるブルックリン区とクイーンズ区の両区が位置するロングアイランドは最終氷期にできたローレンタイド氷床の南縁に形成された巨大なモレーンである。ブロンクス区とマンハッタン区はニューアーク盆地の東端にあり、三畳紀に超大陸パンゲアが分裂する際に下に沈んだ地殻からなっている。ニュージャージー州からニューヨーク市にかけてハドソン川沿いに伸びるパリセード岩床にはかつて盆地を埋め尽くしていた岩が露出している。マンハッタン区の地盤は頑丈な変成岩で構成されており、超高層建築物をしっかりと支えている。
オランダによる植民地支配後、市の土地は人間の手によりかなり変化し水辺に沿って開発が行われてきた。また、ロウアー・マンハッタンのバッテリー・パーク・シティなどを中心に埋立が行われた。マンハッタン区においてはほとんどの地形が平らにされている[1]。特にイーストサイドはほとんどの地区が平らにされているがウェストサイドはいくつか自然の丘が残されている。また、イースト・ハーレムのダッフィーズ・ヒルなどイーストサイドでも僅かながら丘が残されている。
市の土地面積は約321平方マイル(830平方キロメートル)とされている[2]。ただし、最近の計算では約304.8平方マイル(789.4平方キロメートル)とされている[3]。市内最高標高地点はスタテンアイランドのトート・ヒルの海抜409.8フィート(124.9メートル)の地点である。これはメイン州以南のアメリカ合衆国東海岸で最も高い丘でもある。尾根の頂上はスタテンアイランドグリーンベルトの一部として森林に覆われている。
隣接する郡
[編集]行政区
[編集]ニューヨーク市には5つの行政区がある。行政区には何百もの近隣住区があり、それぞれが独特な歴史や性格をもっている。仮に行政区をそれぞれ独立した1つの都市と考えた場合、4区(ブルックリン区・クイーンズ区・マンハッタン区・ブロンクス区)がアメリカ国内で最も人口の多い上位10都市に入ることになる。
- ブロンクス区(ブロンクス郡、人口1,364,566人[4])はニューヨーク市で最も北に位置する行政区である。ラップやヒップホップ文化の発祥の地で[5]、MLBのニューヨーク・ヤンキースとMLSのニューヨーク・シティFCが本拠地とするヤンキー・スタジアムやアメリカ国内最大の共同所有団地コープ・シティがある[6]。ハーレム川運河の開通でマンハッタン島から切り離されブロンクス区と陸続きになったマンハッタン区マーブル・ヒルを除くとニューヨーク市の行政区の中で唯一北アメリカ大陸本島と陸続きになっている区である。
- ブルックリン区(キングス郡、人口2,511,408人[4])はニューヨーク市で最も人口の多い行政区であり、1898年までは独立した1つの都市であった。ブルックリン区は文化的多様性や独立したアートシーン、独特の住区、そしてユニークな建築遺産で知られている。また、区内には国内で最も初期の娯楽施設、近郊型リゾート地のコニーアイランドもある。
- マンハッタン区(ニューヨーク郡、人口1,606,275人[4])はニューヨーク市で最も人口密度の高い行政区であり、市内のほとんどの超高層建築物が位置している。区内には市内の主要なビジネスセンターと多くの文化的アトラクションがある。マンハッタン区は大まかにダウンタウン・ミッドタウン・アップタウンの3つに分けられる。
- クイーンズ区(クイーンズ郡、人口2,256,576人[4])はニューヨーク市で最も面積の大きい行政区であり、クイーンズ郡はアメリカ国内で最も多様な人々が住む郡である[7]。歴史的にオランダ人の入植でできた小さな町や村が集まって構成されていたが、今日はマンハッタン区に近い区画から徐々に高級化が進み平均以上の収入と富を持つ家庭が増えている。アフリカ系アメリカ人世帯の平均収入(年間52,000ドル)が白人世帯のそれを上回ったアメリカ国内唯一の大都市でもある[8]。区内にはアメリカの空の玄関口ジョン・F・ケネディ国際空港やMLBニューヨーク・メッツの本拠地であるシティ・フィールド、テニスの4大大会の1つ全米オープンが毎年開催されるUSTAビリー・ジーン・キング・ナショナル・テニス・センターがある。
- スタテンアイランド(リッチモンド郡、人口475,014人[4])はニューヨーク市で最も郊外に位置する行政区である。ヴェラザノ=ナローズ橋によってブルックリン区と、無料のスタテン島フェリーによってマンハッタン区と接続している。2001年まで区内にはかつて世界最大の埋立地であったフラッシュ・キルズ埋立地があったが、現在はアメリカ国内最大の都市公園の1つとして開発されている。
気候
[編集]ニューヨーク市 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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雨温図(説明) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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ニューヨーク市は亜熱帯ではなく冬場は寒くなるが、気温は市内3箇所の主要な観測所での観測で平均32.5 - 33°F (0.3 - 0.6℃) と持続的な降雪が起こる気温になることがなくケッペンの気候区分では温暖湿潤気候にあたる。ニューヨーク市の天気・気温は大西洋数十年規模振動の変化や大西洋で発生するハリケーンや沿岸暴風雨の影響を強く受けている[9]。以下の説明において特に場所の明記の無い気温などの情報は全てセントラル・パークで観測されたものである。
- 冬は基本的に寒い日が続き、32°F (0℃) 以上の気温になることのない日が平均17日ある[10]。気温が10°F (-12℃) を下回る夜は平均2.7回あり[11]、USDAのハーディネスゾーン区分では7に指定されている[12]。最も気温の低い期間は0 - 10°F (-18 - -12℃) となることが多いが、0°Fに到達することは稀で最近では2016年2月14日に観測されたのが最後である[10]。
- 春は穏やかで平均気温は3月下旬は50°F前後 (10 - 15℃) から6月上旬には80°F前後 (26 - 28℃) になる。天候は予測できず、時折比較的涼しい夏(1992年など)をもたらすこともあれば吹雪が4月の第2週に発生することもある。また、雷雨が発生することが多い。
- 夏は暑く湿気があり、平均17日で気温が90°F (32℃) を超えているが[10]、100°F (38℃) を超えたのは2012年7月18日が最後である[10]。湿度は7月から8月にかけてかなり高くなる。夏は雷雨が多く、時折竜巻も発生する[13]。なお、ニュージャージー州西部では非常に激しい雷雨が発生するが、ニューヨーク市は海に近接しているため都市部に直撃する頃には雨脚は弱まっていることが多い。ハリケーンはニューヨーク市(特にロングアイランド近郊)の大きな脅威であると考えられている。非常に稀ではあるが2012年10月に上陸したハリケーン・サンディのように都市部に直撃した場合、大規模な人命の損失と莫大な物的損害を引き起こすことがある。
- 秋のニューヨーク市は快適で気温は春に似ている。しかしながら天気は春以上に予測不可能であるため、旅行者は天気予報をしっかりと確認した上で幾つかの衣服を持っていくことが推奨される。
- 降水量は多く平均年間降水量は49.9インチ (1,267mm) であり、春が最も降水量が多く2月が最も降水量が少ない月である。セントラル・パークでの観測史上最大の年間降水量は1983年の80.56インチ (2,046mm)、最低年間降水量は1965年の26.09インチ (663mm) である。また、最高月間降水量は2011年8月の18.95インチ (481mm)、最低月間降水量は1949年6月の0.02インチ (0.5mm) である[14]。ニューヨーク市では長時間の降水あるいは乾燥が続くことがあり、1882年9月23日には24時間の降水量が8.28インチ (210.3mm) を記録した。
- 降雪量は季節平均25.8インチ (65.5cm) で、市北西へ向かうほど降雪量は増え、ロングアイランド郊外へ向かうと減少する。2016年1月23日の降雪量は27.3インチ (69cm) で[10]、2016年1月22日から23日にかけての降雪量27.5インチ (70cm) の大雪の大部分を占めている[15]。1869年以降の月間降雪量の最も多かった月は2010年2月で36.9インチ (94cm)、季節毎の最高降雪量は1995 - 96年にかけての冬で75.6インチ (192cm) であった。また、最も降雪量の少なかった冬は1972 - 73年で降雪量は2.8インチ (7.1cm) であった。雪は3月にも降ることがよくあるが、4月・11月の降雪は10年に数回程度しか見られない。5月の降雪は僅かしか観測されておらず、10月の降雪は数十年に1度の確率で観測される可能性がある[16]。
- 過去の気温記録で最も高い気温は1936年7月9日に記録された106°F (41℃) である (セントラル・パークにて、ラガーディア空港では1966年7月3日に107°F (42℃) を記録)。また、最低気温は1934年2月9日に観測された-15°F (-26℃) であるが、正式な観測記録が始まる前の1780年1月23日には-16°F (-27℃) を[17][18][19]、1835年12月16日には-17°F (-27℃) を記録している[20][21][22][23][24]。年間最高気温の最低気温は2011年7月22日の84°F (29℃) で、年間最低気温の最高気温は1917年12月30日の2°F (-17℃) である[10]。ニューヨーク市は1年間で氷点下以下の気温になる日が平均70日ある。凍結気温になるのは平均11月20日 - 3月29日の間で、植物の生育期間は平均235日間となっている[10]。
市内3箇所の主要な観測所での月間および年間統計 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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地図・衛星写真
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1660年のニューアムステルダム
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バーナード・レイツァーの作成した1770年の地図
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1885年のニューヨーク市とブルックリン市
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1906年のニューヨーク市
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1910年のマンハッタン区ダウンタウン
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疑似カラー衛星画像
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サーモグラフィー写真、青い部分が寒く黄色い部分が暑い
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植物の密度を色分けした画像、ベージュの部分は密度が低く濃い緑の部分は密度が高い
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2002年に撮影された衛星写真
関連項目
[編集]脚注
[編集]ノート
[編集]出典
[編集]- ^ Lopate, Phillip (2004). Waterfront: A Walk Around Manhattan. Anchor Press. ISBN 0-385-49714-8
- ^ “Land Use Facts”. ニューヨーク市都市計画課. 2007年3月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年3月13日閲覧。
- ^ Roberts, Sam (2008年5月22日). “It’s Still a Big City, Just Not Quite So Big”. ニューヨーク・タイムズ 2008年5月22日閲覧。
- ^ a b c d e “New York State Department of Labor - Population Estimates”. 2007年1月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年11月2日閲覧。
- ^ Toop, David (1992). Rap Attack 2: African Rap to Global Hip-Hop. Serpents Tail. ISBN 1-85242-243-2
- ^ Frazier, Ian (2006年6月26日). “Utopia, the Bronx”. The New Yorker 2007年3月26日閲覧。
- ^ O'Donnell, Michelle (2006年7月4日). “In Queens, It's the Glorious 4th, and 6th, and 16th, and 25th...”. ニューヨーク・タイムズ 2006年7月19日閲覧。
- ^ Roberts, Sam (2006年1月10日). “Black Incomes Surpass Whites in Queens”. ニューヨーク・タイムズ 2007年3月28日閲覧。
- ^ Riley, Mary Elizabeth (2006). Assessing the Impact of Interannual Climate Variability on New York City's Reservoir System. Cornell University Graduate School for Atmospheric Science 2010年7月9日閲覧。
- ^ a b c d e f g h “NowData - NOAA Online Weather Data”. アメリカ海洋大気庁. 2018年4月10日閲覧。
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- ^ “Hardiness Zones”. Arbor Day Foundation (2006年). 2008年11月4日閲覧。
- ^ CNN Wire Staff (2010年9月17日). “2 tornadoes and microburst touch down in New York City”. CNN. CNN 2010年9月18日閲覧。
- ^ “Record Wet and Dry Years and Months at CPK”. NWS Upton, New York. 2014年3月29日閲覧。
- ^ “Biggest Snowstorms (One Foot or More) at Central Park (1869 to Present)”. NWS Upton, New York. 2016年1月24日閲覧。
- ^ “Monthly & Seasonal Snowfall at Central Park”. アメリカ海洋大気庁. 2013年6月7日閲覧。
- ^ https://www.weatherforyou.com/weather_history/cday.php?m=1&d=29
- ^ http://www.islandnet.com/~see/weather//almanac/diaryjan.htm
- ^ https://greenerpasture.com/Places/ShowNews/38670
- ^ https://nypost.com/2004/12/02/the-great-fire-of-1835/
- ^ https://theculturetrip.com/north-america/usa/new-york/articles/art-history-and-new-york-citys-great-fire-of-1835/
- ^ https://www.weatherconcierge.com/fire-and-ice-proved-to-be-a-deadly-and-destructive-combination-in-new-york-city/
- ^ http://www.artnet.com/magazineus/reviews/karlins/karlins12-4-08.asp
- ^ http://www.baycrossings.com/Archives/2002/08_September/new_york_report.htm
- ^ [1] Belvedere Castle at NYC Parks
- ^ “New York Central Park, NY Climate Normals 1961−1990”. NOAA. 2019年4月23日閲覧。
- ^ a b “NowData - NOAA Online Weather Data”. アメリカ海洋大気庁. 2018年2月22日閲覧。
- ^ “Station Name: NY NEW YORK LAGUARDIA AP”. アメリカ海洋大気庁. 2016年9月11日閲覧。
- ^ “NEW YORK/LAGUARDIA ARPT NY Climate Normals 1961−1990”. NOAA. 2014年3月23日閲覧。
- ^ “Station Name: NY NEW YORK JFK INTL AP”. アメリカ海洋大気庁. 2016年9月11日閲覧。
- ^ “NEW YORK/JFK, NY Climate Normals 1961−1990”. NOAA. 2014年3月23日閲覧。
参考文献
[編集]- The Vegan Guide to New York City, by Rynn Berry and Chris A. Suzuki
- The Big Green Apple: Your Guide to Eco-Friendly Living in New York City, by Mathieu Fontaine
- John H. Betts The Minerals of New York City originally published in Rocks & Minerals magazine, Volume 84, No . 3 pages 204-252 (2009).
外部リンク
[編集]- Green Apple Map - ニューヨーク市の環境のマッピング活動を行っているコミュニティのサイト
- NYC Open Accessible Space Information System - ニューヨーク市の空地のマッピング活動を行っているコミュニティのサイト
- Council on the Environment of New York City (CENYC) - ニューヨーク市長の事務所にある様々な活動を行っている市民団体のサイト
- NYCityMap - ニューヨーク市行政区の地図
- ウィキメディア・コモンズには、ニューヨーク市の地理に関するカテゴリがあります。