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キッド (1921年の映画)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
キッド
The Kid
監督 チャーリー・チャップリン
脚本 チャーリー・チャップリン
製作 チャーリー・チャップリン
出演者 チャーリー・チャップリン
ジャッキー・クーガン
リタ・グレイ
音楽 チャーリー・チャップリン(1971年サウンド版)
配給 ファースト・ナショナル・ピクチャーズ
公開 アメリカ合衆国の旗 1921年1月21日
大日本帝国の旗 1921年7月
上映時間 オリジナル版 68分
1971年サウンド版 53分
製作国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
製作費 $250,000
興行収入 $5,450,000[1][出典無効]
$2,641,588[2]
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キッド』(The Kid)は、1921年に公開されたサイレント映画。監督・脚本・主演(サウンド版では音楽も)チャーリー・チャップリン、助演ジャッキー・クーガン

解説

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チャップリンとジャッキー・クーガン

『キッド』は、オープニングで「笑いと たぶん涙の物語」と語っている通り、映画史上初めて喜劇と悲劇の融合が効果的に取り入れられた長編喜劇映画である。

当時ヴォードヴィルの一芸人にすぎなかったジャッキー・クーガンは、これを期に映画界で最も有名な子役となった。チャップリンの研究家の多くは、チャップリンの第一子が制作開始の直前に死んでいることが、この映画での子供への親密な愛情表現につながっていると指摘している。貧困と金持ちの傲慢に関する描写は、チャップリンのロンドンでの体験が直接に反映されている。その後チャップリンは、アカデミー賞名誉賞の授賞式のため一時アメリカに滞在した1972年に、クーガンとの最後の再会を果たしている。劇中で魅惑的な天使を演じるリタ・グレイは、1924年から1927年までチャップリンの妻(2人目)となった。

後年チャップリンは、現代の観客にとって感傷的すぎると考えたシーンを削除し、映画の劇場再公開用に新しい音楽を作曲して録音した。この再編集版『キッド』は、1972年4月4日にニューヨークフィルハーモニック・ホールでチャップリン出席のもと世界初公開された[3]

あらすじ

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ある婦人は、恋人の芸術家に捨てられ、慈善病院からひとり赤ん坊を抱いて退院する。彼女は悩んだあげく、路上に停車していた自動車の中に赤ん坊を置き去りにする。ところが車は二人組の泥棒に盗まれ、赤ん坊は貧民街に捨てられる。そこへ通りかかった放浪者が赤ん坊を見つける。彼は赤ん坊を乳母車を押す女性や足の悪い男に押し付けようとするが、拒絶され途方に暮れる。赤ん坊に母親がつけた「この子をよろしくお願いします」という手紙を見つけた男は、赤ん坊を自分のアパートに引き取り育てることにする。捨て子をした婦人は思い直して赤ん坊を探しに戻るが、車が盗まれていると知り、失神する。

5年後、成長したキッドは放浪者と共に、詐欺まがいのガラス窓修理[注 1]で生計を立てながら暮らしていた。キッドを捨てた婦人は人気女優となり、貧民街に慈善活動にやってくる。彼女は偶然成長したキッドと再会し、おもちゃを与える。その後キッドは街のいじめっ子とけんかになるが、婦人がなだめる。加勢に行った放浪者はいじめっ子の兄と乱闘騒ぎになる。けんかは治まったが、婦人が熱を出したキッドを抱いて放浪者の家に連れてくる。往診した医師は、キッドが赤ん坊のとき身に着けていたという手紙を見て当局に通報し、孤児院の職員がキッドを無理矢理孤児院に連れていくが、放浪者は孤児院の車を追いかけてキッドを奪還する。

放浪者とキッドは安宿に泊まる。キッドには警察から1000ドルの懸賞金が掛けられていた。新聞でこれを見た宿の主人はキッドを眠っている間に抱き上げ、警察に駆け込む。キッドの母親である婦人は、キッドと再会を果たす。翌朝キッドがいなくなったことに気づいた放浪者は、探し疲れてアパートの入り口でうたたねする。彼は夢の中でキッドと天使になって空を飛んだり悪魔に惑わされたりする。

警官に起こされた放浪者は車に乗せられて豪邸に連れていかれる。キッドと母親と再会を果たし、家に招き入れられるところで物語は幕を閉じる。

キャスト

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『キッド』本編、字幕なし

製作

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下町のシーンのいくつかが撮影されたオルベラ・ストリート英語版は、撮影より10年ほど前、観光客向けにメキシコ風に改装された街である。当時オルベラはほとんど忘れ去られた狭苦しい街であり、汚い下町の雰囲気を強調するのに適していた。

撮影は9か月に及び、使用されたフィルムは完成した映画に使用されたフィルムの50倍以上に及んだ[4]。撮影は1920年に終了したが、『キッド』はチャップリンの最初の妻ミルドレッド・ハリスとの離婚訴訟に巻き込まれた。離婚に関してはいったん和解が成立していたのだが、チャップリンと『キッド』の配給元であるファースト・ナショナル・ピクチャーズとの間で契約上のトラブルがあった(チャップリンが六巻物の劇映画として製作していたのに対し、ファースト・ナショナル社は二巻物の短編喜劇3本という扱いにして、チャップリンへの給与を削ろうとした)ため、離婚訴訟を利用して『キッド』の未編集フィルムを差し押さえてしまおうという企みがあった。チャップリンは差し押さえを避けるため、フィルムをコーヒーの缶につめてソルトレイクシティホテル・ユタ英語版の一室へと逃れて編集作業を行った[5]。その後、惨憺たる苦心の下で完成した『キッド』は、市場に出す前に親しい友人の早川雪洲らに試写してみせたという逸話も残している[6]

スタッフ

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出典:[7]

評価

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ランキング

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  • 2018年 「史上最高のコメディー映画ベスト100」(米『ペースト』発表)33位[8]
  • 2023年 「映画評論家が選ぶ史上最高の映画ベスト100」(米『タイム』発表、10年単位で選出)1920年代のベスト10内の1作[9]

翻案作品

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  • 『地獄船』 - 1922年の映画。脚本:伊藤大輔、監督:野村芳亭[10]
  • 『下町のチビ太キッドの物語』(電子書籍版では『下町のチビ太キッド』と改題[11]) - 赤塚不二夫の漫画『おそ松くん』の1エピソードとして描かれた。チャップリンに似た衣装の男(赤塚不二夫の『モジャモジャおじちゃん』の主人公モジャモジャおじちゃん[12]を流用)が捨て子のチビ太を拾って育てるストーリー。「おそ松くん全集」第19巻(曙出版、1969年刊行)[13]、電子書籍版第20巻[11]所収。
    • 『チビ太のまぶたの母ザンス』 - 上述のエピソードのアニメ版。アニメ『おそ松くん』第2作第79話(1989年11月11日)[14]。チビ太の育ての親はデカパン[15]に変更され、ストーリーにも変更が加えられている。
  • 流星 (1999年の映画)中国語版』 - 1999年の香港映画。監督:ジェイコブ・チャン英語版(張之亮)[16]。本作を原案とする[17]
  • The Kid』 - 2015年の映画。脚本・監督:デヴィッド・スコット・ヘック[18]。チャップリンの『キッド』のリメイク作品[19][20]

脚注

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注釈

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  1. ^ キッドが投石で窓を割り、放浪者がガラス屋を装って修理して金を得る。

出典

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  1. ^ Box office at IMDB accessed January 27, 2017
  2. ^ The Kid (1921)” (英語). The Numbers. 2022年12月5日閲覧。
  3. ^ Phillips, McCandish (1972年4月4日). "Chaplin Returns With Silent-Film Style". The New York Times (アメリカ英語). The New York Times Company. p. 1. 2023年10月8日閲覧
  4. ^ Robinson, David [in 英語]. "Charlie Chaplin : Filming The Kid". charliechaplin.com (英語). 2023年12月7日閲覧
  5. ^ Vance, Jeffrey [in 英語] (2014年). "The Kid". silentfilm.org (英語). San Francisco Silent Film Festival. 2023年12月7日閲覧Chaplin ...was forced to flee California with the negative of The Kid in an effort to thwart Mildred Harris's legal attempts to attach the film in her divorce settlement.
  6. ^ 長田秀雄「親しいチヤーリイに日本を理解させたい(下)〔ママ〕」『時事新報』1932年5月18日、[要ページ番号]。「友人早川雪洲君から、こんな逸話をきかされた事がある。チャップリンが名作「キッド」を仕上げた時。その頃親しくしていた雪洲君の家へある夜突然やってきた。丁度、そこには、映画批評家の何とかいう有名な人が来合わせていた、その批評家は、決してお世辞を言わない信用の置ける人だったそうである。〈略〉その晩は彼は、客間へ入ってきた。そして非常にガッカリしたような態度で、雪洲とその批評家に向かって、「どうもこんどの映画は不出来らしい。折角苦心して創ったけれど自分は売り出すのはよそうと思う。」とこう言った〈現代仮名遣いに適宜修正していることに注意〉」新聞の正式な発行日は昭和7年5月18日。[信頼性要検証]
  7. ^ "The Kid (1921)". IMDb (英語). 2023年11月4日閲覧
  8. ^ Burgin, Michael; Paste Movies Staff (2018年5月22日). “The 100 Best Comedies of All Time” (英語). pastemagazine.com. 2022年12月24日閲覧。
  9. ^ The 100 Best Movies of the Past 10 Decades - 1920s” (英語). TIME. TIME USA. 2023年11月4日閲覧。
  10. ^ 地獄船”. www.shochiku.co.jp. 2023年12月16日閲覧。
  11. ^ a b おそ松くん 20巻 - 赤塚不二夫 - 無料まんが・試し読みが豊富!電子書籍をお得に買うならebookjapan”. ebookjapan. 2024年12月1日閲覧。
  12. ^ モジャモジャおじちゃん”. 赤塚不二夫公認サイトこれでいいのだ!!. フジオプロ. 2023年10月7日閲覧。
  13. ^ 赤塚不二夫『下町のチビ太キッドの物語』曙出版、東京〈おそ松くん全集 19〉、1969年。国立国会図書館サーチR100000002-I000000803666 
  14. ^ おそ松くん(1988年版) 第79話 おそ松くん「チビ太のまぶたの母ザンス」(アニメ) | WEBザテレビジョン(5294-80)”. WEBザテレビジョン. 2024年6月30日閲覧。
  15. ^ デカパン”. 赤塚不二夫公認サイトこれでいいのだ!!. 2023年1月3日閲覧。
  16. ^ allcinema. “ジェイコブ・C・L・チャン(Jacob C.L. Cheung)”. allcinema. 2024年12月1日閲覧。
  17. ^ 流星(1999・香港) - 映画.com. 2022年11月22日閲覧。
  18. ^ David Scott Heck - IMDb(英語). 2023年12月23日閲覧。
  19. ^ The Kid (2015) - IMDb(英語). 2023年12月23日閲覧。
  20. ^ "Producer". WTH Films (アメリカ英語). WTH Films. 2023年12月22日閲覧

関連項目

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外部リンク

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