コンテンツにスキップ

カテナチオ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

カテナチオ: Catenaccio 発音: [kateˈnattʃo] カテナッチョ、意味: 〈かんぬき〉)とは、1950年代 - 1960年代イタリアで流行した堅守速攻サッカーの戦術[1]

概要

[編集]

世界では堅守速攻の総称として「カテナチオ(Catenaccio)」の用語が用いられているが、日本ではカテナチオは堅守速攻の中の一戦術として用いられることが多い。

カテナチオという言葉はイタリア語で「掛けがね」や「」(かんぬき)という意味である。ディフェンスラインの後ろで左右に動くスイーパーの動きが閂を差す動きに似ていた事が名前の由来。カギを掛けたように守備が堅い戦術という意味もある。多くの選手が自陣に引いてしっかり守るという堅い守備で、前線の数人だけで素早く得点を取るというイタリアの堅守速攻サッカーの戦法である。サッカーにおいて堅実な試合運びを好み、内容よりも結果を重視するイタリア人らしい戦術である。

カテナチオの起源はカール・ラパンのベロウ・システムである[2][3]。ディフェンスラインの後ろに「Verrouller」(完全に守備的な選手を置く戦術)をイタリアの各クラブチームが採用し、発展させたのがカテナチオであり、イタリアで初めてカテナチオを取り入れた人物であるネレオ・ロッコパドヴァ[4][5]エレニオ・エレーラインテル[6]、等が代表的である。エレーラは1960年代にこの戦術を用いて国内リーグ・タイトルやヨーロッパ・チャンピオンズカップを勝ち取り、チームは「グランデ・インテル」と呼ばれた。

エレーラのカテナチオはマンツーマンで守る4人のマンマーカーの後ろに、この4人が逃した相手アタッカーを捕まえる守備の選手を置くというものであった。この選手はマンマークの守備から自由であったことから、イタリア語で「自由」を意味するリベロと呼ばれるようになった。1-4-3-2のシステムで4人のフルバックが相手の4人のフォワードをマンマークし、その後ろで余ったリベロがそのカバーリングを行った。その後にフォワードの数が1人減った4-3-3のフォーメーションが現れると、フルバックが1人減った1-3-3-3へと変化したが、基本的には同じである。3人のフルバックのうち右のフルバックは守備専門であるが、左はオーバーラップして攻撃参加するテルツィーノ・フルイディフィカンテ[注 1]であった。

自陣ゴール前に多くの選手を配置することで失点を抑え、手堅く勝利することや引き分けるための堅守を徹底する戦術をパーク・ザ・バスという。

カテナチオを使用するチーム

[編集]

日本では堅守速攻が得意なチームに対して「カテナチオ」をもじった愛称が付けられることがある。

水戸ホーリーホック、2003年
「水戸ナチオ」
当時J2に在籍。新監督となった前田秀樹は他クラブに劣っていた資金面・戦力面を、徹底した専守防衛で補おうとした。守備時は全選手が自陣深くまで引き、攻撃はカウンター一筋でポゼッションは半ば放棄していた。一部サポーターが「水戸ナチオ」と呼ぶようになり、2007年以降攻撃的サッカーへ転換するが、水戸を代表する代名詞として用いられている。
横浜FC、2006年
「ハマナチオ」
当時J2に在籍。第2節から高木琢也が監督として指揮すると、第18節まで15試合連続無敗。当時のJリーグ記録となる無失点継続時間「770分」を達成した[7]
大分トリニータ、2008年
「カメナチオ」[8]
当時J1に在籍。監督のシャムスカは相手を研究する能力に定評があり[8]、率いた4年間で固定されていた守備陣の連携はリーグトップの堅守に繋がった。失点数「24」、無失点試合数「17」はリーグ記録[9][10]。名称はこの年に誕生した亀をイメージしたクラブマスコット「ニータン」に因む。
大宮アルディージャ、2013年
「アルナチオ」
当時J1に在籍。ズデンコ・ベルデニックが監督に就任し、守備徹底と攻守切り替えの速い堅守速攻を徹底し、崩壊していた守備を立て直した。当時のJリーグ記録となる21試合連続無敗を記録した。
名古屋グランパス、2020 - 2021年
「カテナゴヤ」[10]、「グラナチオ」[11]
当時J1に在籍。フィッカデンティは前年まで守備が崩壊していたチームを堅守速攻型へと再編。無失点試合数「17」は2008年の大分と並ぶリーグ記録タイ[10]。翌2021年には同一シーズンにおける連続無失点試合「9」、無失点継続時間「823分」のリーグ記録を更新した[7]
湘南ベルマーレ、2021年
「ベルナチオ」[12]
当時J1に在籍。堅守を土台にした全員で守り切る戦術で、7試合連続無敗のクラブ新記録を樹立した。

ワールドカップ代表

[編集]

2010 FIFAワールドカップでは日本代表は一部マスコミから「オカナチオ」と呼ばれた[13]。監督である岡田武史の名前に因んだ名前であり、本大会直前の試合で良い結果を得られずにグループリーグ初戦で一転して守備に重点を置いたフォーメーションに変更したことに起因する。その結果、自国開催であった2002年大会以外の初勝利、初の決勝トーナメント進出を果たした。

2022 FIFAワールドカップでは日本代表はスペイン戦にて5-4-1の可変カテナチオ堅守速攻を使用し[14][15][16][17][18]、パス1000回を駆使したスペイン相手に僅かシュート6回の堅守で勝利し[14]、日本代表がスペイン代表に勝利したのは史上初となった[14][15][16][17][18]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ それぞれイタリア語。テルツィーノ(: terzino)は「3番目の」という意味。フォーメーション上、3列目に位置するためこう呼ばれる。フルイディフィカンテ(: fluidificante)は「流動的な」という意味。

出典

[編集]
  1. ^ 大塚一樹『最新サッカー用語大事典 世界の戦術・理論がわかる!』マイナビ、2014年10月30日、144頁。ISBN 978-4-8399-5374-4 
  2. ^ "「イングランドはカテナチオをやろうとした」伝説サッキがEURO敗因を分析". Qoly. 2021年7月14日. 2023年11月2日閲覧
  3. ^ 弓削高志 (2020年3月20日). ""カテナッチョ"は死語にならない。吉田と冨安がイタリアにいる価値。". Number Web - ナンバー. 文藝春秋社. 2023年11月2日閲覧
  4. ^ 北條聡 (2021年1月21日). "数と時間のイノベーション。最強のカテナチオを実践したグランデ・インテル◎サッカー世界遺産第34回". サッカーマガジンWEB. ベースボール・マガジン社. 2023年11月2日閲覧
  5. ^ 西部謙司 (2018年1月12日). "カテナチオを担った矛と盾。強いイタリアを支えた功労者たち". footballista. ソル・メディア. 2023年11月2日閲覧
  6. ^ ジェレミー・ウォーカー (2008年4月10日). "フロンターレを完封した京都の"カトナチオ"". ジェレミー・ウォーカーのA View From A Brit. 2023年11月2日閲覧
  7. ^ a b ""823分無失点"破った豪快ヘッド弾! 鳥栖FW林大地が「勢いを持って飛び込めた」理由". ゲキサカ. 2021年4月18日. 2023年6月23日閲覧
  8. ^ a b "[ナビスコ杯] "カメナチオ"の勝利、大分・森重「一番いいときのサッカーができた」". ゲキサカ. 2008年11月1日. 2023年6月23日閲覧
  9. ^ "Jリーグ、心揺さぶる伝説の5チーム。別れの天皇杯制覇、大震災にも負けず・・・記憶に残るクラブは?". フットボールチャンネル. 2020年4月12日. p. 4. 2023年6月24日閲覧
  10. ^ a b c "カテナゴヤ!不動守備陣で最多17完封/最少失点王". nikkansports.com. 日刊スポーツ新聞社. 2020年12月26日. 2023年6月23日閲覧
  11. ^ "「若林君感半端ない」J公式が公開した名古屋守護神の驚異のスタッツにファン大反響". サッカーダイジェストWeb. 2021年4月15日. 2023年6月23日閲覧
  12. ^ "湘南鉄壁守備「ベルナチオ」あうんの呼吸で7戦負けなしクラブ新記録". スポーツ報知. 報知新聞社. 2021年5月3日. 2023年6月23日閲覧
  13. ^ “岡田監督 オランダから勝ち点奪取へ“オカナチオ””. スポーツニッポン新聞社. (2010年6月16日). https://www.sponichi.co.jp/soccer/news/2010/06/16/kiji/K20100616Z00002120.html 2023年6月23日閲覧。 
  14. ^ a b c 中山淳 (2022年12月3日). "W杯史上、究極のジャイアントキリングを達成した日本の驚くべきデータ。パス1000本を駆使したスペイン相手に、シュートわずか6本で勝ちきる". スポーツ総合雑誌 スポルティーバ 公式サイト web Sportiva. 集英社. 2022年12月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年6月23日閲覧
  15. ^ a b "【W杯】本田圭佑、スペイン戦のスタメンに見解 「3バックというより5バック」「守備的と見せかけて攻撃につなげやすい」". フットボールゾーン. 2022年12月2日. 2022年12月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年6月23日閲覧
  16. ^ a b "【日本かく戦え】5バックでワンチャンスに懸ける". スポニチ Sponichi Annex. スポーツニッポン新聞社. 2022年11月29日. 2022年11月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年6月23日閲覧
  17. ^ a b 沢田啓明 (2022年12月4日). "「"ミトマの1ミリVAR"を元審判が神レベル解説」ブラジルの"日本vsスペイン報道"がスゴい+やっぱりカオス「忍術ナルト魂だ!」(2/3) - サッカー日本代表". p. 2. 2022年12月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年6月23日閲覧
  18. ^ a b "堅守速攻で勝ち取った「ドーハの奇跡」 世界トップ相手にボール保持の理想は捨てた森保監督の戦術眼". 東京新聞 TOKYO Web. 中日新聞社. 2022年12月8日. 2022年12月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年6月23日閲覧

関連項目

[編集]