コンテンツにスキップ

「相貌失認」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
→‎外部リンク: 1件のリンク切れを修正 
m 外部リンクの修正 http:// -> https:// (www.cnn.co.jp) (Botによる編集)
 
(26人の利用者による、間の30版が非表示)
1行目: 1行目:
{{医学の情報源|date=2024年3月}}
'''相貌失認'''(そうぼうしつにん、''Prosopagnosia<ref>ギリシャ語の「prosopon(顔)」と「失認(agnosia)」の合成語</ref>'')とは、脳障害による[[失認]]の一種で、特に「を見てもそ表情識別が出来ず誰のか解らず、もって個人の識別が出来くなる症<ref>[http://www.wdic.org/w/SCI/%E7%9B%B8%E8%B2%8C%E5%A4%B1%E8%AA%8D 通信用語の基礎知識]より</ref>を指す 俗に'''失顔症'''とも呼ばれる。 頭部損傷や脳腫瘍・血管障害などが後天的に相貌失認を誘発する要因となる。
{{Infobox medical condition (new)
| synonyms = 失顔症
| pronounce = {{IPAc-en|ˌ|p|r|ɒ|s|ə|p|æ|ɡ|ˈ|n|oʊ|z|i|ə}}<ref>[http://www.collinsdictionary.com/dictionary/american/prosopagnosia prosopagnosia]. collinsdictionary.com</ref>
| name =
| image = Fusiform face area face recognition.jpg
| image_size = 220px
| alt =
| caption = 顔認識に関連する脳の部分、[[紡錘状回#機能|紡錘状顔領域]]
| field =
| symptoms =
| complications =
| onset =
| duration =
| causes =
| risks =
| diagnosis =
| differential =
| prevention =
| treatment =
| medication =
| prognosis =
| frequency =
| deaths =
}}

'''相貌失認'''(そうぼうしつにん、''Prosopagnosia<ref>ギリシャ語の「prosopon(顔)」と「失認(agnosia)」の合成語</ref>'')とは、脳障害による[[失認]]の一種である。目や鼻など顔のパーツは知覚可能である、顔全体を見て個人の識別をすることでき態を指す<ref>{{Cite web|和書|url=https://kotobank.jp/word/%E7%9B%B8%E8%B2%8C%E5%A4%B1%E8%AA%8D-190943 |title=相貌失認とは |website=[[コトバンク]]([[日本大百科全書]]) |accessdate=2022-4-10}}</ref>。俗に'''失顔症'''(しつがんしょう)とも呼ばれる。頭部損傷や脳腫瘍・血管障害などが後天的に相貌失認を誘発する要因となる。


== 歴史 ==
== 歴史 ==
親しい知人の顔が突然認識できなくなるという、典型的な症状は古くから確認されており、[[トゥキディデス]]の『[[戦史 (トゥキディデス)|歴史]]』には[[ペロポネソス戦争]]に参加頭部を負傷した兵士の症例が記述されており、その後も同様の症例が数多く報告されてきた。1947年に、一連の症状をドイツの神経学者{{仮リンク|ヨアム・ボーダマー|de|Joachim Bodamer}}が、「他の認知機能には支障がない」選択的な障害としてとりまとめ、'''相貌失認'''と命名した。
親しい知人の顔が突然認識できなくなるという、典型的な症状は古くから確認されており、[[トゥキディデス]]の『[[戦史 (トゥキディデス)|歴史]]』には[[ペロポネソス戦争]]に従軍頭部を負傷した兵士の症例が記述されており、その後も同様の症例が数多く報告されてきた。1947年に、一連の症状をドイツの神経学者{{仮リンク|ヨアム・ボーダマー|de|Joachim Bodamer}}が、「他の認知機能には支障がない」選択的な障害としてとりまとめ、'''相貌失認'''と命名した。


== 症状 ==
== 症状 ==
{{単一の出典|section=1|date=2024年3月}}
=== 認知機能障害 ===
=== 認知機能障害 ===
視覚失認などの他の失認と同様、相貌失認の発症者も目・鼻・口といった個々の顔のパーツや輪郭などを知覚することはできている。しかしこれを全体として「1つの顔」として正しく認識することができないため、人間の顔の区別がつかない、覚えられないといったもの、男女の区別、表情がわからないといった症状を訴える。よって、発症者は個人の認識を着衣や声といった、顔以外の情報により行っているケースが多い。ただし障害の程度によってはごく近しい人間は識別できている<ref>London のMcConachie(1976)で報告された12歳9か月の少女の事例等。</ref>ケースもあり、事例によりかなり差異がある。
視覚失認などの他の失認と同様、相貌失認の発症者も目・鼻・口といった個々の顔のパーツや輪郭などを知覚することはできている。しかしこれを全体として「1つの顔」として正しく認識することができないため、人間の顔の区別がつかない、覚えられないといったもの、男女の区別、表情がわからないといった症状を訴える。よって、発症者は個人の認識を着衣や声といった、顔以外の情報により行っているケースが多い。ただし障害の程度によってはごく近しい人間は識別できている<ref>London のMcConachie(1976)で報告された12歳9か月の少女の事例等。</ref>ケースもあり、事例によりかなり差異がある。
18行目: 45行目:
人間の個体識別は顔の認識だけでなく声や着衣、体格、振る舞いなど様々な情報を総合して行われており、顔の認識に障害があっても他の機能で代償し、日常生活に支障をきたしていないため、相貌失認を自覚していない人が相当に存在すると考えられる。
人間の個体識別は顔の認識だけでなく声や着衣、体格、振る舞いなど様々な情報を総合して行われており、顔の認識に障害があっても他の機能で代償し、日常生活に支障をきたしていないため、相貌失認を自覚していない人が相当に存在すると考えられる。


なお、遺伝による生得的症例である可能性も否定できず、1999年には父親と2人の娘にのみ障害があらわれ母親と息子には障害が見られないという家族が報告されている。
なお、遺伝による生得的症例である可能性も否定できず、1999年には父親と2人の娘にのみ障害があらわれ母親と息子には障害が見られないという家族が報告されている。


== 相貌失認の判定 ==
== 相貌失認の判定 ==
35行目: 62行目:
* [[オリバー・サックス]]
* [[オリバー・サックス]]
* [[ケン・ナカヤマ]] - ハーバード大学の相貌失認リサーチセンター代表<ref>[http://www.faceblind.org/ Prosopagnosia Research center]</ref>
* [[ケン・ナカヤマ]] - ハーバード大学の相貌失認リサーチセンター代表<ref>[http://www.faceblind.org/ Prosopagnosia Research center]</ref>
* [[ブラッド・ピット]] - 本人による申告<ref>[http://www.cnn.co.jp/showbiz/35032506.html ブラピ、人の顔が覚えられない症状? 米誌に告白] CNN.jp, 2013.05.24</ref>
* [[ブラッド・ピット]] - 本人による申告<ref>[https://www.cnn.co.jp/showbiz/35032506.html ブラピ、人の顔が覚えられない症状? 米誌に告白] CNN.jp, 2013.05.24</ref>
* [[池谷裕二]]
* [[池谷裕二]]


== フィクションへの登場 ==
== フィクションへの登場 ==
=== 映画 ===
* [[忘却シリーズ]]
* [[フェイシズ (2011年の映画)|フェイシズ]]
* [[症年症女]]
* [[ケルベロスの肖像]]
* [[かしまし 〜ガール・ミーツ・ガール〜]]
=== ゲーム ===
* [[9時間9人9の扉]]
* [[9時間9人9の扉]]
* [[ひとりのクオリア]]
* [[逆転裁判6]]
=== 小説 ===
* [[狂骨の夢]]
* [[狂骨の夢]]
* [[フェイシズ (2011年の映画)|フェイシズ]]- 映画。
* [[松本寛大|玻璃の家]]
* [[松本寛大|玻璃の家]]
* [[警視庁墨田署刑事課特命担当・一柳美結シリーズ]]
* [[久米田康治#読み切り|東風(不)見聞録]]
* [[薬屋のひとりごと]]
* [[リッチマン、プアウーマン]]  (作中では、'''心因性認識不全症候群'''と称されるが、作品オリジナル設定。心因性の失顔症) - テレビドラマ。
* [[トップナイフ-天才脳外科医の条件-]]
* [[ケルベロスの肖像]] - 映画。
* 時空犯
* [[アイ'ム ホーム]] - ドラマ(2015年)

* [[匂いを見る少女]] - 韓国ドラマ(2015年)
=== テレビドラマ ===
* [[ひとりのクオリア]] - ゲーム
* [[リッチマン、プアウーマン]] ('''心因性認識不全症候群'''と称されるオリジナル設定。心因性の失顔症)
* [[逆転裁判6]] - ゲーム
* [[アイ'ム ホーム]]
* [[ふつうになりたい]] - 漫画。comicoにて連載。
* [[匂いを見る少女]]
* [[警視庁墨田署刑事課特命担当・一柳美結シリーズ]]-文庫本
* [[相棒]]16 #9
* [[相棒]]16 #9
* [[愛しのホロ]]
* [[100日の郎君様]]
* [[初対面だけど愛してます]]
* [[ラジエーションハウス#テレビドラマ|ラジエーションハウス2]] 第3話
* [[マイ・ユニコーン・ガール]]
=== 舞台 ===
* [[今夜だけは月が綺麗ですね]]
=== 漫画 ===
* [[忘却シリーズ]]
* [[症年症女]]
* [[かしまし 〜ガール・ミーツ・ガール〜]]
* [[久米田康治#読み切り|東風(不)見聞録]]
* [[ふつうになりたい]] - comico
* [[青に、ふれる。]] - [[月刊アクション]]


== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
<references/>
<references/>


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
日本語のオープンアクセス文献
日本語のオープンアクセス文献
* 鳥居 方策, 玉井 顕 [http://dx.doi.org/10.2496/apr.5.854 「相貌失認」] 失語症研究(現高次脳機能研究) '''Vol. 5''' (1985), No. 2 pp.854-857
* 鳥居 方策, 玉井 顕 [https://doi.org/10.2496/apr.5.854 「相貌失認」] 失語症研究(現高次脳機能研究) '''Vol. 5''' (1985), No. 2 pp.854-857
* 河村 満 [http://dx.doi.org/10.2496/apr.21.128 「「街の顔」と「人の顔」」] 失語症研究(現高次脳機能研究) '''Vol. 21''' (2001) , No. 2 pp.128-132
* 河村 満 [https://doi.org/10.2496/apr.21.128 「「街の顔」と「人の顔」」] 失語症研究(現高次脳機能研究) '''Vol. 21''' (2001) , No. 2 pp.128-132
* [http://www.coder.or.jp/hdr/16/HDRVol16.7.pdf 顔認知の生得的特異性(梅本堯夫)]
* [http://www.coder.or.jp/hdr/16/HDRVol16.7.pdf 顔認知の生得的特異性(梅本堯夫)]
* 『天才と発達障害 映像思考のガウディと相貌失認のルイス・キャロル』(こころライブラリー)
* 『天才と発達障害 映像思考のガウディと相貌失認のルイス・キャロル』(こころライブラリー)
71行目: 116行目:
* [[シミュラクラ現象]]
* [[シミュラクラ現象]]
* [[顔認識システム]]
* [[顔認識システム]]
* [[スーパーレコグナイザー]]


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==

2024年8月7日 (水) 20:17時点における最新版

相貌失認
別称 失顔症
顔認識に関連する脳の部分、紡錘状顔領域
発音 [ˌprɒsəpæɡˈnziə][1]
概要
分類および外部参照情報

相貌失認(そうぼうしつにん、Prosopagnosia[2])とは、脳障害による失認の一種である。目や鼻など顔のパーツは知覚可能であるのに、顔全体を見て個人の識別をすることができない状態を指す[3]。俗に失顔症(しつがんしょう)とも呼ばれる。頭部損傷や脳腫瘍・血管障害などが後天的に相貌失認を誘発する要因となる。

歴史

[編集]

親しい知人の顔が突然認識できなくなるという、典型的な症状は古くから確認されており、トゥキディデスの『歴史』にはペロポネソス戦争に従軍して頭部を負傷した兵士の症例が記述されており、その後も同様の症例が数多く報告されてきた。1947年に、一連の症状をドイツの神経学者ヨアヒム・ボーダマードイツ語版が、「他の認知機能には支障がない」選択的な障害としてとりまとめ、相貌失認と命名した。

症状

[編集]

認知機能障害

[編集]

視覚失認などの他の失認と同様、相貌失認の発症者も目・鼻・口といった個々の顔のパーツや輪郭などを知覚することはできている。しかしこれを全体として「1つの顔」として正しく認識することができないため、人間の顔の区別がつかない、覚えられないといったもの、男女の区別、表情がわからないといった症状を訴える。よって、発症者は個人の認識を着衣や声といった、顔以外の情報により行っているケースが多い。ただし障害の程度によってはごく近しい人間は識別できている[4]ケースもあり、事例によりかなり差異がある。

なお、同じカテゴリーにあるものを区別することが困難であるため、たとえば車の車種の区別などがつかないという症例を併発する事例も報告されているが、これを相貌失認と同一視すべきかについては議論がある。

脳機能障害

[編集]

人間の顔を認識・識別する機能は側頭葉後頭葉に偏在する「顔領域[5]」と呼ばれる部位に依存しているとされ、この脳神経が何らかの原因で機能障害を生じることにより相貌失認に至ると考えられている。

先天性相貌失認

[編集]

先天的に相貌失認を発症する確率は2%程度と推定されており、一般的に想像されるよりかなり多い[6]

人間の個体識別は顔の認識だけでなく声や着衣、体格、振る舞いなど様々な情報を総合して行われており、顔の認識に障害があっても他の機能で代償し、日常生活に支障をきたしていないため、相貌失認を自覚していない人が相当に存在すると考えられる。

なお、遺伝による生得的症例である可能性も否定できず、1999年には父親と2人の娘にのみ障害があらわれ、母親と息子には障害が見られないという家族が報告されている。

相貌失認の判定

[編集]

各種の顔認知検査により判定される。代表的なものとしては

  • 有名人の顔と見知らぬ人の顔およびその名前と写真を見せて答えさせる。
  • 喜び、悲しみ、怒り、普通の顔の4種類の写真から表情を判定する。

などがある。発症者は正答率に有意な差が見られる。

相貌失認とされる著名人

[編集]

フィクションへの登場

[編集]

映画

[編集]

ゲーム

[編集]

小説

[編集]

テレビドラマ

[編集]

舞台

[編集]

漫画

[編集]

脚注

[編集]
  1. ^ prosopagnosia. collinsdictionary.com
  2. ^ ギリシャ語の「prosopon(顔)」と「失認(agnosia)」の合成語
  3. ^ 相貌失認とは”. コトバンク日本大百科全書. 2022年4月10日閲覧。
  4. ^ London のMcConachie(1976)で報告された12歳9か月の少女の事例等。
  5. ^ 紡錘状回(Fusiform Face Area 相手の顔を識別する)、上側頭溝(Superior Temporal Sulcus 相手の表情や視線を解釈する)、扁桃体(Amygdala 相手の表情によって情動・感情を喚起する)等
  6. ^ First Report of Prevalence of Non-Syndromic Hereditary Prosopagnosiaによる報告では689名中17名2.47%、なお発症者の一親等にも高確率で発症例が確認されている。
  7. ^ Prosopagnosia Research center
  8. ^ ブラピ、人の顔が覚えられない症状? 米誌に告白 CNN.jp, 2013.05.24

参考文献

[編集]

日本語のオープンアクセス文献

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]