【報知映画賞】二階堂ふみ、助演女優賞 「映画にしかできないコミュニケーションを信じて、長く関わっていきたい」
今年の映画賞レースの幕開けとなる「第48回報知映画賞」の各賞が27日、発表された。実際の障害者施設殺傷事件をモチーフにした「月」(石井裕也監督)が作品賞、助演男優賞、助演女優賞の3冠となった。施設職員を演じた二階堂ふみ(29)は、今作の出演を機に映画の持つ力を実感したという。表彰式は12月上旬に都内で行われる。
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ウソを拒絶しながらも、自分を偽ろうとする。二階堂は、そんな矛盾をはらんだ役柄に奮闘した。石井監督から「希望と絶望が共存する人物」と説明されたが、「最後まで悩み続けて正解にたどり着けなかった」。撮影から1年以上が経過したいま「答えは出ないけど、それも一つの正解かもしれない」と感じている。
「報知映画賞は権威のある、映画人なら一度は憧れる賞。ありがたいです」と喜び、同時にモチーフとなった事件にも思いをはせた。当初は「そもそも映画にしていいのか」と悩んだが、「一人のモンスター的な人が起こした事件と捉えるのではなく、社会に生きる当事者として向き合うべき」と出演を決意。その覚悟が賞として結実した。
取材はGACKT(50)とダブル主演した映画「翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~」の公開初日に行った。「『月』は『翔んで埼玉』とは全く違うテイストの作品ですよね」。実際の事件をモチーフにした問題作とご当地ジョーク全開のコメディー。両極端ともいえる2つの出演作が、同時期に公開されている。これこそ、二階堂の振り幅の大きさ、豊かな表現力を裏付けるものだ。
16歳にして映画「ヒミズ」(園子温監督)でベネチア国際映画祭の新人俳優賞に輝くなど、10代から演技力を高く評価された。その後もNHK連続テレビ小説「エール」など着実にキャリアを重ね、今年はTBS系ドラマ「VIVANT」でも注目された。
「経験を重ねると自分の表現に自信を持てると思っていたけど、そんなことは全然ないし、これからもないと思う。むしろ未熟さを受け入れられるようになった。少しは大人になったのかな」。最近は「エンジンをかけ続けるよりも、泰然自若に流れに身を任せよう」と自らに言い聞かせている。それによって心に余裕が生まれ、説得力のある演技につながっている。
「月」に出演したことで、映画への希望を一層強く感じるようになった。「映画には、誰かの感情や大きな物事を動かす力がある。SNSが発達した時代だからこそ、映画にしかできないコミュニケーションを信じて、長く関わっていきたい」。今回の受賞が映画女優として生きる通行手形になる。(有野 博幸)
★月 2016年7月に神奈川県相模原市の障害者施設で入所者19人が刺殺された事件をモチーフにした辺見庸氏の小説を映画化。元有名作家の堂島洋子(宮沢りえ)が障害者施設で働くことになり、作家を目指す坪内陽子(二階堂)、絵が得意なさとくん(磯村勇斗)ら同僚と仲を深めていく。洋子は職員による入所者への虐待を目にするが、施設では隠蔽(いんぺい)されている。そんな理不尽に最も憤っているのは、さとくんだった。
◆二階堂 ふみ(にかいどう・ふみ)1994年9月21日、沖縄県出身。29歳。2009年、役所広司の初監督作「ガマの油」で映画デビュー。11年の「劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ」で映画初主演。映画は「ヒミズ」「リバーズ・エッジ」「翔んで埼玉」など。NHK連続テレビ小説「エール」(20年前期)ではヒロインを演じた。身長157センチ。血液型O。
▼助演女優賞 選考経過 浜辺美波やMEGUMIを推す声もあったが、1回目の投票で二階堂ふみという決着となった。「ダントツだった。こういう作品の世界に住むべき人だなと感じる。40~50代が見せる懐の深さをすでに持っている」(渡辺)、「痛みと傷と自己承認欲求を抱えながら傍観する現代の若者を見事に肉体化した」(見城)
【選考委員】 荒木久文(映画評論家)、木村直子(読売新聞文化部映画担当)、見城徹(株式会社幻冬舎代表取締役社長)、藤田晋(株式会社サイバーエージェント代表取締役)、松本志のぶ(フリーアナウンサー)、YOU(タレント)、LiLiCo(映画コメンテーター)、渡辺祥子(映画評論家)の各氏(50音順、敬称略)とスポーツ報知文化社会部デスク及び映画担当。