「ソフトウェアを軽視し取り残された」 日本企業の国際競争力が低い理由
講演では、まず「日本企業の国際競争力の課題」について議論が交わされた。現在、日本企業の国際競争力は厳しい状況に直面しており、世界時価総額の上位50社に含まれる日本企業はトヨタ1社のみ。また、日本銀行の試算によると、日本は年間5兆円以上ものデジタル赤字を抱えており、この解消が急務とされている。
IT業界に30年以上携わる及川氏は、「IT産業の力とIT活用能力の低下が、日本企業の国際競争力の低下につながっている」と指摘し、「この問題はIT業界に限らず、すべての企業に当てはまる」と主張する。特にソフトウェアの活用について、日本企業が十分に力を発揮できていない現状を挙げ、「この課題を他人事ではなく、自分の責任として捉え、積極的に取り組むことが必要だ」と強調した。
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田中氏は、自身がロボット工学を学ぶ中で、ソフトウェアやネットワークシステム、サーバーに興味を持ち、それがデータセンター事業を手がけるきっかけになったと語る。
「ソフトウェアを動かすにはサーバーが必要で、サーバーを動かすにはデータセンターが必要です。そのため、データセンター事業は不動産業以外では成功しづらく、地方のデータセンターのほとんどが破綻しています。破綻を免れているのは、自社でクラウドサービスを作り運用している当社とソフトバンク、IIJだけです」(田中氏)
また、同氏は高等専門学校在学中である1996年に、さくらインターネットを創業した。当時はデータセンター事業者もなく、就職氷河期ということもあり、「自分でやるしかない」と起業したという。自らの経営やエンジェル投資の経験から「ほとんどの人は成功するまでに時間がかかる。失敗と成功には分岐点があり、その段階を越えることが難しい」と話す。
及川氏は、日本企業の現状を「失敗を許容する文化を醸成しようとする動きがあるものの、実態をともなわない場合が多い」と指摘。続けて、ソフトウェアプロダクト作りにおける仮説検証の重要性を強調した。
加えて、現代はハードウェアや社会の仕組みがソフトウェアを前提にする時代である一方、多くの人がその重要性に気づいていないとも指摘した。特に製造業では、工程の50%以上が電子化されているにもかかわらず、ソフトウェアが後回しにされることが多い。
「10年から15年を振り返ると、ハードウェア中心だったものが、ネットを通じてOTA(ソフトウェアアップデート)が可能になるなど、社会は大きな変化を遂げています。たとえば、テスラの車はスマートフォンのようにどんどん新しい機能が追加され、所有者はそれを楽しみに待つような形になっています。こうした流れを日本企業も取り入れていかなければ、厳しい状況に立たされるのではないかと感じています」(及川氏)
また、田中氏は日本企業がソフトウェアで成功している数少ない領域として、ゲーム産業を挙げた。ゲームは常にアップデートを重ね、ユーザーが使いやすく楽しめるよう進化を続けている。
最近ではUXという概念が注目されているが、「たとえば、キャラクターがすぐに負けるゲームでは面白くない。何度挑戦しても楽しさを感じられるような仕組みが重要」とし、ゲームが顧客体験を大切にして優れた工夫を取り入れていると語った。一方で、日本企業がゲーム以外の分野でソフトウェアを活用できていない現状にも疑問を呈す。
「日本企業がソフトウェアで失敗するのは日本だからというわけではありません。ただ、工業製品と結びついたときに多くの取り組みが失敗しています。この現状をもっと客観的に見るべきだと思います」(田中氏)
荒川氏は、自身のIT業界での経験を振り返りながらソフトウェアとサービスの重要性を強調。同氏が以前所属していたIBMでは、ハードウェア中心からサービス、ソフトウェア、クラウド、AIへと進化し、それが競争力維持につながったという。日本企業については「ハードウェア中心や製造業ドリブンの考え方から、ソフトウェアを重視する方向へ転換すべきだと感じます」と語った。