飲食店横丁があるミカン下北A街区には、愛称「ダンダン」という大階段が。待ち合わせや休憩などさまざまな形で人が集う場所に。

石塚さんの肩書は「実験パートナー」、菊池さんの肩書は「夢見る妄想部長」。ミカン下北の開発運営メンバーは、肩書もユニーク!

お話をお聞きした のはミカン下北内の人気ベトナム料理店「チョップスティックス」。本格ベトナム料理がリーズナブルに味わえます!

チョップスティックスの店内。小規模な飲食事業者の店が多く揃ったことで、ミカン下北の“個性”が生まれる結果に。

駅を降りるとすぐに見えてくるミカン下北。通りが広くなったことで、緊急車両が通りやすくなりました。

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東京の横丁をもっと知ろう〈知新編〉

東京・下北沢に新たに登場した横丁は
「やってみたい」を応援する場所

「若者の街」と言われる東京・下北沢に、2022年に新たな“横丁”が誕生しました。それが京王井の頭線の高架下に開業した「ミカン下北」です。飲食店や雑貨店などの約20店舗に加え、ワークプレイス『SYCL by KEIO』からなる、新たな商業とビジネスの拠点でありながら、下北沢という街の持つざわめきと空気にすんなりと馴染んでいる、なんとも不思議な場所なのです。

ではなぜ、ミカン下北は“下北沢らしい”場所なのか? 開発を手掛けた菊池祥子さんと、現在運営を担当する石塚まゆさんに、その秘密をお聞きしました。

プロフィール

菊池祥子さん
(写真左)
京王電鉄株式会社
開発事業本部

2006年入社。ショッピングセンターの運営管理を行うSC営業部にて現場を経験した後、子育て世代や高齢者向けの住宅開発を担当。京王ストアへ出向し、ドラッグストアFC事業の立上げ、店舗の改装・新規出店、営業戦略立案など小売業の立場も経験。2020年7月に京王電鉄へ復職し、ミカン下北の立ち上げを担当。

石塚まゆさん
(写真右)
株式会社京王SCクリエイション 営業推進部 

2020年に京王電鉄へ入社し、現在は京王沿線の商業施設運営をおこなう株式会社京王SCクリエイションへ出向中。ミカン下北では、店舗の営業サポートやリーシング、設備維持管理のほか、地域と連携したイベント企画や、コミュニティプログラムの運営まで、施設に関わる全般を担当する。

“実験”というキーワードが
形になっていった場所

京王井の頭線と小田急線が交差する下北沢駅。かつてはこの2線の駅が一体化していましたが、駅の地下化をきっかけに大規模な改良工事が行われました。それと同時に、京王井の頭線高架下の開発が行われることに。この計画自体は10年以上前からスタートしていたといいます。

「もともと、この場所は盛土という盛られた土の上に線路があったんです。しかし、安全面を考えたらやはり高架にしたほうがいい。また、以前の下北沢駅周辺は道が狭く、消防車や救急車などの緊急車両も入りづらい状況でした。行政としては安全対策をしたい、私たちも高架化することで生まれる空間を活用することができる。そういった思いが一致し、始まった開発計画でした」(菊池さん)

「ミカン下北」という名前の由来は“未完”。未完成だからこそ生まれる、実験したい、挑戦したい、という気持ちを促したいという思いから名付けられたとのことですが、この“実験”というキーワードがこの場所の立ち上げにあたり、非常に重要だったといいます。たとえば下北沢駅を降りてミカン下北に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのがこの“横丁”です。ベトナム料理店からタイ料理店、台湾料理店、ビストロ、イタリアン……。さまざまな国の料理店が並んでいますが、良い意味で統一されておらず、雑多な感じが賑やかな空間を演出しています。また、店の軒先には屋外席がズラリ! この熱気、まるでどこかアジアの国に迷い込んだような気分にさせてくれます。

「店舗の皆さんには、表情や個性が出るようなお店作りをして欲しいと思っていました。下北沢という地域自体がそもそも、個性的なお店が集まり、どこかガヤガヤしているところが魅力なんですよね。その空気感は引き継ぎたいと思いましたし、下北沢の街とミカン下北の境目を感じてほしくなかったんです」(菊池さん)

屋外席も“店舗の外にはみ出して良いライン”をあらかじめ決めているという、通常の商業施設ではまず見かけない運用ルール。しかしこの屋外席が生む屋台感が、新たな施設でありながら街にすんなり馴染む要因のひとつに。実は京王電鉄はこの再開発を手掛けるにあたり、2016年から2019年まで「下北沢ケージ」という期間限定のイベントパークを高架下で運営するなど、「下北沢という街に求められているもの」を時間をかけて探ってきた経緯があります。このミカン下北が街に馴染んでいるのは、そういった丁寧なプロセスがあってこそなのでしょう。

「あと、ミカン下北では「SYCL by KEIO」というワークプレイスを備えているというのも大きな「実験」です。これまで下北沢は『遊びに来る』というイメージはあっても、『働く』というイメージは少なかったのではと思います。でも、これだけいろいろと何かを“やっている”人たちが多いということは、事業をやりたい人も多いのでは?と。そういう人たちがつながる場所としてワークプレイスを設けてみたら面白いのではないかと思ったんです」(菊池さん)

飲食店やショップ、ワークプレイス。業態の形は違えど、人と人がつながるという役割は同じ。これもまた、新たな“横丁”のかたちと言えるでしょう。

「やってみたい人がいる」のが
下北沢らしさ

現在、ミカン下北で運営を担当している石塚さん。新しい商業施設の場合、存在を知ってもらうためになにか面白いイベントなどを企画する……というのが一般的ですが、ミカン下北のスタンスはまたひと味違います。

「私たちがなにかを仕掛けるのではなく、『街の中から生まれてくるものを、全力でアシストするパートナー』になりたいんです。だから私の肩書も『実験パートナー』なんですよ」(石塚さん)

そういったアシストから生まれたもののひとつが、下北沢で入場無料のお笑いライブを開催している「下北GRIP」と共同で開催した実験型お笑いライブフェス『下北www.2023』。

「取材をきっかけに下北GRIPさんとお話をする機会があり、そのときに『お笑いはライブハウスというハコの中に入ってしまっていて、わざわざ観に行かないと来てもらえないというハードルの高さがある。普段お笑いに馴染みのない人にもふらっと街中で見てもらえるようなイベントができたらいいのに』というお話を聞いたんです。だったら、その思いを実現しませんか?と提案しました」(石塚さん)

2023年の5月に4日間にわたって開催されたこの実験型お笑いフェス。期間内は大階段や屋上、ときには飲食店の店内など、通常お笑いライブが行われないような場所も含めてミカン下北内の各所でライブが開催されることに! このライブ感あふれる空間が非常に好評を博し、2024年はユニクロ下北沢店やほかの飲食店などへも会場を拡大する形で開催されました。

「何かを観に来たわけではないお客さまでも『下北沢はカルチャーの街』という印象を持つ方は多い。だからこそ、ちょっと訪れた場所でお笑いライブをやっているというのはすごく下北沢らしさを感じてもらえることなんですよね。また、出演された方からも『普段は観てもらえないような方から生の反応が得られて嬉しかった』という声をいただきました」(石塚さん)

下北沢という街がなぜ“若者の街”なのか? それは音楽でも、演劇でも、お笑いでも、小さなお店でも、とにかく「なにかをやりたい」という若い人たちが集まる場所だから。ミカン下北は、そういった「なにかをやりたい」に伴走する場所になりたい、と石塚さんは語ります。

「ミカン下北を訪れて『この場所でこんなことをやってみたい』ということを思いついたら、ぜひ私たちに相談してください。実現に向けて、全力でお手伝いできればと思います」(石塚さん)

駅を降りるとすぐに見えてくるミカン下北。通りが広くなったことで、緊急車両が通りやすくなりました。
飲食店横丁があるミカン下北A街区には、愛称「ダンダン」という大階段が。待ち合わせや休憩などさまざまな形で人が集う場所に。
石塚さんの肩書は「実験パートナー」、菊池さんの肩書は「夢見る妄想部長」。ミカン下北の開発運営メンバーは、肩書もユニーク!
お話をお聞きした のはミカン下北内の人気ベトナム料理店「チョップスティックス」。本格ベトナム料理がリーズナブルに味わえます!
チョップスティックスの店内。小規模な飲食事業者の店が多く揃ったことで、ミカン下北の“個性”が生まれる結果に。

街を考えたら見えてきた?
横丁が担う、新たな役割

開発を担当することになり、改めて「下北沢はどんな街か」を考えたときに、ふと“目的以外の楽しみ方を知りづらい”街なのでは?と思ったという菊池さん。演劇が好きな人は劇場へ、音楽が好きな人はライブハウスへ……、そのため他のカルチャーに触れることなく帰ってしまう。意外と『初めて来た人が楽しみ方を知る』ことが難しい街なのでは、と。だからこそ、ミカン下北は、そういう人たちの“街の入門編”になって欲しい、とも。

こうした個性豊かで新しい“つながり”が生まれる街が数多くあるのも東京の大きな魅力です。ひとりでも友達同士でも入りやすい飲食店、発想と人とのつながりが生まれやすいワークプレイス、この場所で開催される“面白いこと”。そんなことをきっかけに、下北沢という街をもっと知り、そして好きになっていく。東京の“横丁”が街の楽しみ方を拡張してくれる、そんな新しい役割を、この場所で見せてもらえた気がします。

撮影協力

チョップスティックス 下北沢店
  • 所在地東京都世田谷区北沢2-11-15 ミカンA206
    Google Maps
  • アクセス下北沢駅徒歩2分、下北沢駅東口より約130m
  • 営業時間11:30~15:00、17:00~21:00L.O
  • 電話番号03-6805-5833

横丁info

ミカン下北

京王井の頭線の高架下に2022年3月30日に開業。5つの街区にわかれ、オフィス、飲食店、美容室や古着屋、図書館カウンターなどさまざまな店が顔を揃えています。

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・未成年者の飲酒は法律で禁じられています。お酒は20歳になってから。
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