暗闇の中を
手さぐりで進む
そんな戦いの中で
自分に問い続ける他の誰かより私が
優れているものは何だ
スマイルトゥモロー(Smile Tomorrow)とは、1999年生まれの日本の競走馬。鹿毛の牝馬。
折り合いに苦しみ、クラシック制覇よりもGⅢでの爆走が語り草となった、2002年のオークス馬。
主な勝ち鞍
2002年:優駿牝馬(GⅠ)、フラワーカップ(GⅢ)
父*ホワイトマズル、母コクトビューティー、母父*サウスアトランティックという血統。
父は*ダンシングブレーヴ産駒で、G1勝利は1993年のデルビーイタリアーノ(伊ダービー)のみだが、キングジョージで2年連続2着、凱旋門賞2着などの実績を残した。種牡馬として輸入された日本ではイングランディーレやシルポート、アサクサキングス、ニホンピロアワーズなどを輩出した。
母は主にダートを走って26戦4勝。
母父はミルリーフ産駒。自身は9戦2勝、G2を1勝したのみ。種牡馬としてはサクラサエズリなど4頭の中央重賞馬や、地方で活躍したマルブツセカイオーなどを輩出した。
1999年4月20日、静内町の千代田牧場で誕生。オーナーはその千代田牧場の現代表・飯田正剛。2021年の阪神JFを勝ったサークルオブライフと同じである。
近親にも後に甥にAJCCを勝ったクリールカイザーが出た程度で、血統的には地味……というか、父ホワイトマズルは2年目のシーズンに細菌感染で受胎率が極端に低下(88頭の種付けで生産頭数8頭)するアクシデントがあって評価が著しく下がっていた時期だった。母コクトビューティーも先に産んだ兄たちが未熟仔続きだったりとさっぱりで千代田牧場内では全く期待されておらず、「ホワイトマズルでもつけておこう」「受胎すれば儲けもの」という非常に投げやりな配合の結果、生まれたのがスマイルトゥモローだったという。
ただ、生まれてからは動きの良さが見えてきて、牧場的にはわりと期待して送り出したようだ。
2000年に開業したばかりの美浦・勢司和浩厩舎に預けられたスマイルトゥモロー。当初の彼女は注目株でも何でもなく、2001年10月27日、二本柳壮を鞍上に迎えた福島・芝1200mのデビュー戦は21.2倍の8番人気。しかしここを2番手で先行し4着と健闘すると、折り返しの新馬戦では8.8倍の3番人気に評価を上げ、ここをなんと2番手から抜け出して4馬身差で圧勝する。
この強い勝ち方で年末のフェアリーステークス(GⅢ)に挑み、9.1倍の6番人気となかなかの支持を集めたが、中団に埋もれたまま「外国産ずがば!」サーガノヴェルから1.3秒も離されて11着に撃沈。
明けて3歳、3回も除外を食らってなかなか使いたいレースを使えず、ようやく出走できたのが中山・芝1600mの黄梅賞(500万下)。吉田豊騎手と初コンビを組んだスマイルトゥモローは、23.9倍の9番人気という低評価だったが、中団待機から直線で外に持ち出すと豪脚一閃。あっという間に先行集団をかわして2馬身半差の完勝。これが吉田豊の通算400勝目となった。
当初は黄梅賞の後は放牧の予定だったが、この勝利で本格的にクラシックを狙うことになり、中1週でフラワーカップ(GⅢ)へ。名手・岡部幸雄を迎えたここでは6.1倍の3番人気に支持され、なんと中団から向こう正面で大捲り、4コーナー前でもう先頭、そのまま府中の長い直線を押し切って2馬身半差の快勝という破天荒なレースで重賞初制覇を飾る。勢司師ももちろんこれが重賞初制覇だった。
……この無茶苦茶なレースぶりでなんとなく察した人もいるかもしれない。そう、スマイルトゥモローはとにかく前に行きたがる気性の馬だった。牧場によると普段は大人しいのだが、調教で他の馬と一緒に走るとすぐヒートアップしてしまうタイプだったそうである。
フラワーカップの大捲りも狙っての戦法ではなく、中盤の緩んだペースで前が開くともう我慢しきれずの進出。それで2馬身半差で押し切ってしまうのだから力があるのは間違いなかったが、この気性難は後々まで彼女の競走生活を大きく左右することになる。
話を戻そう。歴とした重賞馬となって乗りこんだ桜花賞(GⅠ)では、岡部に1番人気シャイニンルビーの先約があったこともあり鞍上は吉田豊に戻ったが、スマイルトゥモローも8.8倍の4番人気と有力馬の一角に数えられるだけの人気を集めた。しかしスタートで出遅れると、行きたがる彼女を吉田騎手が必死に抑えながらのレースとなり後方のまま直線。大外に持ち出して追い込んだものの見せ場なく6着に敗れた。
続いての優駿牝馬(GⅠ)。桜花賞にて13番人気で大穴を開けたアローキャリーが回避したこともあり本命不在の大混戦ムードの中、スマイルトゥモローは今回も10.5倍の4番人気。しかし彼女はパドックから明らかにイレ込んでおり、気性面の不安が漂っていた。
吉田騎手ももちろん、黄梅賞での初騎乗のときから、彼女のこの行きたがる気性をどうエネルギーに変えるかに腐心していた。レースは行きたがる彼女を必死になだめながら後方で折り合いに専念。桜花賞でもちょっとでも前と間隔が空くと猛然と詰めに行ってしまったため、とにかく馬群の後ろに貼り付くようにしてレースを進めた。
そして4コーナーの出口。前を行っていた馬たちが揃って外に向かったため、最内がぽっかりと空白地帯と化した。吉田騎手は貯めに貯めこんだ彼女のエネルギーを解放する。スマイルトゥモローは経済コースを通って一気に進出。直線では一度前が塞がるが、そこから馬場の真ん中に出して進路を確保すると、吉田騎手の鞭に応えたスマイルトゥモローは前の3頭を並ぶ間もなく呑み込み、吉田騎手のフライング気味のガッツポーズとともに栄光のゴール板へと飛び込んだ。
断然の上がり最速34秒7の鬼脚一気。勢司師も飯田オーナーもGⅠ初制覇、千代田牧場はクラシック初制覇。フラワーカップ勝ち馬がクラシックを勝つのも初。福島デビューの馬のオークス制覇は史上3頭目。全く期待されていなかった投げやり配合で生まれた仔が、世代牝馬の頂点に立ったのだった。
……だが……。
オークスの後、秋へ向けて休養に入ったスマイルトゥモローだが、休養が長引いて秋華賞は回避。エリザベス女王杯(GⅠ)で復帰することになった。しかし彼女が休んでいる間に、この世代の牝馬戦線にはとんでもないバケモノが名乗りを上げていた。秋華賞を持ったままで圧勝した外国産馬ファインモーションである。その本物の鬼脚に全く手も足も出ず6着に敗れ、また長めの休養に入る。
結局また半年以上休み、古馬となっての復帰戦は6月のエプソムカップ(GⅢ)。しかし古馬となって落ち着きが出るどころか、彼女の気性難はさらに悪化していた。吉田騎手も制御できず向こう正面で中団から一気に2番手まで上がって行ってしまい、直線では余力なく5着。
続いてのマーメイドステークス(GⅢ)では気性難の馬の扱いに定評がある武豊を迎え、2.5倍の1番人気に支持されたが、スタート直後からもう完全に折り合いどころの話ではない暴れぶり。鞍上との戦いで消耗して10頭立て7着に撃沈。
そして、そのときがやって来た。2003年10月19日、府中牝馬ステークス(GⅢ)。このレースでスマイルトゥモローの名は、ある意味で伝説となる。
鞍上に初騎乗の柴田善臣を迎えたスマイルトゥモローは、スタートから一気に前に飛び出していくと、11.7 - 10.9 - 10.6 - 11.3という狂気のラップを刻み、後続を突き放してのとんでもない大逃げに突入する。1000m通過タイムは衝撃の56秒3。これは2023年現在も、東京・芝1800mにおける1000m通過の最速タイム記録である。実況も「これはあまりに速すぎる!」と叫ぶ、まさに破滅的大暴走だった。
しかも、である。後続を遥か後方に置き去りにしたまま直線に入ったスマイルトゥモローは、府中の長い直線を残り50mまで粘り倒し、最後はかわされたものの3着に残したのである。
オークスを追い込みで勝った馬が、ツインターボもかくやという大逃げで、あわやそのまま逃げ切りかというこのレースは当時のファンに衝撃を与え、スマイルトゥモローといえばオークスの勝利よりも、この府中牝馬Sを思い出すというファンは少なくない。それが彼女にとって良かったのかどうかはともかく……。
そして一度こんなレースをしてしまうと、もはや抑えて折り合いをつけることは不可能だった。鞍上が吉田豊に戻ったエリザベス女王杯(GⅠ)でも逃げ馬メイショウバトラーを置き去りに、1000m通過57秒5の大暴走。そして今度は3コーナーでもう捕まって沈み、あえなく最下位15着に撃沈。12月の阪神牝馬ステークス(GⅡ)も1000m57秒7でぶっ飛ばした挙げ句に沈んで14着。
明けて5歳、中山牝馬ステークス(GⅢ)ではもはや逃げるだけの闘争心すら失われたのか、後方から追い込んでの7着に終わり、現役を引退した。通算14戦4勝。
とにかくひたすらに折り合いに苦しんだ競走生活であり、当時のファンには「折り合いを欠く」ということを体現した馬として記憶される。なんとか我慢して追い込みで勝ったオークス、全てを解き放ったとんでもない大逃げで3着に残した府中牝馬S、果たしてどちらが本当の彼女の姿だったのか。あるいはどちらでもない第三の姿があり得たのか。それは誰にもわからない。
引退後は故郷の千代田牧場で繁殖入り。しかし目立った産駒は送り出せず、ダイワメジャーの仔を受胎していた2017年7月26日、小腸破裂を起こし胎内の仔とともに18歳で死亡した。3頭の牝馬が繁殖入りし、彼女の血を繋いでいる。
*ホワイトマズル 1990 鹿毛 |
*ダンシングブレーヴ 1983 鹿毛 |
Lyphard | Northern Dancer |
Goofed | |||
Navajo Princess | Drone | ||
Olmec | |||
Fair of the Furze 1982 鹿毛 |
Ela-Mana-Mou | *ピットカーン | |
Rose Bertin | |||
Autocratic | Tyrant | ||
Flight Table | |||
コクトビューティー 1988 鹿毛 FNo.4-c |
*サウスアトランティック 1980 鹿毛 |
Mill Reef | Never Bend |
Milan Mill | |||
Arkadina | Ribot | ||
Natashka | |||
シルクエンゼル 1983 鹿毛 |
*パーソロン | Milesian | |
Paleo | |||
シルクベエンチア | *ヴェンチア | ||
チハヤエンゼル |
掲示板
1 ななしのよっしん
2023/02/10(金) 09:17:39 ID: DZgsdjT18H
最近になって抑えが効かない暴走馬繋がりでレッドベルオーブも出てきたが、
一度こうやってぶっ飛ばしちゃうと『もう修正は無理』なんかね
2 ななしのよっしん
2024/03/30(土) 06:56:02 ID: ppWWbxlAb9
こうすりや勝てるんでしょ!勝てば良いんでしょ!
って馬が認識しちゃうんじゃない?
自分のやりたい走り方で惜しいとこまでいったら、そらを追っちゃうのは人間もそうだし
3 ななしのよっしん
2024/12/07(土) 12:35:48 ID: gAOwvoK8Vg
偶に善臣先生の過去話になると「あれはやっちゃったよね…」って出てくる印象が強い
急上昇ワード改
最終更新:2025/01/02(木) 07:00
最終更新:2025/01/02(木) 07:00
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