阪神7801形・7901形とは、阪神電気鉄道が所有していた鉄道車両である。
概要
1960年代の高度経済成長期、輸送量の急激な増加に対応するため、架線電圧の600Vから1500Vへの昇圧を計画していた阪神電鉄が、昇圧未対応の旧型車を一掃するために製造した。
そのために前世代の3301形・3501形から始まっていた「赤胴車」の性能を保ちつつ、なるべく低コストで数を揃えることを優先に設計されている。
製造時期や仕様によって大まかに4つのグループに分けられる。それらは下記で詳述する。
結果的には塗装変更や車体更新によって姿を変えた8000系などの車両を除けば、「赤胴車」の中で最後まで生き残ることになり、終の棲家である武庫川線での活躍が実に令和の時代の2020年6月まで続くことになった。
第1グループ(7801形(I)+7901形(I)、7861形-7961形、3521形)
1963年(昭和38年)から7801形(電動制御車Mc)+7901形(付随車T)の2両ユニットを基本に、組み合わせで4両編成となるようにして34ユニット68両が製造された。
特徴はとにかく両数をカネをかけずに揃えるために数多くのコストカット策が盛り込まれたこと。阪神はこれまでに3011形、3301形、3501形というカルダン駆動の高性能車を作ってきたが、いずれも凝った作りが災いして1両あたりの単価が高く付きすぎた。
この7801形らはこれらと性能面・接客面で引けを取ることなしに製造費を抑えるために
- 車体の裾や妻部のカーブを極力なくして単純な形状にする
- 少なくとも3両以上で運転することを前提に運転台の設置をなるべく減らす
- 制御装置を電気ブレーキなしとし、摩擦ブレーキだけで減速する
- 運転台直後など、車内の座席を一部省略。網棚をパイプから網に。室内灯を蛍光灯むき出しにし、数も減らす
- 通風器を国鉄で標準的だったグローブタイプとし、通風キセを設けないで扇風機のみとする。
- 直接走行性能に影響しない、付随車(T)の台車を旧型車からの流用品(ボールドウィン社製イコライザー台車)とする。これは関東の西武鉄道でも採用されたコストダウンの手法である。
こういった策が取られ、輸送力増強のラッシュ時対応車という意味から「R車」と呼ばれた。そして、バリエーションとして、2両編成での運行を可能とする7861形(Mc)-7961形(Tc)と、3両編成を組むための増結用3521形(Mc)も増備された。
「R車」は1967年(昭和42年)の昇圧実施までに旧型車を一掃するという目標を達成し、翌年からは間に合わせのT車、Tc車の旧式ボールドウィン台車を新品のコイルばね台車に交換。冷房改造とともに省略されていた座席を増設したり、網棚・室内灯もグレードアップした。
同グループは、一部が界磁チョッパ制御の回生ブレーキ車3000系に改造されたほか、1989年から次第に淘汰が進み、2両編成仕様の7861形-7961形を除いて1996年(平成8年)に全廃となった。3000系となった物も2003年までに引退した。7861形-7961形も西大阪線で活躍し続けたが、そこも2009年に阪神なんば線へ発展解消することになり、2両運転の終了により引退となった。
その後は下記の7990形-7890形と共に最後の7861形-7961形2両3編成が武庫川線で活躍し続けたが、ついに2020年(令和2年)5500系に置き換えられ、「赤胴車」の歴史は「R車」の歴史とともに終了することになった。
第2グループ(7801形(II)-7901形(II))
最大の特徴は、側面が両開き扉3枚+3連続窓という形に変わったことで、これは普通列車用のジェットカー系統のデザインが導入されたもの。「赤胴車」もこれ以降はこのデザインに統一され、2020年現在なおも阪神電車の標準的スタイルとして踏襲されている。また裾も丸められたり屋根の通風もモニター屋根とラインデリアの組み合わせとなり、いわゆる「R車」のコストダウンスタイルはかなり緩和された。
わずか10両の小グループであったためか目立たず、西大阪線を最後に2008年(平成20年)までに引退した。
第3グループ(7801形(III)-7901形(III))
日本初の営業用電機子チョッパ制御車である7101形-7001形の増結用として作られた。当初から冷房装置付きとなっている。
相棒の7101形ともども界磁添加励磁制御の2000系として改造され、回生制動付きの省エネ車となった。2000系としても2011年(平成23年)までに引退した。
第4グループ(7890形-7990形)
このグループ(といってもたった2両1編成)は非常に特異な生い立ちと性能的特徴を持つ。
まず、1974年(昭和49年)に3901形-3801形が製造された。この車両は西大阪線の延伸となんば乗り入れ、さらに近鉄奈良線内への乗り入れもにらみ、長大勾配に対応する強力なモーターと抑速ブレーキを装備していた。しかし、肝心の西大阪線の延長計画は一旦沙汰止みとなり、仕方なく同形は発電ブレーキを持つ初代「赤胴車」3501形と組むことで6連運用を行っていた。
しかし、3501形は老朽化で引退することになり、4連3編成存在した3901形-3801形は6連2編成に組み替えられる計画となった。だがここでまたも問題発生。製造当初から調子が悪く、謎の脱線癖が治らない第1編成がついに早期廃車されることになってしまい、2両の3901形(Tc)が宙に浮くことになってしまった。
そこで、第1編成のモーターと制御器を流用して、Mc+Tcの2両編成を新たに作ることになり、7890形-7990形が誕生することになった。
この時に驚くべきは、制御器を「永久直列接続」とし、本来1C8M、つまり1個の制御器で8個のモーターを制御するところを1C4Mで4個のモーターを制御する方法に作り変えたのだ。普通8個のモーターを4個に減らそうとすると、並列接続にする際の回路が全く変わるため、抵抗器などの大幅な改造が避けられない。しかし、直列接続ならつなぐモーターが8個から4個に減るだけで回路は本質的には変わらない。「並列接続に切り替えないようにする」と言うだけで、改造費を最低に抑えることが出来るという合理的な考えである。
ただし、モーターの全力を引き出すことが出来なくなるので、かつてのような本線での高速走行は望むべくもなくなった。だが、転属先となる武庫川線は最高速度45km/hのローカル線。必要にして十分な走りはできる。回送として尼崎車庫へ往復する時は本線走行するが、客を乗せずに本線列車を邪魔しない範囲ならなんとかなる。
こうして、難波を超えて遥かに古都奈良まで駆け抜けることを夢見た電車は、武庫川線で地味に働き続け、見果てぬ夢を叶えることなく2020年(令和2年)6月、上記7861形-7961形と共に静かに引退の時を迎えた。
ちなみに、6連1本に再編成された仲間は8901形-8801形-8701形として本線で活躍し続けたが、彼らも阪神なんば線への入線実現どころか開通を見届けることもなく2009年に廃車となっている。
7890号が解体を免れ、2021年から武庫川団地内で静態保存される予定となっているのはせめてもの救いであろうか。彼は後世まで阪神の「赤胴車」の勇姿を伝える役目を与えられたのだから。
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