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戦略はなぜ失敗するのか
企業が大きな損失を被るのは、さまざまな理由があり、なかには不可抗力の場合もある。たとえば、9.11同時多発テロ後にアメリカの航空会社各社の業績が軒並み低迷したことについては、会社を責められない。
しかし我々は最近、ここ25年間でアメリカ企業が犯した最も決定的な失敗750件を調べたところ、これらの失敗の半数近くが回避可能なものだったことを知った(囲み「調査の概要」を参照)。
調査の概要
我々が調査したのは、1981年から2005年までにアメリカ上場企業が犯した最も決定的な失敗例である。上場企業には、報告義務があるため、データの一貫性が確保されており、また入手しやすい。またさまざまな業種の企業が含まれているため、調査結果を一般化できる。
なお、我々がここで言う「失敗」とは、大きな投資損失の計上、不採算事業の閉鎖、破産である。
ロイター、トムソンコーポレーション、バンクラプシー・ドットコムなどの大手情報会社のデータベースを利用して、2500件以上の失敗例を収集した。また、データベースで拾えなかった失敗例、たとえば大きな問題が表面化することなく身売りした企業などの事例を探すために、各種文献の調査も試みた。
そして、ダイヤモンド・マネジメント・アンド・テクノロジー・コンサルタンツのリサーチャーたちの助けを得て、これらの失敗事例を最も重大な750件に絞った。すなわち、最後の四半期に5億ドル以上の資産があり、破産、損失、事業閉鎖による負債が1億ドル以上というものである。なお、被買収企業のR&D費の償却については除外している。
我々の分析によると、このうち355件の失敗理由は主に戦略であった。また失敗を示唆する危険信号について調べるため、我々は経営陣にインタビューし、そのような信号に気づかなかったのかを尋ねる一方、裁判所文書や地方紙、ビジネススクールのケース・スタディなどを調査した。
また、これら避けられたはずの失敗が起こるのは、多くのビジネス論文が主張しているように、戦略の実行段階に問題があったからではなく、戦略そのものが間違っていたこともわかった。
このような挫折は、多額の損失の計上、不採算事業の閉鎖、倒産といったかたちで何千億ドルもの損害をもたらしていたが、その時の経営陣が過去を振り返ってさえいれば、企業も投資家もこれほどの損害を被ることはなかった。我々の調査では、このような危ない戦略は7種類あり、これによって失敗の理由を説明できる例がいくつもあった。またこれらの戦略が得策でないという証拠もあっさり見つかった。
たとえば「隣接事業への参入」という戦略について考えてみよう。隣接していると見えたものが、実際はまったく異なる事業だったというのはよくあることだ。
北米最大のスクール・バス事業者、レイドロー──2007年10月、イギリスのファースト・グループに買収され、現在はそのアメリカ子会社ファースト・スチューデントである──は1990年代、救急車事業に大々的に参入した。
運搬という専門能力を考えれば、救急車事業にも通用すると思われた。ところが、いざふたを開けてみると、救急車事業はけっして運輸業でなく、複雑で高度に管理された医療業務の一部だったのである。同社は、契約交渉と救急車の使用料金の回収に苦労し、結局大きな損失を出して、救急車事業部門を売却した。
本稿で取り上げる事業戦略の数々は、根本から間違っていたわけではない。同じ手法で大きな富を築いた企業もある。とはいえ、これらの戦略は魅力的であるがゆえ、経営陣は危険信号からつい目をそらしてしまう。