昨年、食品安全委員会で安全性評価を終えた遺伝子組換えパパイヤが、次のステップとして消費者委員会食品表示部会での審議に移り先週24日、原案通り承認された。だが、部会の2回にわたる議論では、組換えに反対する日本消費者連盟から出ている委員らによってさまざまな疑義が提起され、スムーズな審議とは言えなかったようだ。
今回の審議の影響は、パパイヤに留まらないのかもしれない。反対派は、組換えの表示制度見直しに向けて、2回の審議でさまざまな布石を打った。今後、表示制度を厳しくすることで組換え作物の流通を事実上、困難にしようと考えているように見える。
残念ながら、一部の新聞は誤報したし、反対派の布石を読めていない。私も傍聴できず、傍聴した消費生活コンサルタントの森田満樹さんから審議の模様を聞き、理解できた。森田さんが内容をまとめてくれたので、このブログでご紹介したい。
森田さんは、食品企業勤務、出版社勤務などを経て消費生活コンサルタントとして活躍し、不二家の信頼回復対策会議の委員も務めた人。日経BPのFood Scienceで連載もしていた。しかし、Food Scienceはなくなってしまったので、とりあえず私のブログで掲載させてもらう。
遺伝子組換えの表示見直しは、組換え嫌いの多い民主党が政権をとり、社民党党首が消費者や食品安全などを担当する内閣府特命担当大臣となったことと密接に関係していた。だが、後者は内閣を去り、内閣自体もぐらぐらだ。そんな状況下で、森田さんは組換えパパイヤを巡る動きをどう読むか?
…………以下、森田さん執筆…………
内閣府の消費者委員会食品表示部会第2回会合が24日開催され、懸案だった「遺伝子組み換えパパイヤ及びパパイヤ加工品の表示義務化」について原案通り承認された。これまでの食品表示部会の議論を聞いていると、表示から外れて安全性の話になったり、一体どうなるかと思っていたが、ひとまず部会は通った。
しかしすぐに流通されるわけではない。今後は、厚生労働省と農林水産省の大臣宛の協議を経た手続きの後、一般からの意見を求めるパブリックコメント及びWTO通報のステップに進む。その結果を盛り込んだ案を再び食品表示部会で確認、さらに消費者委員会の議論を経て消費者庁に返され、そこで表示基準が告示されることとなる。一部報道で「パパイヤ遺伝子組み換え輸入品、夏にも解禁」とあるが、WTO通報だけで60日、前後30日かかることを考えても、夏はとても無理。早くても秋、冬にずれ込むのではないか。
遺伝子組み換えパパイヤは、パパイヤに壊滅的被害をもたらすパパイヤリングスポットウィルスに抵抗性を持たせたもので、米国FDAによって1997年に認可され、ハワイでは広く商業栽培されている。農林水産省のホームページ(遺伝子組換えに関する技術サイトは現在休止中だが)によれば、ハワイのパパイヤは2009年の時点で77%が遺伝子組み換え体とされている。
ハワイで栽培されている遺伝子組み換えパパイヤは、かねてよりハワイパパイヤ産業協会が安全性評価の申請を行っており、2009年7月、食品安全委員会によってリスク評価がようやく終了し、安全性が確認された。しかし、未だに「審査継続中の遺伝子組換え食品と添加物」に入ったままである。日本で食品として許可されるためには、表示の問題を含めて消費者庁、厚生労働省、農林水産省で検討が行われ、表示基準が定められ、厚生労働省で告示され、そこで初めて流通が認められる。つまり、表示のルールを決めなくては始まらない。
これまでは、遺伝子組み換え食品の安全性評価が終了したら、表示の基本ルールに則って淡々と厚生労働省と農林水産省で検討され表示基準が定められ、流通が許可されていた。しかし、今回は様子が違う。表示を決める段階で、法律は全て消費者庁に移管されたのだ。
消費者委員会の食品表示部会が発足したのは2010年3月。消費者庁発足から半年たってようやく遺伝子組み換えパパイヤの表示について審議がスタートしたわけだが、食品表示部会第1回の議論では「ここで安全性の議論もすべき」「パパイヤだけ別のルールをつくる」といった意見が出て、まとまらなかった。その時点では、検討するためのデータが少なかったこともあり、議論は次回以降となってしまった。
こうして迎えたのが、24日に開催された第2回食品表示部会である。大雑把にまとめると論点は5つ。
① 消費者委員会では、食品安全委員会で既に評価が終了した安全性について議論の範疇とするか
② 生の果物丸ごとが初めて流通する初めてのケースとなるため、販売形態を考慮すべきか
③ パパイヤ加工品の中でDNAが検出できなかったものがあるが、どう考えるか。検出できないものでもIPハンドリングで検証が可能ということで表示義務化を課すのであれば、そのルールをどうするか。
④ 不分別表示が増えれば表示の意味がないので、今回のパパイヤをきっかけに不分別表示をなくすべき(=不分別管理を認めない)ではないか
⑤ 遺伝子組み換えパパイヤの表示義務化について、既にある日本の表示制度を前提とせずに、別個のルールで表示基準を定めるべきか
このうち、②以外は、遺伝子組み換えパパイヤの表示の議論の範疇を超えて、これから始まる遺伝子組み換え食品の表示の見直しに関わる根本的な問題に関わってくる。パパイヤの範疇を超えて、あえてこの問題に踏み込んでくる委員がいる。
それぞれの論点に対して、結論は
① 消費者委員会では安全性は議論しない
② 遺伝子組み換えパパイヤだからといって個別包装を義務付けることはない。関連事業者の指導を行って、周知徹底を図る。
③ パパイヤ加工品については今後検出方法を精査していき、パパイヤ加工品全てを義務化対象としていく。検出できなくても、IPハンドリングで違反が分かれば指導対象となる
④ 不分別表示をなくす、ことはない
⑤ パパイヤだけ別に考える、ことはない
となった。結論から言えば、これまで適用されてきた遺伝子組み換え表示ルールに則って原案どおり意見がまとめられたことになる。つまり、生のパパイヤも加工品も、遺伝子組み換えのものは「遺伝子組み換え」、IPハンドリングされていなければ「遺伝子組み換え不分別」とする表示を義務付ける、ということだ。
まるごと生で食べても安全、人の健康を損なうおそれはないと判断された組換えパパイヤだ。今回、生の青果物が初めて流通するということは論点にはなるが、パパイヤの表示だけを特別扱いするということは、これまでのルールからは考えられない。それがこれだけ論点が出て、しかも1回目は差し戻し、第2回目の議論は1時間半ちかく延々と続き、結局は座長が「原案どおり」とまとめることになった。なんでこんなに揉めるのか。
理由は二つ。一つは、消費者委員会だから、である。今回の部会の委員には、日本消費者連盟の山浦事務局長が委員となっている。松永さんも触れておられるように、日消連は農林水産技術会議が作成して小中高に配布した遺伝子組み換え農作物に関するリーフレットの回収を求めて抗議文を出したところである。山浦事務局長は、第1回目の会議で「もうちょっと慎重に、消費者委員会ですから、食品安全委員会の安全性評価の結論ありきではなく、安全性についても考えるべき」と発言している。第2回目では、さすがに冒頭で部会長や他の委員から「ここでは食品安全を議論する専門的な立場にはないから、表示の話のみ」と釘を刺されていたが、それでも「消費者委員会では、食品安全行政を監視していくという役割を果たしていきたい」と述べている。
もう一つの理由は遺伝子組み換え食品の表示ルールにそもそも問題があって、今年度後半から表示全体の見直しが始まることになっていることにある。今の表示制度は、遺伝子組み換え農産物及び組み換えられたDNA等が検出できる加工食品について「遺伝子組み換え」または「遺伝子組み換え不分別」の表示を義務付けることが原則。しかし、私たちが目にするのは、任意表示である「遺伝子組み換えでない」の表示ばかり。分別生産流通管理をしている場合は、この表示をつけることが可能となっているため、現在、表示が義務付けられている32食品群についてはほとんどが「遺伝子組み換えでない」表示が付されているのだ。一方、32食品群以外の加工油や醤油には、不分別原料が用いられても、DNA等が検出できないため表示対象ではなく、何の表示もされていない。これでは選べない。実際に遺伝子組み換え原材料の食品を口にしているという現実を、消費者は知ることができない。遺伝子組み換え技術の受容が進まない理由もここにあるのではないか。
しかし、そもそもの表示ルールの問題と、今回のパパイヤ表示の議論とは別である。パパイヤの表示をこれまでの表示ルールを適用せずに独自のルールを定めることはできない。しかし、今回の表示部会の議論では、今年度後半から始まる表示制度の前哨戦として位置付けようと、あえて論点を拡大して議論しようとする委員がいる。当日の議事概要は長くなるので、興味がある方は、次回以降お読み頂きたい。
遺伝子組み換え食品の表示見直しの議論は、もう始まっているのである。
……ここまで、森田さん執筆………………
消費者庁がまだ議事録を公表していないので、森田さんが記録した議事録も、前編、後編に分けて掲載する。
また、消費者委員会食品表示部会の会議資料等はこちら
今回の審議の影響は、パパイヤに留まらないのかもしれない。反対派は、組換えの表示制度見直しに向けて、2回の審議でさまざまな布石を打った。今後、表示制度を厳しくすることで組換え作物の流通を事実上、困難にしようと考えているように見える。
残念ながら、一部の新聞は誤報したし、反対派の布石を読めていない。私も傍聴できず、傍聴した消費生活コンサルタントの森田満樹さんから審議の模様を聞き、理解できた。森田さんが内容をまとめてくれたので、このブログでご紹介したい。
森田さんは、食品企業勤務、出版社勤務などを経て消費生活コンサルタントとして活躍し、不二家の信頼回復対策会議の委員も務めた人。日経BPのFood Scienceで連載もしていた。しかし、Food Scienceはなくなってしまったので、とりあえず私のブログで掲載させてもらう。
遺伝子組換えの表示見直しは、組換え嫌いの多い民主党が政権をとり、社民党党首が消費者や食品安全などを担当する内閣府特命担当大臣となったことと密接に関係していた。だが、後者は内閣を去り、内閣自体もぐらぐらだ。そんな状況下で、森田さんは組換えパパイヤを巡る動きをどう読むか?
…………以下、森田さん執筆…………
内閣府の消費者委員会食品表示部会第2回会合が24日開催され、懸案だった「遺伝子組み換えパパイヤ及びパパイヤ加工品の表示義務化」について原案通り承認された。これまでの食品表示部会の議論を聞いていると、表示から外れて安全性の話になったり、一体どうなるかと思っていたが、ひとまず部会は通った。
しかしすぐに流通されるわけではない。今後は、厚生労働省と農林水産省の大臣宛の協議を経た手続きの後、一般からの意見を求めるパブリックコメント及びWTO通報のステップに進む。その結果を盛り込んだ案を再び食品表示部会で確認、さらに消費者委員会の議論を経て消費者庁に返され、そこで表示基準が告示されることとなる。一部報道で「パパイヤ遺伝子組み換え輸入品、夏にも解禁」とあるが、WTO通報だけで60日、前後30日かかることを考えても、夏はとても無理。早くても秋、冬にずれ込むのではないか。
遺伝子組み換えパパイヤは、パパイヤに壊滅的被害をもたらすパパイヤリングスポットウィルスに抵抗性を持たせたもので、米国FDAによって1997年に認可され、ハワイでは広く商業栽培されている。農林水産省のホームページ(遺伝子組換えに関する技術サイトは現在休止中だが)によれば、ハワイのパパイヤは2009年の時点で77%が遺伝子組み換え体とされている。
ハワイで栽培されている遺伝子組み換えパパイヤは、かねてよりハワイパパイヤ産業協会が安全性評価の申請を行っており、2009年7月、食品安全委員会によってリスク評価がようやく終了し、安全性が確認された。しかし、未だに「審査継続中の遺伝子組換え食品と添加物」に入ったままである。日本で食品として許可されるためには、表示の問題を含めて消費者庁、厚生労働省、農林水産省で検討が行われ、表示基準が定められ、厚生労働省で告示され、そこで初めて流通が認められる。つまり、表示のルールを決めなくては始まらない。
これまでは、遺伝子組み換え食品の安全性評価が終了したら、表示の基本ルールに則って淡々と厚生労働省と農林水産省で検討され表示基準が定められ、流通が許可されていた。しかし、今回は様子が違う。表示を決める段階で、法律は全て消費者庁に移管されたのだ。
消費者委員会の食品表示部会が発足したのは2010年3月。消費者庁発足から半年たってようやく遺伝子組み換えパパイヤの表示について審議がスタートしたわけだが、食品表示部会第1回の議論では「ここで安全性の議論もすべき」「パパイヤだけ別のルールをつくる」といった意見が出て、まとまらなかった。その時点では、検討するためのデータが少なかったこともあり、議論は次回以降となってしまった。
こうして迎えたのが、24日に開催された第2回食品表示部会である。大雑把にまとめると論点は5つ。
① 消費者委員会では、食品安全委員会で既に評価が終了した安全性について議論の範疇とするか
② 生の果物丸ごとが初めて流通する初めてのケースとなるため、販売形態を考慮すべきか
③ パパイヤ加工品の中でDNAが検出できなかったものがあるが、どう考えるか。検出できないものでもIPハンドリングで検証が可能ということで表示義務化を課すのであれば、そのルールをどうするか。
④ 不分別表示が増えれば表示の意味がないので、今回のパパイヤをきっかけに不分別表示をなくすべき(=不分別管理を認めない)ではないか
⑤ 遺伝子組み換えパパイヤの表示義務化について、既にある日本の表示制度を前提とせずに、別個のルールで表示基準を定めるべきか
このうち、②以外は、遺伝子組み換えパパイヤの表示の議論の範疇を超えて、これから始まる遺伝子組み換え食品の表示の見直しに関わる根本的な問題に関わってくる。パパイヤの範疇を超えて、あえてこの問題に踏み込んでくる委員がいる。
それぞれの論点に対して、結論は
① 消費者委員会では安全性は議論しない
② 遺伝子組み換えパパイヤだからといって個別包装を義務付けることはない。関連事業者の指導を行って、周知徹底を図る。
③ パパイヤ加工品については今後検出方法を精査していき、パパイヤ加工品全てを義務化対象としていく。検出できなくても、IPハンドリングで違反が分かれば指導対象となる
④ 不分別表示をなくす、ことはない
⑤ パパイヤだけ別に考える、ことはない
となった。結論から言えば、これまで適用されてきた遺伝子組み換え表示ルールに則って原案どおり意見がまとめられたことになる。つまり、生のパパイヤも加工品も、遺伝子組み換えのものは「遺伝子組み換え」、IPハンドリングされていなければ「遺伝子組み換え不分別」とする表示を義務付ける、ということだ。
まるごと生で食べても安全、人の健康を損なうおそれはないと判断された組換えパパイヤだ。今回、生の青果物が初めて流通するということは論点にはなるが、パパイヤの表示だけを特別扱いするということは、これまでのルールからは考えられない。それがこれだけ論点が出て、しかも1回目は差し戻し、第2回目の議論は1時間半ちかく延々と続き、結局は座長が「原案どおり」とまとめることになった。なんでこんなに揉めるのか。
理由は二つ。一つは、消費者委員会だから、である。今回の部会の委員には、日本消費者連盟の山浦事務局長が委員となっている。松永さんも触れておられるように、日消連は農林水産技術会議が作成して小中高に配布した遺伝子組み換え農作物に関するリーフレットの回収を求めて抗議文を出したところである。山浦事務局長は、第1回目の会議で「もうちょっと慎重に、消費者委員会ですから、食品安全委員会の安全性評価の結論ありきではなく、安全性についても考えるべき」と発言している。第2回目では、さすがに冒頭で部会長や他の委員から「ここでは食品安全を議論する専門的な立場にはないから、表示の話のみ」と釘を刺されていたが、それでも「消費者委員会では、食品安全行政を監視していくという役割を果たしていきたい」と述べている。
もう一つの理由は遺伝子組み換え食品の表示ルールにそもそも問題があって、今年度後半から表示全体の見直しが始まることになっていることにある。今の表示制度は、遺伝子組み換え農産物及び組み換えられたDNA等が検出できる加工食品について「遺伝子組み換え」または「遺伝子組み換え不分別」の表示を義務付けることが原則。しかし、私たちが目にするのは、任意表示である「遺伝子組み換えでない」の表示ばかり。分別生産流通管理をしている場合は、この表示をつけることが可能となっているため、現在、表示が義務付けられている32食品群についてはほとんどが「遺伝子組み換えでない」表示が付されているのだ。一方、32食品群以外の加工油や醤油には、不分別原料が用いられても、DNA等が検出できないため表示対象ではなく、何の表示もされていない。これでは選べない。実際に遺伝子組み換え原材料の食品を口にしているという現実を、消費者は知ることができない。遺伝子組み換え技術の受容が進まない理由もここにあるのではないか。
しかし、そもそもの表示ルールの問題と、今回のパパイヤ表示の議論とは別である。パパイヤの表示をこれまでの表示ルールを適用せずに独自のルールを定めることはできない。しかし、今回の表示部会の議論では、今年度後半から始まる表示制度の前哨戦として位置付けようと、あえて論点を拡大して議論しようとする委員がいる。当日の議事概要は長くなるので、興味がある方は、次回以降お読み頂きたい。
遺伝子組み換え食品の表示見直しの議論は、もう始まっているのである。
……ここまで、森田さん執筆………………
消費者庁がまだ議事録を公表していないので、森田さんが記録した議事録も、前編、後編に分けて掲載する。
また、消費者委員会食品表示部会の会議資料等はこちら