四国の山間は奥深い。よくもこのような場所に暮らしを結んだものだ、と寂寥とも飄然ともいえる風景に見入ることが、たびたび起こる。中学生の頃もそうだった。汽車で親戚の家を行き来するときの車窓の景色が思い出される。薄暮の山間に、ぽつん、と人家の灯りが灯っているのを見た。こんな山の中にも人が住んでいるのか…。どんな人が、どのような生活をしているのだろう…日暮れていく青い大気の中の、たった一つの電灯の灯りは、寂しさと同時に「家」が持ち合わせた温もりを感じさせた。 徳島県南部の山間の集落を訪ねたこのたびも、そうした感慨を胸裏にかみしめることになった。