ある日、アマゾンのKindle Fire HDで本を読んでいたら、プライムユーザー(有料会員)向けにKindleオーナー・ライブラリーという「電子貸本」のサービスが日本でも始まっていることに気がついた。ひと月に一冊、無償で本が読めるというので、さっそく何か面白い本がないか物色してみた。 正直、品揃えにはあまり期待はしていなかったが、そこで発見したひとつの本に驚いた。その本とは、後藤明生の『挟み撃ち』。講談社文芸文庫版を数年前に買い、読みかけたまま、家の中で紛失してみつからない本だったのでありがたい。ダウンロードしてさっそく読み始めた。 後藤明生は1932年に旧朝鮮咸鏡南道永興郡に生まれ、1999年に亡くなった。「内向の世代」と呼ばれた一連の作家の一人で、蓮實重彦や柄谷行人といった批評家が高く評価したことでも知られる。『挟み撃ち』は1973年に河出書房から刊行された作品で、彼の代表作のひとつ