「文化」をこえた「文化事典」 はじめまして、小川幸司と申します。大学3年のときに世界史教育の分野を開拓したいと決意して長野県の高校教員になり、現在に至っています。これまで中央教育審議会の社会・地理歴史・公民ワーキンググループ専門委員として高校の歴史系科目を新たに設計したり、編集委員として『岩波講座世界歴史』の1巻(総説)と11巻(近世グローバル・ヒストリー)を刊行したりしてきました。 よく「なぜ研究者にならなかったのか」という質問を受けます。自分自身の軌跡(因果関係)を言語化するということ自体が難しいのですが、一つの理由として「歴史と受け手が出会う場とはそもそもどのようなものなのか」ということに強い関心がありました。そう考えるに至ったのには、私が大学生活を送った1980年代の中世史研究者の活躍――斬新な歴史像を描き出しながら同時に歴史家と読み手の関係自体を問い直し、そのことをさらに歴史像の