開発組織のAI活用を推進した3ヶ月間を振り返る
2025年に入ってからAIコーディングは一気に実用の域になり、組織としていかにそれらを活用しきるかが大きな課題として立ち上がっている現場も多いのではないかと思います。
私も弊社ナレッジワークにて4月〜6月の四半期で開発におけるAI活用の推進担当をやっていました。(プロダクト機能へのAI組み込みではなく開発業務におけるAI活用)
旗振り役は初めてでしたが振り返ると一定の手応えも得られた3ヶ月間だったので、どんなことをやってきたかまとめてみようと思います。
目標設定
AI活用やるぞ!となって、まずやったことは計測可能な目標設定でした。
ある意味これが一番難しかったかもしれないです。
最終的には生産性を向上したいのですが、元々生産性自体がすごく計測しづらい項目でもありますし、そもそも慣れない道具を使いはじめる時期は一時的に生産性は落ちるものです。
なのでそれは次のステップで考えるとして、まず足元では「広い範囲のメンバーに、AIでのコーディングに慣れてもらいたい」と考えました。
今となっては思い出すのが難しいですが、これを議論していた3月時点ではまだエージェンティックなAIコーディングの芽は出始めてきたばかりという頃で、業務利用したことがないメンバーもまだまだ多かったのです。
それを踏まえ、 「開発メンバーのうち80%以上が、AI主体のPull Requestを月あたり10件以上出している」 を定量目標に定めました。
「10件以上」について、一般的に「PR数」を数値目標にする施策はあまり筋が良くないと認識しています。同じ変更でも細かくわければいくらでもハックできてしまうし、PRはただの分割単位であってアウトカムや価値との接続が薄いので。
ただ、今回はまず「開発の中でAIを使うこと自体に慣れる」にフォーカスしたいフェーズでした。なので、まずは量を追ってみるのもありかなと思いました。社内的にも積極的にハックしてきそうな人もいないし、なんなら頑張ってハックしてAI使って10PRに分割するならそれはそれでAIを使うことに慣れそうだなと。w
工夫したのは「開発メンバーのうち80%以上が」の部分です。これを設けずに一人あたり平均で月10PRを集計すると、AI活用に慣れた数名だけがたくさん作っても達成できてしまいそうです。でも今回は「広い範囲のメンバーに体験してもらう」にフォーカスしたかったので、「開発メンバーのうち80%以上が月10PR以上」としました。10件を超えたあとは20件でも100件でも変わらないという設計です。
振り返ってみると、当時のフェーズに照らして適切な目標設定ができていたと思いました。手応えを得られたのも半分以上はここで期待値と着地のイメージを固められていたからかなと思います。
エンジニアメンバーにとっては全員が数値目標に突っつかれる形になるため体験としてどうかなと思っていたのですが、6月末のアンケートで全員が「この目標がAI活用のきっかけになった」という回答をしてくれて、結果ちゃんと推進に繋がる目標を設定できたんだなと思ってかなりほっとしました。
ちなみにPRがAI主体かどうかの判別は、「AuthorがAI」「ブランチ名が特定のフォーマット」「特定のLabelが付与」などいくつかの条件で判別しました。DevinやClaude Code Actionで作ったPRは自動判別できるようにしつつ、それ以外はラベルの手動付与がメインでした。ここは課題感があったのですがよい方法が思いつかず、呼びかけで協力してもらいました。
達成状況の可視化
目標を設定して四半期が始まったので、まずはその目標の達成状況の可視化から!社内のデータプラットフォームチームの力も借りて、BigQueryとスプレッドシートを連携し、いつでも全体と組織グループ別の数字を見られるようにしました。
こんな感じでシートに出して、この数字を私が月ごとに追いつつ、グループ別の状況は各グループマネージャーにも気にかけてもらいました。デイリースクラムで数字を見て活用施策を議論してくれていたグループもあったようです。
さらにSlackで、この内容をお知らせする週次レポートも送るようにしてみました。
目標数値に加え、その週で新規に達成したメンバー/月末達成見込みメンバーのフィーチャリングや、うまく活用していそうなメンバーへのヒーローインタビューも実施してみました。この回は初月の最終週で、AIを活用してPRを出してくれているQAメンバーにインタビューしてますね。
レポートはChatGPTのプロジェクトに雛形の文面を登録し、週ごとにチャットへ数値データをJSONなどで貼り付けることで算出可能な部分は自動化できました。そこにヒアリングしたヒーローインタビューの内容と自分のコメントを掲載して完成!
新規AIサービスの申請・承認
弊社では新たなクラウドサービスを利用する際にセキュリティ観点・法務観点からのチェックが必要です。扱うデータの種類やデータの保管地域、ログ閲覧があるか、などをチェックして社内ガイドラインと照らし合わせています。
活用推進中の3ヶ月間にも新しいAIツールはどんどん出てきました。それらを使えるようにするために、リリースを知ったら即社内申請!を繰り返していました。
元々その前から社内で利用していたのはCopilot, Devin, Cursor, Windsurfあたりだったのですが、4月〜6月の期間で以下を使えるようにしました。
- Claude API (Claude CodeはツールなのでOK)
- Gemini API(Gemini CLIはツールなのでOK)
- OpenAI API
- Codex
- Jules
- Onlook
申請フローはセキュリティチームが整えてくれて、忙しい中でもなるべく早く確認してくれていたので、とても助かりました!
予算面は別のエンジニアマネージャーが管理してくれてそちらもとても助かりました!開発人員ひとりあたり$200ぶんの開発補助AI用の予算を確保してもらえたことで、都度の稟議なしに枠内で課金ができ、活用の後押しになりました。
申請したツールは期待が当たったものも外れたものもありましたが、大規模な実業務のコードで試すことで真の力量を把握できるので、どれも実際のコードで試せてよかったです。
AI活用情報の発信
申請やセットアップなどで新しいツールを使えるようにしても、みんなに使ってもらえなければ意味がありません。
まずはメジャーなツールのセットアップ方法をNotionにまとめていきました。綺麗さとかは度外視で、とりあえず使えるところをゴールにしたメモ書きレベル。
トップページと冒頭の切り抜きをチラ見せ
利用希望者にはこれを案内するだけで自分でセットアップできるようになりました。
また、毎月開催されているエンジニア月例会でAI活用発信用の時間を10分もらい、目標の達成状況シェアに加えてAIを使いたくなるようなTipsも共有していました。
一番反響があったのは5月の回でしたね。非同期コーディングエージェントが怒涛のリリースをされつつ、Claude 4系のモデルが出た月でもありました。(あれが5月か…遠い昔に思えるけど)
スライドの一部をチラ見せ
このシェアをしたあとにClaude API利用の希望者が続々現れ、手応えを感じられました!
大繁盛
その他、社内MCPツールを作って周知したり、AI情報用のSlack Channelで情報をシェアしたり、既に活用しているメンバーにLTっぽく話してもらったりなど、とにかく発信をして頭に浮かべてもらう時間が増えるように意識していました。
結果
手探りで進めてきた3ヶ月でしたが、この3ヶ月間で無事目標を達成できました 🎉
timesなどでもAIを使った開発の話題が出ることがかなり増えたと感じます。
最後にとってみたアンケートでも嬉しい結果が出ていました。
1が変わらない/下がった、5がとても上がった
まあ昨今のコーディングエージェントの進化を見ると、何もしなくても3月より6月のほうが上がっていて普通という見方もあると思うのですが、それでも特に会社では誰かが活用の下地を整えなければ業務利用が進みづらい部分も大きいと思います。
振り返ってみると、無理やり頑張ってやったというよりも、私はそもそもAIが好きなので普段Xでウォッチしている最新情報をそのまま社内に流したり、新しいツールを自分が使いたいから申請してセットアップしたついでにその方法をNotionにまとめるなど、わりと自然な形で取り組むことができました。ただ、どういう形で動けば組織単位で影響を及ぼせるのかというのはかなり試行錯誤でやっていました。それもいい経験だったかなと思います。
良い機会だったので2025年4月〜6月の推進の動きを振り返ってみました。
組織単位でのAI活用推進施策の必要性を感じている、という話を周りでもよく聞くので、なにか参考になれば幸いです。
組織ぐるみで大AI時代を楽しんでいきましょう!