それぐらいは常識とも言われそうですが、書いておいても罪はないと思っています。主なソースは公務員叩きに物申す!−現職公務員の妄言からで、このブログは後期高齢者医療制度が法案として成立した頃より書かれ、自らが担当であったようで強い関心を持って、現場から見た事情が綴られています。
後期高齢者医療制度は2006年6月で、小泉政権の時に強行採決で成立しています。その前年の9月の郵政選挙で大勝し、圧倒的多数を背景に一気に成立した小泉遺産の一つと言ってもよいかと考えます。まあ成立の事情はこのぐらいにして、法案が2006年6月に成立し、今年の4月に制度として施行されましたので、準備期間として1年10ヶ月ある事になります。これが十分な準備期間かどうかは言い切れませんが、
「2年間も準備期間あってこの体たらくは」
こういう声は少なからずあります。4月からの混乱を見るとごく自然な感覚としてあがると考えられます。では1年10ヶ月の間、ダラダラと作業していたので現場の混乱は起こったのでしょうか。実際の準備期間は、
自治体の準備期間は事実上昨年12月からの4か月しかなかった状態です。
そこまで何をしていたかと言うと、
ちなみにそれ以前は国が政省令(=要件定義の核となる)を出して来ていなかったので、非常にヒマでした。
後期高齢者医療制度に限らずですが、法律だけでは制度は運用設計はできません。運用の細部を決める政省令が出てこないと現場は動けないと言う事です。この政省令ですが、
「政省令がもう半年以上遅れているだって?こちらもいろいろ事情があるんですよ!」
こういう返答が厚労省から出されていたようですから、本当は2007年の4月ぐらいに出ている予定だったようです。遅れた理由は様々にあるとは考えられますが、確か年金問題が地鳴りを高めていた時期と思います。完全に火がついたのはもう少し後だったとは思うのですが、2007年4月時点でも遅れがちだった政省令の整備が年金問題で作業が中断してしまったことが考えられます。また年金ほどではなかったですが、後期高齢者医療制度への反発の声も出始めていて、参議院選挙終了までpendingにされた可能性もあります。
参議院選挙の結果はご存知のとおり与党が歴史的大敗を喫します。その後の安倍前首相辞任から福田首相就任までの迷走劇があり、さらに福田首相が総裁選中に後期高齢者医療制度の凍結などを主張したりします。ここもまた福田首相の意向がはっきりするまで政省令の公布は止めおかれ、解散総選挙をにらんでの負担軽減策が打ち出されたと思います。当然の事ですが、それに合わせて政省令は書きかえられます。結局のところ出てきたのが12月と考えても良いと思われます。
その辺の事情は、
政省令がなかなか出てこないあたりから怪しくなってきて、標準システムのリリースの遅れ、トドメは参院選後の追加の保険料軽減策の発表。直前になっても政府広報がなかなか出てこないし、この状況で本当に大丈夫なの?と不安に思っていたらこの有様。
とにもかくにも12月から作業は開始されています。どうやら「標準システム」なるものがあって、それを地域の実情に合わせて改変するようなんですが、政省令と言っても完成されたマニュアルとは言えず、実際の運用で出てくると予想される障害とか、例外例にすべからく対応できているとも言えません。またいくらお役所文を読みなれているお役人でも、字句の解釈に困る事もあるはずです。そういう問い合わせに関して厚労省は、
- 「仮保険証を作りたいだって?バカですか?保険請求の仕組みに仮なんかあるわけないでしょ?」
- 「3月異動者は当分証は出ませんよ。4月以降ですよ。そういう仕様ですから。スケジュールにもそう書いてあるでしょ?それが何か?」
【官房長官会見】「来週前半に見直し策決定 後期高齢者医療制度」 (4/4ページ)
−−先ほど、自民党、公明党から、後期高齢者医療制度の見直しの中間とりまとめの報告があったと思うが、政府として与党の見直し案をどのように評価しているのか。また、今後2回目の天引き前に政府としても対策を打ち出すということだが、現在の検討状況は
「あのー、いわば対策第1弾だそうでありまして、第2弾もまた、金曜日に出てくるそうであります。それらを受けて、政府としては、来週前半には政府としての対応を決めたいと。政府与党ということになろうかと思いますけれども、そういう段取りで今、いろんな検討作業を進めております」
−−すでに出ている与党の案については、政府として取り入れるのか
「今、検討しております」
「第一弾」「第二弾」と打ち出す方も政治生命がかかっているから必死でしょうが、打ち出される現場はもっと大変です。泥縄式に打ち出される改善策にシステムを改修して対応しなければなりません。その対応の程度は、
はっきり言って正気の沙汰ではない。
例えて言うなら、竹ヤリで核ミサイルを落とせというようなものだ。
どういう事かと言うと、
システムが安定稼動していない状態での大軌道修正がどれほどリスクがあるか。
4ヶ月で稼動させたシステムに対し、既に4月から幾つかの改変を強いています。もともと稼動の安定性に不安があったのに、ドタバタ「改善策」が乗っかってさらに不安定となり、ここにまたぞろ「第一弾」「第二弾」の大幅修正がくればリスクは計り知れないの不安です。このプログラム改変は現行のシステムを稼動させながら行なうものですし、次の天引きまでと期限も限られていますから突貫工事は言うまでもありません。状況としては、
既にこの制度の準備で多くの職員やSEが心身を病んで廃人になっている。
だが、これから起こるデスマーチはその比ではない。
悲劇の歴史として後世に語り継がれることになるだろう。
たまたま、この制度に携わっただけなのに。
何でこんなことになったんだろうね。
もちろん不手際があればかさにかかって責め立てられるのは誰の目にも明らかです。これは6/7付け産経新聞ですが、
「後期高齢者医療改善策」意見集約は困難 PT、強まる官邸不信
後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の運用改善策を検討している与党高齢者医療制度プロジェクトチーム(PT)は6日、年金天引き選択制導入を確認したが、最終案まとめには至らず、福田康夫首相が指示した次回年金天引きの13日までの意見集約は困難な情勢となった。背景には、PTの頭越しに実態調査結果が公表されたことによる首相官邸への不信がある。最終案まとめを見送り、検討項目列挙で終わらせようとの強硬意見も浮上している。PTと官邸の対立はさらに激化する可能性もある。
「何でわれわれが知らぬデータを発表したんだ!!」。5日開かれたPTの非公式会合で、公明党の坂口力元厚生労働相の怒号が響き渡った。6日のPTの会合でも批判の声は収まらなかった。
PTの厚労関係議員の怒りに火を付けたのは、後期高齢者医療制度の保険料増減を調べた厚労省の実態調査の発表プロセスだ。
PT側は改善策議論のため早期提出を求めていたが、厚労省が出し渋ぶり、調査結果を踏まえず保険料追加軽減策をまとめた。ところがPT案がまとまった3日夜、政府高官が突如記者団に結果を漏らしたのだ。7割の保険料が下がったことをアピールする思惑だったが、PTはメンツをつぶされた。
怒りの火に油を注いだのが翌4日、厚労省が低所得世帯ほど負担増となっていたことを公表したことだ。沖縄県は保険料負担減となった人が全国最低で、8日投開票の沖縄県議選への影響を考えて保険料軽減策を急いだPTにとって最悪のタイミングだった。非公式会合では「マスコミに漏らした政府高官は更迭だ」「官邸の依頼で改善策を検討してきたが、はしごを外された」との批判が続出。最終案の詰めは棚上げとなった。
厚生関係議員の多くは、首相が社会保障費の伸びを2200億円抑制する意向を示したことに不満を募らせてきた。調査結果公表のまずさが重なり、官邸批判が爆発した形だ。PTメンバーの1人は「沖縄県議選で負けなければ、官邸には事態の重大さが分からないのだろう」と指摘した。
沖縄県議選の結果は既に出ており、与党は沖縄県議会で過半数を割る敗北を喫しています。そうなると官房長官の「第一弾」「第二弾」どころか、今後、機関銃のように「改善策」が乱発される可能性は十分あります。乱発される改善策はすべからく現場のツケとして押し付けられます。これに対する現場の声です、
司令部はもはやそういった当たり前の判断すら出来ない状態だ。
頭の中にはもう市町村やベンダSEを巻き込んでのバンザイ突撃しかない。
これから総選挙までいくつの前哨戦があるかわかりませんが、その度に後期高齢者医療制度が争点となり、与党が負けるたびに「改善策狂騒曲」が奏でられるのでしょうか。奏でられるたびに現場は混乱と疲弊の度を深める構造にあるようです。
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では、生きていたらまた会いましょう。(多分死ぬ前に民間に転職するけど)
6ヶ月すなわち180日で入院患者の追い出しが起こり始めると言われています。それも制度でガッチリ固めてどこにも行き場のない追い出しです。この時には「改善策の雨霰」はあるでしょうか。どうにも無さそうな気がします。ツケはすべて医療現場で「なんとかせい」になりそうです。梅雨空を眺めながらそっちの阿鼻叫喚に思いが飛んでいきそうです。