アイキャッチ画像撮影:YAMA HACK編集部
軽アイゼンとは?

アイゼンとは氷の上や凍った雪の上を歩く際に必要な、登山靴に装着する登山道具です。底に爪が付いており、これが雪に刺さることでスリップを防止してくれます。
そんなアイゼンにもいくつかのタイプがあり、登山のレベルやシーンに応じて使い分ける必要が。小さな爪が付いたチェーンスパイクから、4本爪・6本爪・10本爪・12本爪まで、大きく5つの爪のタイプに分かれています。
その中の4~6本爪のタイプを「軽アイゼン(簡易アイゼン・コンパクトアイゼン)」と呼びます。10本爪のアイゼンも、爪の長さによってそれぞれ軽アイゼンと本格的な多本爪アイゼンに分類される場合があります。
アイゼンの種類と適した使用シーン
チェーンスパイク | 軽アイゼン | 多本爪アイゼン | |
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強み | ・どんな靴にも装着可能 ・装着方法が簡単 ・岩、地面が露出している場所でも ストレス少なく歩ける | ・どんな靴にも装着可能 ・3つのアイテムの中では 最もコンパクト ・傾斜が緩やかであれば、 斜面でも行動が可能 | ・急な傾斜や凍結した斜面でも、 踏ん張りがきく ・キックステップなど様々な 歩行技術に対応可能 |
弱み | ・傾斜がある場所で歩くと、 踏ん張りがきかない ・傾斜ある場所で歩くと、 緩みやすく壊れることも | ・つま先、かかとは爪がない ・急な傾斜や凍結した斜面では 踏ん張りがきかない | ・登山靴によっては装着できない モデルがある ・正しい歩行技術や脚力を身に 着ける必要がある |
※表は右にスクロールできます。
撮影:鷲尾 太輔(各タイプの特徴)
アイゼンの選び方は、歩く登山道の傾斜や積雪・凍結状況に適したタイプをチョイスすることが大切です。
チェーンスパイクが適したシーン

爪が小さいため地面から岩などが露出していても、アイゼンを装着した靴へのショックが少ないチェーンスパイク。ただし傾斜のある登山道で無理に踏ん張ると、靴からズレたり外れてしまうこともあります。
写真のような凍結した林道のように、比較的平坦な登山道に適したタイプです。
軽アイゼンが適したシーン

ほぼ全ての登山靴に装着可能で、コンパクトに収納できる軽アイゼン。ただし傾斜が急な登山道で無理に踏ん張ると、靴からズレたり外れてしまうこともあります。また爪が短いため凍結した斜面には刺さりにくく、そもそも踏ん張りがきかない場合もあります。
写真のような比較的傾斜がゆるやかな樹林帯などの、柔らかい雪質の登山道に適したタイプです。
多本爪アイゼンが適したシーン

爪が長く鋭いために刺さった雪面から足を抜くのにも脚力が必要で、歩き方のコツもマスターする必要がある多本爪アイゼン。ワンタッチ式などは、装着できない登山靴もあります。
写真のようにピッケルも併用して登降する、傾斜が急な登山道やクラスト(雪面がツルツルに凍結した状態)した斜面に適したタイプです。
このように、使用するシーンや状況によって、アイゼンの爪の本数は変わってきます。
今回はそんなたくさんの種類があるアイゼンの中でも、比較的緩やかな雪山で使用する「チェーンスパイク・軽アイゼン」について紹介します。
チェーンスパイク・軽アイゼンの選び方

基本的にはどんな登山靴にも装着できる「チェーンスパイク・軽アイゼン」。本格的な多本爪アイゼンと比べて爪が小さく短いので、雪面に刺さった爪を次の一歩を踏み出すために「引き抜く」脚力に強さを要求されないのも、雪山初心者にとっては魅力です。
チェーンスパイク・軽アイゼンの選び方
チェーンスパイク | 4本爪アイゼン | 6本爪アイゼン | 10本爪アイゼン |
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凍結した林道や雪の中から 岩が露出した高原など 平坦な登山道 | 夏の日本アルプスや北海道・東北の雪渓や、 積雪のある傾斜のゆるやかな登山道 | 初心者向けの雪山など、 やや急な傾斜もあるが 柔らかい雪質の登山道 | |
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※表は右にスクロールできます。
※森林限界上の凍結した急斜面もある雪山では、軽アイゼンでなく雪山登山用の多本爪アイゼンを使用してください。
チェーンスパイクは前述の通り平坦な道、軽アイゼンは4本・6本・10本と爪の本数が増えていくにつれて対応できる登山道の傾斜が増していきます。
軽アイゼンの装着方法は2種類
チェーンスパイクはゴム部分を靴にかぶせるだけですが、軽アイゼンにはバンド式とラチェット式という装着方法があります。どちらがいい、というものではないので、フィット感や軽さ、装着のしやすさ、など、好みで選ぶとよいでしょう。
バンド式 | ラチェット式 | |
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強み | 収納サイズがコンパクト バンドだけの交換が可能 | 着脱が楽 手袋をしていても操作しやすい |
弱み | 手袋を付けていると操作しにくい | 収納サイズが大きめ ベルトが経年劣化しやすい |
今回の記事では、各爪の本数・装着方法ごとに、おすすめのモデルを紹介します。
※見たいモデルをクリックすると、すぐにおすすめに飛びます
おすすめのチェーンスパイク
登山靴の爪先からかかとまでをカバーする、ゴム製のバンドが付いているチェーンスパイク。
爪先をバンド前部に入れてフィットさせたら、後は靴下を履くのと同じ要領で、かかとまでフィットさせれば装着できる、簡単な軽アイゼンです。
▼チェーンスパイクの装着方法を動画で見る
カンプ アイスマスターライト
重量 | S/約270g(パープル) M/約278g(オレンジ) L/約292g(ライトブルー) LL/約302g(グレー) ※ペア平均重量 |
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対応サイズ | S/36~38(EUR) M/39~41(EUR) L/42~44(EUR) LL/45~47(EUR) |
軽量でいてパフォーマンスも◎
カンプのチェーンスパイク・アイスマスターシリーズの中で、オーソドックスな構造、かつ、軽量・コンパクトなモデルです。
カンプ アイス マスター R
重量 | S :約455g(グレー) M :約478g(オレンジ) L :約495g(レッド) LL:約500g(ブルー) ※ペア平均重量 |
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対応サイズ | S :36~38(EUR) M :39~41(EUR) L :42~44(EUR) LL:45~47(EUR)適合ブーツサイズ:36~47(EUR) |
冬期登山から夏の雪渓まで、幅広いシーンに対応
チェーンスパイクらしい装着のしやすさでありつつ、爪の長さや配置が軽アイゼンに近いモデルです。
カンプ アイスマスター エボ
重量 | S/約425g(パープル) M/約433g(オレンジ) L/約442g(ライトブルー) LL/約450g(グレー) ※ペア平均重量 |
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対応サイズ | S/36~38(EUR) M/39~41(EUR) L/42~44(EUR) LL/45~47(EUR) |
強度&耐久性がより高い進化版
アイスマスターRの素材をステンレススチールに変更し、強度と耐久性を高めたモデルです。
スノーライン チェーンセンプロ
重量 | S(280g)、M(330g)、L(360g)、XL(410g) |
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対応サイズ | S(20.5~23.0cm)、M(22.5~25.0cm)、L(25.0~27.5cm)、XL(27.0~30.0cm) |
付属ベルクロストラップでズレ防止
ゴムバンドの左右を、付属のベルクロストラップで足の甲に固定可能なアイテム。チェーンスパイクの弱点である“ズレやすさ”を軽減してくれます。
ヒルサウンド トレイルクランポン
重量 | XS(448g)、S (460g)、M (480g)、L (500g) |
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対応サイズ | XS(22.0〜24.0cm)、S (24.0〜26.0cm)、M (26.0〜28.0cm)、L (28.0〜30.0cm) |
柔軟性と高強度を両立させたモデル
スパイク(爪)に炭素鋼を使用することで柔軟性と高強度を両立させたアイテム。チェーンスパイクとしては爪が長く、しっかりと雪面をとらえてくれます。
ヒルサウンド トレイルクランポンウルトラ
重量 | XS(374g)、S(399g)、M(422g) |
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対応サイズ | XS(22.0〜24.0cm)、S(24.0〜26.0cm)、M(26.0〜28.0cm) |
トレイルクランポンの軽量化モデル
トレイルクランポンの材質をステンレススチールにして、軽量化したアイテム。凍結が懸念されるフィールドでのトレイルランニングなどにもおすすめです。
【4本爪】軽アイゼンのおすすめ
登山靴の中央に装着する4本爪アイゼン。コンパクトさが特徴です。
バンド式・ラチェット式の装着方法がありますが、いずれも1本か2本のバンドで足の甲の上で固定します。外れたりズレたりしないようしっかりと締めつつ、足の血流をさまたげないように加減しましょう。
バンド式・4本爪アイゼン
マウンテンダックス 4本爪アイゼン
重量 | 180g |
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対応サイズ | - |
すべての爪が雪に接地する工夫をこらしたアイテム
ベルト式の装着方法を採用したモデル。後ろ側2本の爪を大きくすることによって、すべての爪が雪面に接地しやすくなる工夫がこらされています。軽量でコンパクトに収納できるのも魅力です。
ラチェット式・4本爪アイゼン
エバニュー 4本爪アイゼン
重量 | 260g |
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対応サイズ | - |
ラチェット式でスピーディーな着脱が可能なモデル
ラチェット式の装着方法を採用したモデル。バックルをラチェット金具に通したら、レバーについたひもを引いてスピーディーに装着可能。外す時もラチェット金具を外側に押すだけで簡単です。
【6本爪】軽アイゼンのおすすめ
軽アイゼンの中で比較的持っている人が多いのが、この6本爪アイゼン。
こちらも4本爪同様にバンド式・ラチェット式の装着方法があります。それぞれの装着方法は動画で紹介しますが、いずれもアイゼンに登山靴を乗せる時に中央にある突起と登山靴の土踏まず後部を合わせるのがコツ。
バンド式・6本爪アイゼン
▼バンド式・6本爪アイゼンの装着方法を動画で見る
マウンテンダックス 6本爪アイゼン
重量 | 452g |
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対応サイズ | - |
ワイヤーにバンドを通して固定するモデル
バンドを左右のワイヤーに通して登山靴に固定するアイテム。ワイヤーには外側から内側にバンドを通して締めていくのがコツとなります。
ベルモント 軽アイゼン7 SEVEN
重量 | - |
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対応サイズ | フリーサイズ |
4本爪に近いコンパクトなモデル
前後に2本ずつ、後部中央に2本の爪を配置したアイテム。靴底をカバーする範囲は4本爪とほぼ同じなので、なだらかな傾斜の雪山や夏の雪渓に適しています。
ラチェット式・6本爪アイゼン
▼ラチェット式・6本爪アイゼンの装着方法を動画で見る
エバニュー 6本爪アイゼン
重量 | S(500g)、L(520g) |
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対応サイズ | S(22〜24.5cm)、L(25〜28cm) |
シンプルなラチェットベルトで着脱簡単なアイテム
雪が爪の間に詰まって“お団子”状態になるのを防止するプレートの色でサイズが変わるアイテム。オレンジがSサイズ、イエローがLサイズとなります。
【10本爪】軽アイゼンのおすすめ
爪先からかかとまで、靴底全体を爪が覆うのが10本爪アイゼン。爪が長く鋭利な、本格的な雪山登山や登攀用の10本爪アイゼンもあります。
ここで紹介するのは前爪が小さめで反対側の登山靴やアイゼン、枝などへの引っかけの心配が少ない軽アイゼンとしての10本爪です。
バンド式・10本爪アイゼン
▼バンド式・10本爪アイゼンの装着方法を動画で見る
ラチェット式・10本爪アイゼン
▼ラチェット式・10本爪アイゼンの装着方法を動画で見る
ヒルサウンド トレイルクランポンプロ
重量 | 667g |
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対応サイズ | 25〜30cm |
長さ調整可能で幅広いサイズの登山靴に対応するアイテム
締めすぎによる足の圧迫がないX字型のラチェットベルトを搭載のモデル。前足部と後足部のジョイント部品は長さ調節が可能で、幅広いサイズの登山靴にフィットします。
エバニュー 10本爪アイゼン
重量 | S(720g)、L(760g) |
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対応サイズ | S(22〜24.5cm)、L(25〜28cm) |
雪上歩行に慣れていない人にも配慮したデザインのアイテム
爪先からかかとまでの靴底全体に配置された爪が、雪上での行動に慣れない人でも安定した歩行が可能なモデル。前爪も小ぶりで、引っかけ防止にも配慮しています。
アイゼンを付けた時の「歩き方」も一緒にチェック

爪の本数に関わらず、アイゼンを装着しての歩行の基本となるのが、爪先からかかとまで靴底全体で接地するフラットフッティングです。爪先だけ、かかとだけ、あるいは靴の外側・内側だけで接地しているとすべての爪でのパフォーマンスを発揮できず、スリップの原因になります。
急な登りでふくらはぎが伸び切ってしまうような時には、爪先を逆ハの字やL字に開くとフラットフッティングしやすくなります。逆に急な下りですねが伸び切ってしまうような時には、重心(腰)を低く落としてひざを深く曲げるとフラットフッティングしやすくなります。
▼フラットフッティングの基本を動画で見る
アイゼン歩行の注意点
撮影:鷲尾 太輔(危険なアイゼン歩行の例)
フラットフッティングを実践していても注意が必要なのが、アイゼンの爪を何かに引っかけてバランスを崩すことです。雪の中から木の枝や岩が露出している時はもちろんですが、両足の間隔は足がもうひとつ入るくらい広めに保ち、もう片足のアイゼンや靴・ウェアのすそに引っかけないように注意しましょう。
▼様々なアイゼン歩行のコツを紹介
持っておくと安心!不確定要素があれば軽アイゼンを携行しよう

例えば夏の雪渓の場合、気温が高く雪が柔らかくなっており斜度もきつくなければ、軽アイゼンなしで靴底を雪に蹴りこみながら歩くことができる場合もあります。しかし、雪の状況がどのようになっているかは、その場に行ってみないとわからないことも多いもの。同じ雪渓でも登りと下りでは軽アイゼン装着の必要性有無が変わる場合もあります。
また冬場の低山でも、落ち葉で隠された地面の凍結によるスリップ事故も多発。凍結や新雪・残雪の量など状況が刻々と変わるのが登山の常です。軽アイゼンはその軽量・コンパクトさが魅力でもあり、積雪や凍結の状況など不確定要素がある場合には「お守り代わり」として携行するのがオススメです。