記載がない写真はすべて提供:もじゃまる夫婦
520kmを歩き切る、24日間の超タフな山旅

2024年の夏、伊豆でサンカクスタンドというアウトドアショップを営む2人が壮大なチャレンジを行いました。
日本海から太平洋へと歩く520kmのタフなルート
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最高点の標高: 3730 m
最低点の標高: 0 m
累積標高(上り): 39199 m
累積標高(下り): -38042 m
ibukiによるログデータをもとに作成
スタート地点は日本海。新潟県糸魚川市にある親不知という場所から、栂海新道を通り、北アルプスに入っていきます。
その後、北アルプスの稜線を歩き、舗装路を歩いて中央アルプスへ向かい、南アルプスを歩き終えたのち最後に富士山へ。
富士山を登りきったあと下山し、太平洋にタッチをして終了という、約520kmにも及ぶルートでした。
今回は、このチャレンジで使った道具や計画や休憩方法などについて、振り返っていきます。
装備は当たり!だけど、ちょっと気になることも

基本的に想定した道具のチョイスが良かったと振り返る2人。今回の道具選びのポイントや使った感想を振り返ってみましょう。
厳しい環境に耐えられる強さと機動力のバランス

ーーー今回の道具選びで意識した点を教えてください。
もじゃさん
距離が長いということがあったので、今まで以上に「軽量化」を意識したのと、切れ落ちた岩場などの難所を何回も越えるというのがあったので「コンパクト」にするということを軸にしました。
テント泊のザックは普段50Lくらいですが、今回は僕が28Lでまるちゃんが36L。ただ、単純な軽さだけでなく、日本アルプスで長期間耐えるだけの強さを持ったギアを選びました。
まるさん
途中でトラブルが起きないようにすることを意識しました。
例えば、シェルターにしてポールが折れたりして倒壊したら、そこから歩けなくなるというリスクもあるため、そういった心配を減らしながら、できるだけ軽量化に努めました。
ーーー日本屈指の山岳環境の日本アルプスで長期間過ごすためには、機動力と堅牢性のバランスは気をつけたいところですね。
もじゃさん
細かいところで言ったら、歯ブラシの柄を切って短くするなどキリがないですが、そういう積み重ねで軽くコンパクトにできたと思います。
そのおかげで、岩場とかもスムーズに通過できたので良かったです。
カリカリの軽量を意識する人だと、「もっと削れるでしょ!」というところはあると思いますが、僕たちは登山メーカー出身なので、まずは耐久性を確保しながらというのはありました。
駄目じゃないけど、強いていうなら気になったポイント

全体としては問題がなかったものの、やはり「こうしておけば良かった」というところもあったようです.
何度も寝るからこそ、マットの質はこだりたい

もじゃさん
マットは、山と道の13mmのもの(UL Pad 15+)をチョイス。それを120cmにカットしたものと、30cmの背面パッドを合わせて使っていました。
昔はロールマットで寝ていたんですけど、ここ数年はエアマットを使っていたので、ちょっと身体が贅沢になってしまっていたのかもしれません。
1泊2泊とかなら気にならないんでしょうが、通常の山行よりも寝る回数が多かったので、寝返りをうった時の感覚など、そういった細かい部分の違いが少し気になりましたね。
ーーー限られた時間で回復するために、睡眠の質をいかに上げるかは重要ですね。
もじゃさん
地面からの冷えとは気にならなかったですが、長期の場合は睡眠の質を上げてきちんと回復することが大事ですね。
あとは、船窪の一部エリアだけでしたが、マットがハイマツにひっかかったのがやっぱりストレスでした。
充電コードも耐久性が大切?

撮影:YAMA HACK編集部(充電機器のイメージ)
まるさん
途中から困ったのはスマホの充電コードです。普通のコードを使っていたんですけど、途中から接続が悪くなって、充電ができたり、できなかったりと無駄にバッテリーを使ってしまったというのがありました。
コードの耐久性が強いものとか、そういう細かい部分もちゃんと想定しておかなければいけませんでしたね。
もじゃさん
コード破損したもんね。
ーーーたしかに、充電コードの破損って初めて聞きました。でも、GPS機器やスマートフォン、撮影機器の充電など、いろいろ影響がでるのでないがしろにはできませんね。
まるさん
街じゃないからコンビニがたくさんあるわけではないので、途中のロード区間で1回逃すと買えないみたいになっちゃうんですよね。
歩き続けるからこそ、回復は大切!

もじゃさん
ケア用品も、もう少し持っていっても良かったかなと思いました。トレイルからロード区間に変わった時、まるちゃんの足への疲労の蓄積が凄すぎて、回復しきれなくなったことがあったんです。
まるさん
ロードでは峠というか坂道を歩かなければ行けないところが多かったので、足の疲労が思った以上に凄かったです。
幸いにも、途中で応援しにきてくれたお客様や友人から湿布をいただけたので、それでちょっと回復できました。
それがなかったら足はやばかったですね。
もじゃさん
毎日ストレッチとかもしていたんですけど、それでは回復しきれない疲労というものは、この湿布とかで助けられたんじゃないかなと。
まぁ、あんまり湿布持ち歩いているロングトレイルハイカー見たこと無いけど。笑
※ロード区間での疲労回復に関する具体的な方法は、記事の後半で。
補給は大切!でも見落としがちな、出すことの大切さって?
アップダウンも多いハードで長い距離を歩き続けるために、栄養面や補給面はどのように工夫していたのでしょうか?
もじゃさん
食料の圧縮は良くも悪くも今回がんばった点です。
例えば、ラーメンなんかも全部砕いてベビースターラーメンみたいな状態にして持っていきました。
悪い点は、食感がゼロになるので決して食べていて楽しいとは言えないごはんが出来上がるんですけど、全部スプーンで済むので箸などの別のカトラリーを削ることができました。
効率的な栄養補給はカロリーと摂取方法がミソ

ーーー動画では胸のところにスプーンを差していましたが、あれは何を食べていたんですか?
もじゃさん
一番はじめは、トレイルバターっていうピーナッツバターみたいなやつを詰めて、その上にナッツを詰めてカロリーを増してました。それをかき混ぜるように食べてたんですよ。
あとはザックを降ろさずに食べるため、胸元で完結できるようにしていました。
後半はピーナッツバターがなくなっていたので、スプーンなしでも食べられるっちゃ食べられたんですけど。笑
まるさん
でも、手が汚れてたりもしたので、スプーンがあることは衛生面的にも良かったね。
もじゃさん
そういえば、全然手を洗えてなかったので結果的にスプーンは良かったね。
軽さと楽しみのバランスも大切なポイント

ーーー食事では、一部圧縮で食感を犠牲にする部分はあったと思うのですが、栄養面ではなく、嗜好的な意味での工夫はありますか?
もじゃさん
もちろん食料を背負うっていうこともルールとしてありましたが、あまり縛りすぎないようにしました。小屋についた時に軽食の提供があったら、別にそれを食べてもいいよみたいな。
その分荷物は軽くならないけど、っていう感じで。
ーーーそういうところで、食の楽しみも味わっていたんですね。
もじゃさん
軽量化の手段として、同じ食べ物にすれば最小限の荷物にもできると思うんですけど、普段の縦走では食を大切にしているのでそれはちょっときついかなと思って。
軽さはもちろん意識しつつ、ドライフードでも4~5種類くらいの味を用意して味変していました。
まるさん
朝ご飯はラーメン、行動中も毎日同じものを食べるんですけど、夜ご飯だけは違う味のものを選んで食べられるようにしていました。
今日はカレーにしようか、ハンバーグにしようかと選ぶことが、持っていた食料の中での楽しみというか。
後半は行程や体力に余裕が出てきたので、お昼ごはんの時間までに小屋に辿り着こうっていうことを歩く目標にしてました。笑
もじゃさん
荷物が全然減らないんだよね。笑
まるさん
それでも、美味しいものを食べた満足感もあるし、お腹もいっぱいになるから、後半はしっかり歩けたんだと思います。
補給も大切だけど、出すことも大切

ーーー北アルプスセクションで朝、顔のむくみが気になったんですが、あれは水分不足ですか?
まるさん
荷物を軽くするために運ぶ水を制限しちゃっていたので、汗は出るんですが、尿によって老廃物を全然出せていませんでした。身体にそういうのがたまっていったのかなって。
槍ヶ岳山荘の診療所で相談した時に「おしっこしてます?」と言われて、小屋についた時や朝とかはしていたけど、そういえば山の中なので我慢しすぎてたかもと話しました。もしかしたらそれかもねってなったんです。それから意識的にトイレにも行くようにしたら、ましになりました。
もじゃさん
北アルプスが終わって水分とかをしっかり摂るようにしたら、けっこうね。
まるさん
1時間おきくらいに行くようになりましたね。なんか漏れそうになるくらい、わーって。
もじゃさん
トイレ行ったら、ほんま足とか顔もパンパンやったのが明らかにスッキリして、縮んだんですよ。
ーーー老廃物の毒素が溜まっていたんですね。それがコンディションの悪さにつながったりとか、むくみで視界が悪くなったりとかはなかったんですか?
まるさん
体調が悪くなるとかっていうのはなかったですけど、目の腫れは単純に目が開きにくくなるので、霧とか雨が降っているところでは煩わしさは感じました。
小屋に泊まって水場があるところでは、しっかり水分補給することが改めて大切だと思いますね。
もじゃさん
お互い、信じられへんくらいパンパンやったもんね。笑
体力や天候など変化するコンディションにどうやって対応する?
長距離を歩く中で、体力の保存と天候への臨機応変な対応は超重要です。実際、2人はどのように工夫していたのでしょうか?
歩きながら体力を回復させる工夫が大切

ーーー疲労が出た時に行程の変更や休みの取り方を変えたりしましたか?
まるさん
行程の変更はほとんどなかったですが、キャンプ場での宿泊予定を民宿に変更するなどはしました。それは全部良い判断でしたね。
山の区間のしんどさは想像できるんですが、夏の暑いロードだけを長時間歩くという経験がなかったので、思っていた以上にハードだったんです。
なので後半のロード区間では、山に入る前に4〜5時間ロードを歩くという行程もあったんですが、山に登る日はロードを歩かないように調整しました。あと、ロードが終わった日は必ず温泉などに入って足をねぎらってから山に入りましたね。
もじゃさん
温泉がなかったら、疲れとれへんかったね。
やはり小屋の情報は貴重

まるさん
今回、悪天候などの影響でテント泊を小屋泊に切り替えることはありましたが、毎日目的地までしっかりたどり着くことができました。
ーーー天候などの最新情報は、どこで手に入れていましたか?
まるさん
一番は山小屋の方の情報というか、山小屋で得られる情報を参考にしていましたね。
宿泊していたところはもちろん、途中寄った小屋でも確認するようにしていました。それまでの自分たちの歩いてきた行程を伝えることで、その時々の天候に合わせたコース提案などもいただけたのは、ありがたかったですね。
ーーーもちろん小屋の方の情報だけに頼り切らず、事前の計画があってこそですが、最新情報に沿った具体的なアドバイス助かりますね。動画を見ていると、小屋の方の天気の読みがことごとく当たっていたのは本当に凄いなと感心しました。
まるさん
そうなんですよ。やっぱり、その山域にずっといるわけなので、いろんなことを熟知されていますよね。
そういう人たちに自分たちの行程や経歴を話して「それだったらあそこまで60分くらいで行けると思うよ」などと言っていただけた時は自信になるじゃないですか。不安が消えた状態で次に進めるという点では、本当に山小屋やそこで働く方たちの存在は大きいなって思いました。
いろんなことに気づいて振り返って、自信を積み重ねた520km

今までの登山経験やその時々の状況に対してしっかりと考え振り返ったことが、歩いている最中も歩ききった後も2人をさらに成長させたようです。520kmという壮大なチャレンジをする機会はなかなか難しいかもしれませんが、今回の2人のチャレンジから自身の登山やハイキングに活かせることはあったのではないでしょうか?
それを元に自分にあったチャレンジで、山の楽しみ方の幅を拡げてみてください。
