アイキャッチ画像:ポンチョ
2004年発売、バーナーのエポックメイキング

今や、ハイカーであれば知らない人はいないだろうジェットボイル。山、アウトドアで役立つ「瞬間湯沸かし器」と称されることもあるほど、あっという間に湯を沸かせる高効率クッカー&バーナーセットです。
ジェットボイルの開発が始まったのは2001年。アメリカでの発売が2004年、日本での発売が2005年。私が初代ジェットボイルPCS(Personal Cooking Systemの略)を使い始めたのが2007年でした。
そのスペックは次の通りです。
サイズ:直径10.4cm × 高さ18cm(収納時)
クッカー容量:1L
総重量:487g(ガスカートリッジを除く)
出力:1290kcal
沸騰到達時間:90秒(250ml)

バーナーと専用クッカーがセットになったシステムは、他ブランドに先駆けたもの。専用クッカー底部には、フラックスリングという蛇腹状の輪が備わっていることが特長です。このリングはバーナーの火を受け止める表面積を増やし、熱を逃がさず、効率よくクッカーに伝えてくれます。
またクッカー側面には、コジーと呼ばれる断熱性にすぐれたネオプレン製のカバーを付属。クッカーから逃げる熱を閉じ込め、冷気の影響を小さくします。

結果、出力が1290kcalと、当時のバーナーとしてはかなりの低火力ながら、3500kcalくらいの高火力バーナーよりも早く湯を沸かすことができました。調理容量の水500mlが沸騰するまで、3分ちょっとくらい。本当にあっという間でした。
アウトドアの道具をいろいろと使い始めて30余年。厚底のトレイルランニングシューズを初めて履いた時の衝撃と同じくらい、ジェットボイルの湯沸かし性能の高さと仕組みに感心。21世紀のアウトドア道具はこうなるのか!!と、驚きました。
“高効率”という新しい発想

バーナーが高火力を競っていた時代に登場したのが、高効率を装備させたジェットボイルでした。
現在でもジェットボイル愛用者や購入希望者のほとんどは、湯が沸く早さに注目しているでしょう。しかし、1缶100gのガスが入った小型のガスカートリッジで、常温であれば約12Lの湯を沸かせるという“燃費のよさ”にも、もっと注目すべきだと思います。
通常のバーナーとクッカーだと、同じ100,または110g容量のガスカートリッジで沸かせる湯量は6L程度なので、ジェットボイルは約2倍の効率のよさです。
早く湯が沸くよりも、実はたっぷりと湯を沸かせる機能の方が、山では機能的なんです。
それはなぜか?というと……。

通常のバーナー&クッカーセットで2泊3日の週末テント泊山行をする際には、燃料切れが心配なので250容量のガスカートリッジを装備する必要があります。必然、重量が増えます。
でもジェットボイルなら、110ガスカートリッジで2泊3日のテント泊を余裕でこなせます。初代ジェットボイルは500gと重量があり、やや大きい収納サイズでした。けれども燃料が110ガスカートリッジで済むので、250ガスカートリッジを使うクッカーセットよりも総重量は軽く済んだのです。
ところで、現在では当たり前になっている100または110g容量の小型ガスカートリッジ。これは1998年頃、スノーピークが発売した「ギガパワーストーブ 地」とともに登場したものです。バーナーだけでなく、ガスカートリッジのサイズもコンパクトにして、軽量コンパクトさを際立たせたものでした。
その110缶サイズのガスカートリッジを最大限に有効活用させたのが、2000年代半ばに登場したジェットボイルだといえます。高効率という機能で、装備の軽量化を果たしたのです。それは、思いつかなかった、軽量化へのアプローチ方法でした。
低温時には、カートリッジカバーを装備

現行のジェットボイルのラインナップには、マイナス6℃の低温下でも安定した火力を発揮するサーモレギュレーターを搭載したモデルがあります。しかし、初代ジェットボイルPCSに、その機能は搭載されておらず、低温下では火力が上がりません。
そこで活用したのが、ジェットボイルを輸入しているモンベルから発売されていたカートリッジの保温カバーです。このカバーの効果は大きく、装着しておけば気温0℃でも変わりなく、氷点下でも問題ないレベルで燃焼してくれました。
一番の思い出は、奥日光のスノーシュー。気温がマイナス5℃まで下がり、凍結防止のために保温バッグに入れていたおにぎりが、それでも凍ってしまったのです。

そこで、ジェットボイルで湯沸かししながら、クッカーの上に別のクッカーを乗せて、湯沸かしの熱でおにぎりを解凍しました。その様子が上の写真です。もしかしたら、凍結してしまうかもと、ジェットボイル以外のクッカーを持ってきておいて正解でした。
それにカートリッジのカバーがなければ、湯を沸かすのにも長い時間が掛かったと思います。でもしっかりと装着していたおかげで、温かいスープとカチコチではないおにぎりで身体を温めることができました。
本当は雑炊にしてもよかったのですが、強風吹きすさぶ中、一刻も早く温まりたかったのです。
オプショナルクッカーもあるのですが……

「瞬間湯沸かし器」と称されるジェットボイルが湯沸かし専用として使われるのは、調理で必要なとろ火や弱火が苦手だったということもあります。現行品にはそれが可能なモデルもありますが、初代は弱火すら怪しい感じです。
だからなのでしょう。オプショナルクッカーとして用意されている、フラックスリングを装備した鍋やフライパンを使っている人に、出会ったことがありません。
という私も、この10年間、使用したのは数えるほど。現行品のフライパンにフラックスリングが装備されていないことを考えても、扱いにくいんですよね。1.5リットル容量の鍋も、登山に持って行くにはちょっと重いんです。
10年もほとんど使わないのだから、私が求めるスタイルにはマッチしていないんです、きっと。
買い替え時は、軽さを優先しました!

実は、使わなくなったのは、初代ジェットボイルPCSも……なんです。
有効だったスペックも、さすがに10年以上が経過すると、燃費のよさ以外の魅力が失われてきたことが理由です。あらゆる道具の軽量化が進んで、バーナーとクッカーの合計重量250g以下が増え、他ブランドでも110缶が当たり前になると、2分早く沸かせることよりも、軽量コンパクトさを優先させたくなりました。
しかし、ジェットボイルだって進化しています。
現在のラインナップは全6モデル。0.5Lの湯を100秒で沸騰させられる「フラッシュ」は、その名の通りの圧倒的な機能性を装備。なんとも魅力的です。
そこで私も今年に入ってジェットボイルの買い替えを検討。悩んだ末に選んだのは「スタッシュ」でした。その理由は……。
現在の“最軽量”モデル

スタッシュの重量はバーナーとクッカーの合計重量がカタログ値200g。付属のスタビライザーとガスカートリッジも含めると、実測で約420g。現行ジェットボイルのラインナップで最軽量のモデルです。そして0.5Lの湯を2分30秒で沸かせます。
他ブランドのバーナーと110ガスカートリッジを収納できるクッカーを組み合わせた最軽量クラスは、150g程度。ガスカートリッジも含めると350g程度。軽さでは劣りますが、しかし湯沸かし時間も燃費もスタッシュが上。
同じ高効率バーナーセットのライバルであるMSRの「ウィンドバーナーパーソナルストーブシステム」と比べると、0.5Lの湯沸かし時間2分30秒は同じです。が、MSRの重量は、ガスカートリッジを除いても465gあります。低温や風に強いといった、スタッシュにはない性能もありますが、重量を重視するなら迷う必要がありません。
ソロでの登山時には、フリーズドライフードとインスタントヌードルしか食べない私には、超軽量で瞬間&たっぷり湯沸かし器が最適です。それに……。

このスタッシュ、コーヒードリップの際に日頃から愛用している京都楽歩の注ぎ口・森乃雫を装着して、細い湯を注げるんです。装着が推奨されるクッカーの直径よりも大きいので慎重な注ぎが必要ではありますが、日々この注ぎ口でコーヒードリップをしている私には、問題ありませんでした。
他の人にとっては関係のないポイントかもしれませんが、湯沸かしとコーヒーがぼぼセットの私にとっては、とても大切なんです。
「スタッシュ」を使ってみてわかったこと

今年、2024年の初めに手に入れたスタッシュ。使ってみてわかったのは、このジェットボイルは収納袋に入れて持ち運んだほうがよいということです。直接バックパックに入れて持ち運んでいたのですが、上の写真の通りクッカーの表面が傷だらけになってしまいました。
初代同様にコジーと呼ぶネオプレン製のカバーに覆われたモデルは、それが収納袋のように保護をしてくれますが、スタッシュは剝き出しなので、すぐに傷ついてしまうようです。ジェットボイルは、クッカー内にバーナー本体やガスカートリッジを収納できるオールインワン仕様。そのまま持ち運びするものとスタッシュについても思っていたのが、間違いでした……。
また、面白い発見もありました。

愛用しているシートゥーサミットのフタ付きシリコン製蛇腹カップの「X-シール&ゴー」が、スタッシュのクッカー底部にカチッとハマって、カバーのように使えたのです。スタッシュはクッカー内にカップ等を収納するスペースはないので、これでカップを忘れずに持ち運びできます。破損の恐れがあるフラックスリングの保護にも使役立ちそうです。
この発見、なんとなく底部を見ていて、この大きさって、あのカップの大きさと同じでは?と確認してみたところ、シンデレラフィット!ギア好きにとって、最高に楽しい瞬間です。
容量とフタには注意を!

最後に長年ジェットボイルを使ってきた、何度も見た光景について……。
クッカー内部には、湯沸かしできる最大量を示すメモリが刻まれています。その量を超えて湯沸かしをして、さらにフタをしっかり閉めていると……沸騰時に注ぎ口から熱湯が火山のように吹き出てきます。
最大量を超えない。フタはすぐに外せるように上に軽く乗せておくだけにする。すぐに湯が沸くので、できる限り目を離さないことが大切です。
そう話していても、知人、友人、担当編集者が湯を吹き出させてしまうのを、本当に何度となく見ています。かく言う私も、何度かやったことがあります。今は火力調節のツマミが大きくなっているので、吹き出してもなんとか消せますが、初代はツマミが小さく、「アチチッ~」と慌てふためきながら、消化したものです。ぜひ、気をつけてください。
それでは皆さん、よい山旅を!