登山のスキルを高めたい!そんなときは“山のプロ”にお任せ
登山を続けていると、「もう少し難易度の高い山に挑戦したい」 「山のいろんな楽しみを味わいたい」という想いがわいてくるもの。実現のためには知識や技術の習得が欠かせません。
登山に詳しい人が身近にいない場合は、ガイド登山を依頼したり、講習会に参加したりするのもひとつの手です。必要なスキルはもちろん、その山や土地の歴史、植生についても学ぶことができるので、山の楽しみ方が広がります。
そうはいっても、誰にお願いしたらいいのか、どんな講習会に参加したらいいのか悩んでしまうことも。
そこで当企画では、自分の目標や目的、趣味趣向にあったガイドさんを見つけられるよう、さまざまなタイプのガイドさんにフィーチャー。今回は世界を駆け巡る「山と神様」の登山ガイド、高千穂有康さんを紹介します。
高千穂有康(たかちほ ありやす)

マルディーヒマール(ネパール)
世界を駆け巡る「山と神様」の登山ガイド

マッターホルン山頂(スイス)
今回ご紹介する高千穂有康ガイドは、400本以上の山の案内経験を持つ人気の登山ガイド。その活動エリアは日本にとどまらず、290回以上の海外渡航歴で124の国と地域をフィールドに、文字通り世界をまたにかける活動をしています。
このように聞くと、日本の山や身近な登山とは少し距離を感じるかもしれませんが、もちろんそんなことはありません。

フッカーバレー(ニュージーランド)
高千穂さんの持ち味は、山に登る技術や安全のサポートだけでなく、地域の文化、歴史など、その山の背景にも触れる案内の奥深さ。登る喜びと同時に知的好奇心までを満足させてくれる案内が、多くのリピーターの信頼と人気を集めています。
そして、これからご紹介する経歴やバックグラウンドを知れば、海外を中心に活動する高千穂さんが、実は日本の歴史や日本の山と、生まれながらにして深い関わりをもつ人物であることがわかるでしょう。
留学経験から始まった世界とのつながり
高千穂さんが海外を中心に活動をするようになったのには、ご自身の留学経験が影響しています。地元福岡の高校を卒業した後、オーストラリアの大学に留学。さらにその在学中に、交換留学生として中国の大学に籍を移します。
留学経験でさまざまな国から集まる学生と出会い、英語、北京語を習得したことが、今の活動を支える大きな武器になりました。
最初はあまり意識していなかったのですが、英語がある程度話せるようになった時に、改めて中国語を意識するようになり、北京に行くことを決めました。

未経験からガイドの道へ。山に導かれた異色の経歴
登山を始めたのは、帰国した24歳のころ。ガイドになる人は、もともとやっていた登山の経験を生かして仕事にすることが大多数でしょうが、高千穂さんは「山のガイドになるために登山を始めた」という、非常に珍しい経歴の持ち主です。
留学を終え帰国したら、地元のサッカー部の先輩が登山ガイドになっていて、「お前も足腰が強いから、登山ガイドに向いているんじゃないか」と勧めてくれたのが、この仕事に出会ったきっかけです。

国内外の登山やハイキングなどを扱う福岡の旅行会社で、最初はサブガイドとして仕事をスタート。全国の山のガイドや、語学を生かした海外トレッキングツアーの案内などでキャリアを重ねるなか、次第に高いレベルの山に同行することが増え、必要に迫られて学ぶうちに、自然と山の知識と技術を身に付けていったといいます。

デナリ(アラスカ)

ヤラピーク(ネパール)
自身も海外高所登山で着実に実績を作りつつ、さらに技術を高め、現場経験を積んでフリーランスのガイドとして独立。東京を拠点に国内外で活動を続け、25年にわたるガイド歴のなかで、海外では世界7大陸最高峰のうち5つのピークの登頂へ、現地ガイドと共にお客さんを導きました。
「人や文化からも山を感じてほしい」情報たっぷりの案内
海外ツアーガイド

ドロミテ・トレチーメ(イタリア)
海外の場合、旅行会社が企画するツアーに同行することもありますが、多くは、国内で案内したお客さんが仲間を募り、小さなオリジナルツアーを組むスタイル。世界中とつながる広い人脈を生かして、人気の名峰からマイナールートまで、124もの国と地域に活動の幅を広げています。

[左上]パタゴニア(チリ)/[右上]フェロー諸島(デンマーク)/[左下]ギアナ高地(ベネズエラ)/[右下]アシニボイン(カナダ)
私の案内は、技術的、体力的なサポートや安全面の確保をして頂上に立たせるだけではなく、その国や地域ならではの文化や人間性を感じてもらうことを大切にしています。山に登ることだけでなく、その国や地域の風土や慣習、宗教など、異文化に触れて楽しんでもらう機会を提供する案内をしています。

国内プライベートガイド

八ヶ岳

浅間山ツアーの様子
国内の活動でも、活動の中心は個人ガイド。あの山に登りたいという「夢を叶える」のはもちろん、それぞれの体力や目標に合わせて、おすすめの山、挑戦する山、レベルアップを目的とした山行などをプランニングすることで、登山者に「夢を与える」ことにも力を注いでいます。
国内ツアーガイド
旅行会社の企画登山ツアーや、自身がアンバサダーを勤めるアウトドア関連企業が企画するツアーのガイドは、リピーターが多い個人ガイドとは対照的に、初めてのお客さんとの出会いの機会。それは、高千穂さんにとって大きな楽しみであり、お客さんとの出会いがきっかけとなって、自分のルーツや新しい方向性に気づかされることもあったといいます。
導かれるように海外から日本へ。神話と日本の歴史に目を向けた理由

富士山本宮浅間大社(駿河国一之宮)
ここ数年、高千穂さんが力を入れているのが、日本の神話などをテーマとした神社・仏閣・古城巡りの旅。それまでも、登山時に山にまつわる神話や伝承、信仰についての解説を取り入れていましたが、神社や古事記そのものを目的にした旅の案内が、活動のもうひとつの柱になりつつあります。
そのきっかけとなったのが、ツアーに参加したお客さんからの一言でした。


英彦山神宮
実は、高千穂さんのご実家は、福岡県にある英彦山(ひこさん)神宮。高千穂家は社家として先祖代々英彦山神宮に仕えてきた家柄で、現在の宮司である高千穂秀敏氏は、高千穂ガイドの叔父にあたります。
英彦山神宮とは?
福岡県と大分県の境に位置する英彦山(標高1199m)は、古くから神の山として信仰されてきた霊山。その中腹に鎮座する英彦山神宮は、天岩戸隠れ(あまのいわと)の神話で知られ、伊勢神宮に祀られる天照大神(あまてらすおおみかみ)の子である、天忍穂耳命(あまのおしほみみのみこと)を御祭神とします。「太陽神の子の山」の意味から「日子山」と呼ばれていましたが、弘仁10年(819年)に嵯峨天皇の令により「日子」が「彦」に代わり、享保14年(1729年)に霊元法皇より「英」の文字を受けて、現在の名称になりました。
もともと神社や神様の知識はありましたが、人に伝える立場として、改めて深く学びなおすことにしました。今の宮司である叔父にその話をしたら、前からわかっていたかのように「いつ始めるのかと思っていた」と言われました。


銅の鳥居(英彦山神宮)

英彦山中岳

神幸祭の様子
休む暇もなく世界中を飛び回る生活から、コロナの影響で時間に余裕ができたのも手伝って、自身のルーツである日本の歴史に目を向けた高千穂さん。古事記や関連するさまざまな文献を読むことで、生まれ育った環境で自然と得ていた神社や神様についての理解をさらに深く掘り下げていきました。
勉強のために、全国の神宮25宮、国一之宮102社すべての参拝を進めるうちに、一緒に行きたいというお客さんや、ツアーとして企画したいという旅行会社が現れ、今では大人気のシリーズに。神社や神様をテーマとしたガイドの仕事が、高千穂さんの活動の大きな柱となっていきました。
世界を広げるもう一つの「言語」との出会い
留学で身に付けた英語、中国語に加え、韓国語、スペイン語などもコミュニケーションのために勉強中という高千穂さんですが、10年ほど前からもうひとつの「言語」として、手話の勉強を進めています。
きっかけは、10年前に訪れたエジプトで見た、イタリア人観光客のグループでした。彼らは難聴者、ろうあ者で、現地ガイドの言葉をグループの添乗員が手話で伝えているのを見て、手話も一つの言語であることを実感したといいます。
手話の本やNHKの手話講座を見たり、難聴者やろうあ者と交流したり、勉強を続けています。まだまだ初級レベルですが、手話で案内するハイキングや登山をやりたいですね。

この先の25年間にすべきこと
昨年50歳になり、ちょうど第3タームに突入しました。このコロナでいろいろなことが俯瞰でき、大小の気付きや目に見えないものの大切さを知りました。これから先の25年は、これまでに得た知識や経験、体験を人のために生かす「貢献時代」と考え、物や形だけでなく、気持ちや行動で人のためになることが、これからやるべきことと思いはじめました。
私の人生の3タームを英語単語で表すと「TAKE(第1)、 SELF(第2) and GIVE(第3)」という基礎単語で言い表せますね。


国一之宮巡りツアー
もっとも日本的な家に生まれながら、海外に惹かれ、偶然のように山と出会い、導かれるように日本の神話と八百万の神を伝える立場へ。世界をフィールドに、持ち前の好奇心と行動力をいかんなく発揮する高千穂さんですが、その行動のベースには、人と人、人と地域を「つなぐ」ことがあるように思えます。
高千穂さん自身が「今身の回りにあることは、自分が求めたからではなく、呼ばれた、導かれたものに思える」と語るように、もしかしたら、生まれ持って与えられた役割のようなものが存在し、登山はその手段として与えられたものなのかもしれません。それは、高千穂さん自身も強く感じているようです。
それに、僕の誕生日が2016年から「山の日」になったんです。これはもう、生まれたときから人生の進むラインが決まっていたのか? と驚いちゃいました。

高千穂さんより、山好きのみなさん&登山を始めたい人へ

白馬大雪渓にて
人間は自然や天候に対して、なにも変えることができず、合わせるしかありません。自分の無力さやちっぽけさを知らされて、自然ってすごいな、逆らってはいけないなと思っちゃいますよね。
でも、天気が悪くても暑くても寒くても、楽しさや喜び、幸せを感じる心が大切であることを、自然から教えてもらっている気がします。
趣味やスポーツとしての登山の歴史は、まだ100年足らずですが、それまで何千年もの間、山は神の領域として崇められてきました。とくに日本や中国では、修行や信仰としての登山がはるか昔から行なわれています。今は、目に見えないものに価値を感じる時代。山に登り、自然や神と対話してください。
ガイド登山は、人と人の繋がりです。私たちガイド側も、さまざまな知識や経験、感情論をみなさんから聞かせてもらうことで、一緒にレベルアップさせてもらっていますよ。
国内・海外登山を通じて自然、神様、そして人との繋がりから、たくさん気づきや発見を得てください。
