「ULバックパック」のパッキングって、どうやるのが正解?

撮影:tak_sko
薄手で軽量ながら強度の高い生地×機能を厳選した仕様による、圧倒的な軽さが魅力のウルトラライトバックパック(以下、ULバックパック)。そのシンプルなつくりゆえに、いざパッキングしてみると、
「中の荷物が変なところに出っぱってしまって、背負い心地が悪い……」
「形が曲がってバックパックがブサイクになってしまう……」
など、うまくパッキングできないという人も多いのではないでしょうか。
フレームレス、1気室、雨蓋なし、ポケットも少なめといったモデルが多いULバックパック。どうしたら真っ直ぐキレイなパッキングができるのか、ULの達人に聞いてみました!
教えてくれたULの達人は、ハイカーズデポ・土屋さん

撮影:筆者
“ウルトラライトハイキング”を提案するショップ「ハイカーズデポ」のオーナーであり、日本でウルトラライトを広めた立役者・土屋智哉さんにお話を伺いました。
今回は筆者の1泊2日のテント泊装備を例に、パッキング方法を教わります。
そもそも「ULバックパック」って……パッキング前に知っておきたいこと

撮影:筆者
ULバックパックは本来、重いものを背負うようにできておらず、軽い荷物で身軽に行動するために作られたもの。デザインが良い、かっこいいなどの理由で使い始めるのはありですが、本来の使い方を意識することが大事です。この前提のもとで、まずはバックパックの容量を考えます。
筆者
テント泊に使う一般的なバックパックの容量は50~60Lと言われていますよね。私のバックパック(オガワンドのOWN)も50Lくらいまで入るのですが、どのくらいの容量がベストでしょうか?
土屋さん
なんリットルでも正解と言えます。30Lでも無理ではないですが、基本は40L台で考えると良いでしょう!

表作成:筆者
ULバックパックは上記の重量で収めないと、歩くのが辛くなることも。これ以上の荷物を持ちたいなら、フレームやパッドが入ったバックパックを使うのがベターです。
土屋さん
フレームやパッドは言わば「オプションの筋肉」。体に荷重しても、それらの筋肉が代わりに支えてくれるんです。
ULバックパックには「オプションの筋肉」がないので、背負う人の筋力がダイレクトに出るんですよね。
筆者
なるほど~!背負って歩くためには筋力も大事なんですね……。
土屋さん
そう、ULバックパックを快適に背負うためには「自分を鍛える」か、「荷物を軽くする」かの二択です!
ULバックパックの容量を抑えて、荷物を過剰に入れないように「制限をかける」のも有効ですよ。
美しくパッキングするために!装備の見直しが重要

撮影:筆者
筆者の1泊2日のテント泊装備がこちら。登山歴10年ですが、道具は始めた時とほとんど同じです。
筆者
装備の全部を軽量なものに置き換えなくても、今あるもので目安となる容量に収める、でも良いのでしょうか?全部買い替えるのは勇気がいります……。
土屋さん
そうですよね。ひとつの目安として、<アライテント>さんのホームページ内の「軽量装備の夏山テント山行のススメ」を参考にするといいですよ。
ポイントは「ベースウェイト」の軽量化

撮影:筆者
アライテント公式サイトで紹介されている「軽量装備の夏山テント山行のススメ」の装備は、特段軽量なものではなく一般的なものばかり。それでもベースウェイト(水・食料・燃料を除いたバックパックの重量)は約6kgほど。
土屋さんの著書『ウルトラライトハイキング』にあるハイキングギアリストは約4.6kgなので、ベースウェイトは4.5~6.5kgを目標に見直していきます。
土屋さん
荷物を詰めたバックパックの総重量が気になるのはよくわかります。でも泊数によって水や食料は変わるので、総重量よりもベースウェイトを見直すことが大事なんです。
筆者
毎回必ず持っていくものを軽くすればいいんですね。たしかに泊数で変わる水や食料込みで比べても意味がないですね……。
なんのために持っていく?と自分に問いかけながら荷物を精査
登る山、天候、宿泊スタイル……その時々の山行に合うように荷物を一つひとつ精査していきます。その際、重量を計って把握することもおすすめ。

撮影:筆者
土屋さん
手袋が2つありますね。これ、どちらか1つにできないかな?よく使う方は??
筆者
指が出る方をよく使います!もう1つは雨が降ってきた時用です。
土屋さん
天候にもよりますが、晴れ予報であれば指が出るタイプのみで良いと思いますよ!

撮影:筆者
土屋さん
フリース、ダウン、ニット帽と防寒着が多いですが、どんな時に使っていますか?
筆者
テント場に着いてからの防寒としてフリースを着ます。それでも寒かったらと、お守りでダウンを持っています。ニット帽はテント場で被ったら可愛いな~と思って(笑)。
土屋さん
なるほど。夏ならフリースにレインウェアを羽織れば大体の寒さは凌げますよ!それでも寒ければシュラフを被るのもひとつの手です。
可愛いから被りたいニット帽は「欲望グッズ」ということですね。
欲望をいったん横に置いて、1軍と控え選手に振り分ける
「欲望グッズ」とは、なくても支障がないけれど、あると嬉しい道具のこと。「欲望グッズ(控え)」と「本当に必要なもの(1軍)」と分けてみます。
筆者
「欲望グッズ」はルーティンで入れてしまっていました。本当に必要かどうかは特に考えてなかったかも……。
土屋さん
「欲望グッズ」を否定はしませんよ。山行を豊かにするためのものですから。優先順位をつけて、担げる余裕があるなら持って行く、担げないなら工夫する、ということです。

撮影:筆者
荷物一つひとつに優先順位をつけるのがポイント。
例えば筆者の「欲望グッズ」のニット帽は、テント場で寝るまでの間に被るだけの使用頻度が少ないもの。寒くて「これがなくちゃ寝られない!」のなら優先順位は高めになりますが、「可愛いから被りたい」は優先順位低めになります。
こうした「欲」をいったん抑え、いつ、なんのために使うかを考えながら荷物を分けていきましょう。
かさばる衣類が軽量化の大きな分かれ目
衣類は軽量化のための重要なポイント。1日ごとに取り替えると荷物がどんどん増えてしまいます。
筆者
汗かきなので1日ごとに着替えたいところなのですが、荷物を増やしたくなくて……。どんな工夫をすれば快適に過ごせて軽量化できますか?
土屋さん
汚れものを増やさないことですね!
山行のなかで、行動中はずっと同じものを着るようにするんです。そうすれば持っていく着替えが減りますよ。

撮影:筆者
登山ウェアは速乾性がある化繊、ニオイが出にくいウールといった素材が主流。すぐ乾いてニオわなければ着替えずに行動できます。
土屋さんの場合、宿泊地に着いてテントを張ったり食事を準備したりする間に、行動着を着たまま乾かす「着干し」をするのだそう。寝る時用に1枚用意しておき、汗を吸っていないフレッシュなものを着れば快適に眠ることができます。
・行動着=1着
・寝間着=1着
と計2着ですみ、軽量化が可能に。
筆者
なるほど~!汚れやニオイが出るものを1枚に収めてしまうんですね。たしかに登山ウェアはそれが可能でした……。原点に立ち戻った気がします!
ファーストエイドキットは自分が使えるものを

撮影:筆者
筆者
正直言うと、ファーストエイドキットは登山を始めたころに雑誌を見て揃えたもののままでして……。ありがたいことにあまり出番がないので、見直したことがないんです。
土屋さん
ファーストエイドキットも考え方は同じ。「どんな時にどう使うか」を想定して準備しましょう。「自分が使えるもの」を把握し、きちんと管理することが大事です。

撮影:筆者(土屋さんの著書『ウルトラライトハイキング』にもファーストエイドキットの考え方が紹介されている)
低山なのか高山なのか、日帰りか泊まりか、パーティなのかソロなのか。どこへ、なにをしに、誰と行くかで内容が異なるのがファーストエイドキット。
・自分が使いこなせる医療品
・下山までに必要な量
を持つことがポイントです。
食事の道具を取捨選択
筆者
食事はその時によりけりですが、今回はフリーズドライ食をメインにしてみました。
土屋さん
フリーズドライ食ならこんなに大きな鍋じゃなくてもいいですね。もっと小さいものにするか、火にかけられるマグカップでも事足りますよ!

撮影:筆者
クッカーの選択は何を食べるかで変わります。
・パスタ料理や炊飯→大きな鍋
・フリーズドライとスープ→小さな鍋や直火OKのカップ
といった具合。燃料の選択も同様です。
自分で決めた食べ物をきちんと調理できればいいので、この考えを元に整理していけばOKです。
1番重い!水はどうする?
土屋さん
水筒2つに補充用が2Lと計4Lの水がありますね。仮に1日6時間行動するとして、食事がフリーズドライならちょっと多いですね。
筆者
水がないと不安で……。いつも多めに持っていってしまうんです。
土屋さん
その気持ちもわかりますが、「不安だから持つ」という考えは足かせになってしまうんですよ。歩くコースや補給量をしっかり分析すると、持つべき量が見えてきます!

撮影:筆者
荷物の中で1番重い「水」。人それぞれではありますが、土屋さん曰く「2Lをベースにして考える」のがおすすめなのだそう。
・コース上のどこに水場や補給可能な山小屋があるか
・自分が1時間でどのくらい水を飲むのか
この2つを把握してマネージメントすることが大事。
水場がなく、暑さでたくさん飲むことが予想されるなら多めに、水場があり補給可能ならスタートから少なめにする、といったように持つ量を決めるのが効果的です。
土屋さん
「水がないと不安でたくさん持つ」→「重いので歩みが遅くなる」→「もっと水が必要になる」
この悪循環を断ち切りましょう!
ほかにもある!軽量化できるもの

・ランタン→ヘッドライトを使う
・キッチンペーパー→使う分だけ持つ
・汗拭きシート→手ぬぐいと清涼感のあるミントスプレーで代用
と、まだまだ工夫次第で軽量化することが可能です。自分のスタイルに合わせて準備してみてくださいね。
見直した装備の重量はなんと!

撮影:筆者
ベースウェイトが6.8kgに!4.5~6.5kgの目標に近づきました。
土屋さん
クッカーやテントを軽量なものに変えれば、範囲内になりますよ!
いよいよパッキング!コツは「難しく考えない」

撮影:筆者
一つひとつ見直して厳選した道具をパッキングしていきます。
筆者
今回の大トリとも言えるパッキングまできました!どういったことがポイントになりますか?
土屋さん
とにかく「難しく考えない」ことです!あれこれ考えすぎて、できないと思い込んでしまう人が多いんですよ。必ずできますから、一緒にやってみましょう。
形を作ってパッキングしやすくするのも手段のひとつ
土屋さん
ULバックパックが、パッキングしにくいと言われる最大の理由はなんだと思いますか?
筆者
なんだろう、ペラペラした生地だからですかね?軽くてありがたいけど……。
土屋さん
そのとおり!生地がペラペラしているからなんです。
フレームやパッドが入ったバックパックはそれらがガイドになっているので、パッキングしやすいんですよ。なので、1つの手として、中にマットを入れてガイドを作ってあげるんです。

撮影:筆者
昔からある「マットを中に入れる」方法が有効!形が作られてパッキングしやすくなり、荷物が飛び出たり曲がったりしてしまうことがありません。背面パッドの代わりにもなるので背負いやすくなります。
筆者
「真っ直ぐキレイな形にしたい」「背中に物が当たらないように背負いたい」っていう、2つの悩みが一気に解決しちゃいました!
土屋さん
マットを外付けにしている人が多いですが、中に入れても意外とペースがあるのでおすすめですよ。薄めのロールタイプにすれば、さらにスペースが生まれます。
レイアウトはシンプルに。大きな分け方でOK
筆者
荷物を入れる順番やレイアウトは一般的なバックパックと同じでいいのでしょうか?
土屋さん
基本はそれでいいのですが、雨蓋がなく1気室のものが多いので、もっとざっくりした分け方でOKです!

作成:筆者
詰め方は大きく2つに分けて
・上は重くて密なもの、行動時に使うもの
・下は軽くてかさばるもの、テント場や宿泊地で使うもの
このくらいでOK。
ここにコレを入れなきゃ!と細かく分類することに囚われず、ざっくりした分け方でパッキングしてみます。
土屋さん
肩甲骨のところに重心がくるように、重いものをレイアウトするのがポイントです。

撮影:筆者
土屋さん
いろいろ言ってきましたけど、それぞれの行動スタイルで詰め方が変わるので一概に「これが正解」とは言えないんですよ。
筆者
……???
例えばどんなスタイルですか?
土屋さん
例えばクッカーだったら、「テント場でしか使わない」という人なら下に詰めるけれど、「行動中の休憩にお湯を沸かしてお茶を飲む」という人は取り出しやすいように上に入れますよね。
筆者
たしかに!私も行動食をちょこちょこ摂るので、食料を2つに分けて行動食は上、テント場用は下に入れています。
土屋さん
パッキングに関しても荷物の軽量化と同じで、自分の行動スタイルに合わせて「いつ、どこで、なんのために使うか」を考えながら詰めましょう。
パッキングの考え方がはっきり・クリアになり、それぞれの正解が生まれると思います。
ギュウギュウに押し込んで!パッキングの最も大事なポイント

撮影:筆者
どこに何を詰めるかも大事だけれど、それ以上に重要なのはギュウギュウに押し込んで詰めること!隙間を狙って詰め込めばデッドスペースがなく、荷崩れを防ぎます。
土屋さん
みんな、やさしく入れすぎなんですよ(笑)。荷物のほとんどが布ものだからギュウギュウに押し込んでも壊れません!躊躇せず詰めましょう!
筆者
たしかに押し込み方が足りなかったような……躊躇せずやってみます!
ギュウギュウに詰める時のポイント
- ・スタッフサックはゆとりをもたせてやや大きめをチョイス(変形可能になり隙間に入れられるため)
- ・衣類の圧縮はしない(カチカチに固くなると融通が効かず、隙間に入り込めなくなるため)
・ボックス型のケースの使用は控える(デッドスペースが生まれるため)
コンパクトで美しいパッキングのできあがり!
ギュウギュウに詰め終わったら、外側からパンパンとたたいて形を整えます。詰め込んでから圧縮、成型するイメージで、デッドスペースをなくしていきましょう。
そうして完成したバックパックがこちら!

撮影:YAMA HACK編集部
筆者
うわ~!ひと回り小さくなったような……コンパクトでキレイな形になりました!
土屋さん
ほら、できたじゃないですか!
「できない」と思い込まず、とにかくやってみることが大事です。トライ&エラーで自分のパッキングを追求してくださいね!

撮影、作成:筆者(荷物の量が減って軽くなったうえに、いびつさも解消されてバランスが良くなった)
自分に最適なパッキングで山をもっと身軽に楽しもう!

撮影:mouu23s
苦手だったULバックパックのパッキング。荷物の選定も詰め方も、「いつ、どこで、なんのために使うか」と問いかけながら行うことが最大のポイントでした。
試行錯誤を繰り返して、自分にぴったりのパッキングを作っていきましょう。最適なパッキングができたULバックパックを背負えば、山歩きが一層楽しく、より快適になること間違いなしです!
土屋さんの著書『ウルトラライトハイキング』も必読!
著者 | 土屋 智哉著 |
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出版社 | 山と渓谷社 |
価格(税込) | 880円 |
サイズ | 文庫 |
ウルトラライトハイキングの思想、日本での実践方法をイラストと共に解説。「軽さ」だけではない「シンプルな考え方」や「自然との関係」に触れられるハイカー必読の一冊です。
Hiker’s Depot(ハイカーズデポ)

撮影:筆者
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