クイズで知ろう!この夏登りたい「長野県内の日本百名山」を安全に踏破するヒント
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いよいよ夏山シーズン到来!この夏、日本百名山の登頂座数を伸ばすことを目標にしている人も多いのではないでしょうか。
日本百名山のうち、他県と県境を接する山を含めて実に29座がそびえるのが長野県。五竜岳・水晶岳のように山頂は隣の富山県にありながら、長野県側から登る山もあります。
そんな名峰たちを安全に踏破するためのヒントは、一体どこにあるのでしょうか。
2023/08/02 更新
編集者
YAMA HACK編集部
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YAMA HACK編集部のプロフィール
制作者
山岳ライター・登山ガイド
鷲尾 太輔
登山の総合プロダクション・Allein Adler代表。登山ガイド・登山教室講師・山岳地域の観光コンサルタント・山岳ライターなど山の「何でも屋」です。登山歴は30年以上、ガイド歴は10年以上。得意分野は読図(等高線フェチ)、チカラを入れているのは安全啓蒙(事故防止・ファーストエイド)。山と人をつなぐ架け橋をめざして活動しています。
公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅠ 総合旅行業務取扱管理者
鷲尾 太輔のプロフィール
アイキャッチ画像撮影;鷲尾 太輔
日本百名山を完登したい!安全に登り続けるためには……?

提供:Instagram/k1_eri_os
北海道・利尻山から鹿児島県・宮之浦岳まで、全国に点在する日本百名山。遠方にあったり、積雪期は登山が難しかったりする山も多いため、この夏にひとつでも多く登りたいという人もいるのでは?
夏季休暇やお盆休みを利用すれば、複数の山を一度の遠征で登頂するチャンスが到来しますね。
そんな日本百名山チャレンジャーにとっての脅威のひとつが、山岳遭難です。せっかくの楽しい登山が台無しになるだけでなく、ケガなどによってチャレンジの中断を余儀なくされることも。
出典:PIXTA(左上から時計周りに、槍ヶ岳&穂高連峰・常念岳・白馬岳・赤岳)そこで今回は日本一の山岳県であり日本百名山も集中している長野県の山に着目。過去3年間(令和2~4年)でとくに遭難者が多かった日本百名山(槍ヶ岳・穂高連峰・白馬岳・常念岳・赤岳)での遭難事例からわかる注意点を、クイズ形式で紹介します。
安全に日本百名山を踏破するためのヒントを知るために、さあチャレンジしましょう!
Q1.|憧れの槍ヶ岳、みんなが転倒しているのはどこ?
槍ヶ岳での過去3年間の山岳遭難44名のうち、トップを占める態様(原因)は転倒で12名です。
では、これらの転倒が多く発生している場所は、どちらでしょうか?
出典:PIXTA(左:槍の穂先のハシゴ/右:槍沢のガレ場)1. 槍の穂先へのアタック中
2. 槍沢のガレ場の下山中
正解は……
答えは、「2. 槍沢のガレ場の下山中」です。
ハシゴ・鎖などを頼りに急峻な岩稜を登降する槍の穂先では緊張感を持って行動しますが、登山道の下山時は気が緩みがち。
難所を制覇した安心感・達成感や、片道22kmと長い上高地への道のりでの疲労から、思わぬ場所で転倒してしまうのです。
槍ヶ岳の場合、難所と呼ばれる穂先での山岳遭難はほとんどありません。大半が槍沢ルートを下山中の転倒です。
無事に家に帰るまでが登山です。ゴールまで気を抜かずに行動しましょう。
Q2.|滑落が多い穂高岳、みんなが油断しがちな場所は?
穂高連峰(奥穂高岳・前穂高岳・北穂高岳・西穂高岳)での過去3年間の山岳遭難59名のうち、トップを占める態様(原因)は滑落で26名と、4割以上を占めています。
では、これらの滑落が多く発生している場所は、どちらでしょう?
出典:PIXTA(左:涸沢カールへ下るザイテングラート/右:ジャンダルムへ続く馬の背)1. 涸沢カール・岳沢カールへの下山道
2. ジャンダルム・吊尾根・ゴジラの背などの稜線上
正解は……
答えは「1. 涸沢カール・岳沢カールへの下山道」です。
もちろん切り立った稜線からの滑落も発生していますが、件数が多いのは奥穂高岳のザイテングラート、北穂高岳の南稜、前穂高岳の重太郎新道などの下山中です。
いずれもそれぞれの山頂へ至るメジャーなルートですが、決して容易なわけではないのです。
急峻な穂高連峰の稜線へ向かうルートは、メジャーとはいえ険しい登山道です。転倒(59名のうち8名)では済まない場合が多く、滑落してしまうのです。
北穂高岳の南稜や前穂高岳の重太郎新道では、登山中にも滑落事故が発生しているので注意が必要です。十分な技術と体力を備えてから臨みましょう。
Q3.|白馬岳で発生している意外なトラブルって?
白馬岳は大雪渓・蓮華温泉・栂池自然園からのアプローチや白馬三山縦走など様々なルートがあり、過去3年間で31名の山岳遭難が発生しています。
では、白馬岳での山岳遭難で態様(原因)のトップを占めるのは、どちらでしょうか?
出典:PIXTA(左:大雪渓での滑落/右:悪天候下での疲労)1. 雪渓での滑落
2. 長いルート上での疲労
正解は……
答えは「2. 長いルート上での疲労」です。
全体の3分の1を超える11名が疲労・凍死傷によるもの、そしてそのうちの7名が雨・吹雪・霧など悪天候での山岳遭難です。
ちなみに滑落も態様の第2位で8名を占め、すべてが雪渓上で発生しています。
自身の体力に見合った山行計画を立てることは大前提として、悪天候下での無理な行動は、必要以上に体力を消耗させます。ようやく訪れた夏休みやせっかくの休日に登りたい気持ちもわかりますが、体調や天候によっては中止・撤退の判断も必要です。
雪渓上での行動では、滑落防止のための軽アイゼンの装着はもちろん、落石に備えてヘルメットも着用してください。
Q4.|稜線上での転倒が多い常念岳、ガレ場歩きのコツは?
一ノ沢登山口へのアクセスが容易で単独で登ることも、蝶ヶ岳や燕岳をつないでのパノラマ銀座縦走で登ることも多い常念岳。過去3年間で24名の山岳遭難が発生しており、常念小屋への下りや蝶ヶ岳への縦走路など、稜線上での転倒が9名と態様のトップを占めます。
では、こうしたガレ場での転倒を防止するために有効な歩き方はどちらでしょうか?
撮影:YAMA HACK編集部(左:かかとから接地/右:靴底全体で接地)1. かかとから慎重に接地する
2. 靴底全体で接地する
正解は……
答えは「2. 靴底全体で接地する」です。
1.のように、かかとだけで着地して上半身も腰が引けた状態では滑りやすく、転倒だけでなく落石を起こす原因にもなってしまいます。
ザレ場の登りでは膝から上の上体が常に垂直に立っている状態にし、目線を進行方向に。靴底をフラットに置き、足裏全体を使います。
下りでは両膝を少しだけ曲げ、靴底の中心に重心を置いて足裏全体を使うと安定します。
槍ヶ岳や穂高連峰のような難所は少ない常念山脈(パノラマ銀座)ですが、森林限界上の岩稜を歩くことに変わりはありません。浮石でバランスを崩さないよう、着実な歩行が求められます。
Q5.|雪のある時期の滑落が多い赤岳、夏山の遭難原因って?
八ヶ岳最高峰・赤岳では過去3年間に41名の山岳遭難が発生。トップを占める態様は滑落で10名を占めます。
そして発生日時は雪のある1月〜6月前半に集中しています。アクセスも良く通年営業している山小屋もあることからチャレンジしやすい雪山ですが、高所・岩稜での豊富な雪山登山経験が必要です。
では、夏山シーズンで多く発生している山岳遭難の態様(原因)はどちらでしょうか?

出典:PIXTA(左:道迷い/右:病気)
1. 道迷い
2. 病気
正解は……
答えは「2. 病気」です。
過去3年間で発生した山岳遭難の態様の第3位・6名を占めます。しかも病気になったのは9歳・16歳・28歳・30歳・45歳・83歳で若い人が多いのにも驚かされます。
ちなみに第2位は9名を占める、「その他」という態様。内容を見ると装備不足や体調不良による行動不能が大半です。
首都圏や中京圏からのアクセスもよく短い日数で登頂できる赤岳ですが、日頃の疲れを抱えたまま登山すると、若い人でも体調を崩すことがあります。無理のないスケジュールと、しっかりと体調を整えてチャレンジしてください。
Q6.|コレは持っておいて!無事救助されるためのポイントは?
もちろん無事に救助された登山者も多数。しかしそのために必要な準備もあります。そこで最後の問題は、長野県警察山岳遭難救助隊に聞いてみました!
無事救助されるためには、どちらのアイテムが有効でしょうか?
撮影:鷲尾 太輔(左:ヘルメット/右:ツエルト)1. ヘルメット
2. ツエルト
正解は……
答えは両方です!ここまで見てきた通り、山岳遭難が多い長野県内の日本百名山は岩稜が多く、転倒・滑落・転落という態様が目立ちます。ヘルメットが絶対の無事を保証するものではありませんが、ヘルメットを着用することで、深刻な致命傷となる頭部の負傷を軽減することができます。
また道迷いや疲労・病気などで行動不能になった場合には、救助隊の到着をその場で待つしかありません。天候や場所によってはヘリコプターが出動できず、捜索・救助が翌日以降になることも。救助を待つ間に体力の消耗を防ぐために、非常食や予備の飲料水はもちろんですが、体温を保つためにもツエルトは重要なアイテムです。

長野県警察山岳遭難救助隊
長野県では山岳ヘルメット着用の奨励山域を指定していますが、それ以外の山で不要というわけではありません。転倒・滑落・転落の可能性がある岩稜では、積極的にヘルメットを着用してください。
また非常食・ツエルト・エマージェンシーシートの有無は、捜索・救助まで遭難者が「持ちこたえられるか」の判断材料にもなります。携行はもちろん、登山計画書の装備品にも記入をお願いします。
リスクを知って備えて、安全に日本百名山を楽しもう!
撮影:鷲尾 太輔(白馬岳へ続く道)今回紹介した長野県内の日本百名山は、すべて標高2,500m以上の森林限界を超える岩稜です。転倒・滑落など険しい地形によるリスクや、熱中症・低体温症など厳しい気象条件によるリスクの両方があることを認識する必要があります。
遭難事例を参考に、事前の準備や登山中の行動・判断に活かして安全に日本百名山を踏破しましょう。この記事を読んでくれた読者の皆さまが、無事に下山して元気に次の百名山へとチャレンジできることを願っています。
制作協力:長野県山岳遭難防止対策協会
長野県内の日本百名山における山岳遭難発生状況 (令和2年~4年)
以下、長野県内の日本百名山の中で、とくに遭難者が多かった山(槍ヶ岳・赤岳・白馬岳・常念岳・穂高連峰)における山岳遭難の態様別の割合です。


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