切通しと切岸のダイナミックな景観を楽しむハイキング
鎌倉幕府の防衛拠点であった「鎌倉の七切通し」や「鎌倉七口」とも呼ばれる七箇所の切通しのうち、源頼朝の平家討伐の挙兵にも呼応した三浦一族の領地へ通じるのが「名越切通し(なごえきりどおし)」です。
険しい地形のため「難越(なごし)」とも呼ばれたこのコースでは、切通しだけでなく山の斜面を削って断崖絶壁にした切岸(きりぎし)を見ることもできます。軍事的な要衝だけでなく石材の産地でもあったという歴史の面影をたどりながら、今回は鎌倉市を抜けて逗子市へと歩いてみます。
名越切通しハイキングコース概要
- 【体力レベル】★☆☆☆☆
- 日帰り
- コースタイム:約1時間56分
登山口情報
スタート地点は、鎌倉駅から京急バス・緑ヶ丘入口行に乗って約4分の名越バス停です。鎌倉駅から徒歩でも1kmほどの場所なので、歩いて向かってもよいでしょう。
コース詳細ガイド
Section1:名越バス停〜登山口(1.7km・約29分)
最初のセクションはすべて舗装路歩き。妙法寺・安国論寺に立ち寄り参拝した後は、JR横須賀線の線路に沿って登山口をめざします。
名越バス停(写真右奥)から県道311号鎌倉葉山線沿いに40mほど戻り、この二叉路を左の路地へと進みます。
橋を渡り80mほど進んだこの駐車場の手前を、左へと進みます。
住宅街の中の路地を進み、突き当たりを右へと進みます。
静かな住宅街の道幅の狭い路地を進みます。
やがて左手に妙法寺への路地が続いており、こちらへと入ります。
鎌倉時代に活躍した日蓮宗の開祖・日蓮上人が、鎌倉へ布教に訪れ最初に庵を構えた場所にある妙法寺。入口で拝観料(中学生以上300円)を支払うとお線香をもらえるので、本堂前の香炉に立てて参拝しましょう。
境内は四季折々の花々を楽しむことができるほか、美しい苔の階段があることから「苔寺」とも呼ばれています。
妙法寺を後にして[5]の場所まで戻り、再び住宅街を歩きながら安国論寺へと向かいます。
日蓮上人が国の安泰と人々の幸せを願って『立証安国論』を執筆した場所にあるという安国論寺(拝観料は100円)。広い境内の霊場を巡るちょっとしたハイキングコースがあり、富士山を眺望できる富士見台もあります。
境内には日蓮がその活動に反感を抱く人に襲われた「松葉ヶ谷の法難」の時に避難したという伝説が残る南面窟など、興味深いスポットが点在しています。
安国論寺での参拝を終えたら、県道311号鎌倉葉山線をめざします。
交番のある場所で県道と合流したら、奥に見えるJR横須賀線の踏切を渡ります。
踏切を渡ったらすぐに県道から離れ、左手の路地へ入ります。
静かな住宅街の中を200mほど進みます。前方に見える山並の向こうに、名越切通しがあります。
再びJR横須賀線の踏切が現れ、これを渡ったらすぐ右手に進みます。
中央の看板に従って、右手に延びる坂道を登っていきます。
登山口である名越切通し・大町口に到着です。ハイキングコースは右手の桟道の奥へと続いています。
Section2:登山口〜法性寺(1.6km・約47分)
このセクションが今回のコースのハイライト。「名越切通し」や「お猿畠の大切岸(おさるばたけのおおきりぎし)」などの史跡が集中しており、見どころ満載です。
いきなり巨大なフェンスが現れますが、この奥へとハイキングコースが続いています。右後方を振り返れば、名越切通しの真下を貫くトンネルへ出入りする、JR横須賀線の電車が行き交う様子を見下ろすことができます。
まもなくハイキングコースは土道に変わります。路面や周囲には苔むした石が点在しており、幽玄な雰囲気の区間です。
やがてハイキングコースは階段に変わり、名越切通し分岐へと登っていきます。
登りきって苔むした巨岩のある場所が「名越切通し分岐」。鎌倉市と逗子市の境界でもあります。
お猿畠の大切岸は分岐を左手に進みますが、いったん直進して名越切通しを往復してみましょう。
名越切通し分岐からは、ゆるやかな下り坂となります。
やや進んで左手の小高い場所にあるのが「まんだら堂やぐら群」。横穴式のお墓が150基以上も並ぶ鎌倉時代の霊園です。写真の通り普段はフェンスで閉鎖されており、春と秋の期間限定で公開されます。
フェンスの隙間から見たまんだら堂やぐら群です。間近で見るとさらに壮観でしょうね。
まんだら堂やぐら群から少し下ると名越切通しに入ります。写真は「第3切通し」と呼ばれる場所。さらに下ると第2切通し・第1切通しと続き、名越切通し・亀ヶ岡団地口へと至ります。
名越切通しから引き返して、[19]と同じ名越切通し分岐へと戻ってきました。「法性寺・大切岸」の道標に従って、右手へ進みます。
しばらく進むと森が開け、フェンスに囲まれた無縁諸霊之碑の左側を歩いていきます。
無縁諸霊之碑周辺だけは森が開けて広場のようになっていますが、写真奥の階段を登ると、再び森の中のハイキングコースとなります。
鉄製の柵に沿って下っていくと、やがて右奥にブロック塀が見えてきます。
法性寺とお猿畠の大切岸の分岐です。まずは大切岸をめざして、左手へ進みましょう。
森の中にたたずむ二基の石廟(せきびょう)は、鎌倉時代末期から南北朝時代の造営とされるお墓で、鎌倉市の文化財に指定されています。
石廟から下ると一気に視界が開け、大切岸展望広場に到着です。広場の左隅には、お猿畠の大切岸の解説板が設置されています。
お猿畠の大切岸では、現在の鎌倉市と逗子市をへだてる稜線を800mに渡って削り取った、スケールの大きな景観が広がります。
お猿畠の地名は、安国論寺でも紹介した「松葉ヶ谷の法難」の際に、日蓮上人がこの付近で3匹の白猿に助けられて避難したという伝承に由来しています。
周囲が再び森になっても続く大切岸。このまま進むと衣張山ハイキングコースと合流しますが、今回は[27]の分岐へ引き返します。
分岐に戻り右手を下っていくと、切岸の下に墓地がある名越切通し・法性寺口に出ます。ここからは墓地の中の舗装路を進みます。
法性寺・奥の院には、日蓮上人の弟子である日朗上人の御廟所(ごびょうしょ/墓)や、3匹の白猿に助けられた日蓮が避難したという岩窟があります。安国論寺の南面窟も同じ伝説があり、どちらに避難したのか興味をそそられます。
奥の院左手の鳥居をくぐり石段を登っていくと、猿畠山の山頂です。3匹の白猿が仕えた山王大権現が祀られており、お猿畠の大切岸や逗子市の眺望が広がります。
奥の院から法性寺へは、車が通行できる舗装路と石段いずれを使っても下ることができます。
本堂まで下ってきました。正式には「猿畠山 法性寺(えんぱくざん ほっしょうじ)」といい、先程登った猿畠山が山号となっています。
Section3:法性寺〜逗子駅(2.8km・約40分)
最後のセクションは基本的にJR逗子駅へ向かう車道沿いを歩きます。途中、鎌倉を起点に神奈川県・埼玉県・東京都・群馬県・栃木県・茨城県・千葉県の寺院を巡る坂東三十三観音霊場の第二番札所である岩殿寺に立ち寄ります。
法性寺を後にして、舗装路を下っていきます。
下りきると法性寺の山門があり、その向こうにJR横須賀線の踏切が見えます。ちなみに山門の反対側(正面)に掲げられた「猿畠山」の山号額には、白猿の木像がしがみついていますよ。
山門をくぐると、踏切は渡らずにJR横須賀線の脇を走る県道205号金沢逗子線に沿って歩きます。交通量が多いので歩道がある左側を通行してください。
この付近は鎌倉から名越切通しを経て三浦半島へ向かう、鎌倉みち(江戸時代には浦賀みちと呼ばれた)が通っていました。路傍にはかつての旅人を見守ってきた庚申塔群が残っています。
県道がやや左へカーブして踏切が見えてきます。ここで県道を離れ、左手の路地へ進みます。
岩殿寺への案内板があるこの路地を左手に入ります。
かつて参道であった住宅街の中を、まっすぐ進めば突き当たりが「岩殿寺」です。
岩殿寺は開山が奈良時代の721年という古刹で、平安時代の花山法皇や後白河法皇、そして鎌倉幕府を開いた源頼朝も度々参拝したという「十一面観音」が本尊となっています。
岩殿寺を後にして[41]の場所まで戻ったら、自動車ディーラーの脇を抜けて再び県道205号へ戻ります。
逗子駅をめざして、県道205号沿いを進みます。この区間も、左側の歩道が安全です。
コンビニエンスストアが見えてきたら横断歩道を右側に、踏切を渡ります。
踏切からは、逗子駅のホームも見えます。
踏切を越えてしばらく進んだら池田通りの信号を左手に入り、なぎさ通りを通って逗子駅へ向かいます。
地元の人にも親しまれる商店街といった趣のなぎさ通り。居酒屋や食事処のほか、ビーカーに入ったプリンが人気のマーロウや鎌倉土産として人気の鳩サブレーを販売する鎌倉豊島屋の逗子店もあります。
ゴールの逗子駅東口に到着です。コンビニエンスストアや喫茶店のほか、駅弁が人気の大船軒の支店もあるので、帰路の電車のお楽しみを購入してもよいでしょう。
鎌倉の建築を土台から支えた石材の産地
従来は城壁として切通しと並ぶ防衛拠点とされてきたお猿畠の大切岸ですが、近年の研究では大規模な採石場であったという説も有力です。
鎌倉時代から室町時代にかけて、建築物の基礎となったのがここで切り出された石。今も多くの観光客を迎える古都の寺社仏閣の土台がこの地から産出されたと考えると、鎌倉文化の礎としての存在感も抜群です。
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