武家の古都を守る拠点であった七つの切通し
源頼朝がこの地に幕府を開いたのは、前述の通り地形的に山に囲まれており敵の侵攻からの防衛に適していた地形であったことが大きな理由です。そしてこの山々には、戦略拠点と共に外部との通行路を確保するために人の手で切り開かれた「切通し」という道が設けられました。
「鎌倉の七切通し」や「鎌倉七口」とも呼ばれる七箇所の切通しのうち、現代でも往時の雰囲気を色濃く残しているのが、東側の六浦(横浜市金沢区)との境にある朝比奈切通しです。
今回は、そんな切通しの景観だけでなく美しい渓谷美を楽しむことができる「朝比奈切通しハイキングコース」を歩いてみましょう。
朝比奈切通しハイキングコース概要
- 【体力レベル】★☆☆☆☆
- 日帰り
- コースタイム:約45分
登山口情報
スタート地点はJR鎌倉駅と京浜急行・金沢八景駅を結ぶ京急バスの朝比奈バス停。鎌倉駅から約20分の道のりです。
下車して200mほど進んだ道路の反対側にコンビニエンスストアがありますが、車の往来が激しいのでコース詳細ガイドで最初に紹介する横断歩道を渡ってから立ち寄ることがおすすめです。
コース詳細ガイド
Section1:朝比奈バス停〜登山口・朝比奈峠(0.6km・約19分)
最初のセクションは、朝比奈バス停から朝比奈切通しの入口となる登山口・朝比奈峠までの道のり。この区間でも往時の面影を残す風景を数多く目にすることができます。
鎌倉方面からのバスを下車したら、朝比奈バス停から少し戻ってこの横断歩道を渡って右へ進みます。この先に金沢八景駅方面からの朝比奈バス停があります。
看板に従って、左手の路地に進みます。周囲には建設会社や鉄工所が点在しています。
鉄工所の向かい側、右手の斜面には早速切通しの名残が現れます。
朝比奈切通しへの道であることを示す石碑。近くには国史跡でもある朝比奈切通しの解説板も設置されています。
少し進むと右手の斜面には石仏群があり、切通しを作った人々の祈りを感じ取ることができます。
横浜横須賀道路の高架橋が切通しの上を通る珍しい光景。いにしえの道と現代の道が交差する、このコースならではの場所です。
このセクションは、土道にところどころ土のうが積まれたゆるやかな上り坂です。
早速、小規模な切通しを通過します。高さはそれほどではないものの両側の斜面が迫っており、写真映えする場所です。
さらに進むと斜面にはやぐら(横穴式の中世のお墓)と思われる穴もあり、興味は尽きません。
このあたりは切通しの上に樹木が繁茂しています。長い年月を経た道であることを実感しながら、進みます。
左手が開けて林になってくると、朝比奈峠はもうすぐです。
登山口・朝比奈峠に到着です。道標の通り朝比奈切通しへは右(ほぼ正面)の「かまくら道」を進みます。左に進むとすぐに、源頼朝が和歌山県・熊野三山の御祭神を勧請した(神の分霊を迎えた)といわれる「熊野神社」があります。
Section2:登山口・朝比奈峠〜十二所神社入口バス停(1.2km・約26分)
このセクションでは朝比奈切通しを通過しながら、太刀洗川(たちあらいがわ)の源流に沿って下っていきます。三郎の滝でハイキングコースは終わり、十二所バス停までは舗装路歩きとなります。
落石注意の看板が立てられた入口。いよいよここから朝比奈切通しへと入っていきます。
見上げると、ここまでよりも切通しの壁自体に高さがあり、スケール感のある場所です。
岩肌のところどころは苔むしており、時の経過を感じます。
江戸時代後期に盛んな採石が行われた千葉県・鋸山(のこぎりやま)の石切場を思わせる光景。岩壁には仏像が彫られています。
こちらは南無阿弥陀仏供養塔・道造供養塔が建つ場所。刻まれた年号から江戸時代に設置されたと想像されている石塔です。鎌倉時代以降も、人々に利用された道であることを物語っています。
この先から、ハイキングコースはゆるやかな下り坂になります。
切通しの壁面の亀裂と路面の角度の違いを見ると、単に山を直線的に削ったのではなく自然の傾斜をうまく利用していることがわかります。
この下り坂は滑川の支流・太刀洗川の源流部にあたり、常に水が流れています。雨の日には水量も増えるので、スリップには注意しましょう。
地質も水分を多く含んでいるようで、切通しの岩肌からも水が染み出している様子がわかります。
こちらの岩肌にはシダなどの植物が繁茂しています。自然に溶け込んだ切通しの風景も、ひと味違った魅力がありますね。
さらに下っていくと、水の流れる筋が太くなっていきます。しゃがんで水面に近づけば、空や木々の映り込みも美しい場所です。
鎌倉時代の御家人・朝比奈三郎義秀にちなんで名付けられた「三郎の滝」。時の権力者である執権・北条氏との争いでの勇猛果敢な戦いぶりが語り継がれている人物です。
ハイキングコースは三郎の滝まで。ゴールの十二社神社バス停へは右前方に進みますが、早春であれば左手に進んだ十二社果樹園の梅の花を楽しんでもよいでしょう。
ここからコースの足元は、砂利道〜コンクリート舗装〜アスファルト舗装と変化していきます。
護岸や柵ですっかり整備された姿に変わった太刀洗川に沿って、住宅街の中を進みます。
こじんまりとした十二所ひよどり公園を左手に見ながら、滑川との合流地点にある橋を渡ります。
この看板が見えたら、ゴールの十二所神社バス停は目前です。
先人の労苦をしのぶハイキングコース
コース紹介で触れた千葉県・鋸山と同じく、朝比奈切通しなど鎌倉周辺は凝灰岩という比較的柔らかい地質で構成されています。このため切通しを作ることが可能であったと考えられますが、鋸山ですら採石が始まったのは朝比奈切通し完成から600年以上を経た江戸時代後期なのです。
削岩機もダイナマイトもない時代、その難工事の様子は鎌倉時代の歴史書『吾妻鏡』にも記されています。点在する石仏や供養塔に足を留めて、この道を人力だけで開通させた先人の労苦をしのぶのも、このハイキングコースならではの魅力といえるでしょう。
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