本州から北海道まで咲く神秘的な花「クロユリ」
クロユリ(黒百合、学名:Fritillaria camtschatcensi)は、ユリ科バイモ属の高山植物。本州の中部以北と北海道に分布します。
花期は6-8月。本州では亜高山帯~高山帯の草原または草地、北海道では低地に自生しています。
「エゾクロユリ」と「ミヤマクロユリ」そして「キバナクロユリ」も
クロユリをもっと細かく分けると、エゾクロユリ、ミヤマクロユリに分かれ、変種としてキバナクロユリも存在します。
エゾクロユリ
北海道以北に分布。草丈50cmほどにもなり、ひとつの茎につく花は3~5個ほどです。
ミヤマクロユリ
本州の高山に分布。草丈30cm位までで茶色に近く黄色の網目模様があることから、エゾクロユリより黒味が少なく見えます。ひとつの茎につく花は1~2個ほどです。
キバナクロユリ
黄色いキバナクロユリというクロユリの変種も存在します。これはクロユリの黄色い斑点が花全体の色となってしまった黄色種。黄色いのにクロユリという名前なのはおもしろいですが、とても珍しいので、見つけたらかなりラッキーです。
クロユリの特徴は?ちょっと怖い伝説も
個性的なクロユリですが、特徴やエピソードも個性的です。
「黒色」ではなく黒に見えるだけ、そして臭い!
クロユリはよく見ると完全な黒ではなく、暗い褐色や紫。この色から英語ではチョコレート・リリーと呼ばれます。
実は黒色の色素は含まれておらず、多く含まれているアントシアニンが吸収しているので、黒く見えるだけなのです。
ここで疑問なのが、受粉で重要な役割をする虫は色で花を見分けるはずということ。しかし、クロユリは虫には見えない黒色。どうやって虫をおびきよせているのでしょうか?
クロユリは花が咲くと強烈なにおいを発します。このにおいが好きなのが「ケブカクロバエ」というハエで、このハエをおびきよせて花粉を運んでもらっています。
ちなみにクロユリは、海外では「skunk lily(スカンクユリ)」「dirty diaper(汚いオムツ)」「outhouse lily(外便所ユリ)」という別名も。いくら臭いとはいえ、ひどい言われようですね。
ロマンティックなアイヌ民族の「恋」の言い伝え
北海道のアイヌ文化では食用になるぐらい身近なクロユリ。アイヌ民族に伝承するクロユリにまつわる話はとってもロマンティックです。
クロユリを好きな人の傍らにそっと置き、手に取ってもらえれば、いつの日か2人は結ばれるという言い伝えがあるそう。これが花言葉の「恋」の由来です。
一方、富山では呪いの伝説が……
恋の言い伝えがあるかと思えば、富山では呪いの伝説「黒百合伝説」があります。
戦国武将の佐々成政には”早百合”という側室がいましたが、早百合が密通したという噂が立ち、成政は怒り早百合を殺してしまいます。
その際早百合は「立山にクロユリが咲くころ、佐々家は滅びるであろう」と呪いながら死んでいきました。
その後、豊臣秀吉に取り入ろうと成政は、正室北政所に白山のクロユリを「珍しい花」と献上。それに対し側室の淀君は、大量のクロユリを取り寄せ、「珍しくない」といわんばかりに見せつけました。
北政所は成政から偽られたと怒り、成政を遠ざけ、その後失政を犯し、秀吉に切腹させられました。成政は早百合の予言通りクロユリで滅んだのです。
これが、花言葉の「呪い」の由来。この伝説からクロユリは贈り物に向かないとも言われています。
クロユリを見るならココ!おすすめ観賞スポット一覧
クロユリを観賞できるスポットを紹介します。
白山/室堂(石川県)
花期:7月中旬〜8月上旬
先述した呪われた佐々成政が献上したのが、ここ白山のクロユリ。白山はクロユリの西の分限で、室堂は日本一のクロユリの群生地といわれるほどの名所になっています。
立山/室堂(富山県)
花期:6月〜7月
黒百合伝説で「立山にクロユリが咲くころ、佐々家は滅びるであろう」という予言のゆかりの地「立山」。クロユリは室堂平の散策路を中心にたくさん見ることができます。
北海道大学キャンパス内「花木園」(北海道)
花期:5月中旬~6月上旬
本州では高山でのみ見られるクロユリですが、北海道では低地でみられる身近な花として知られています。
北海道大学の札幌キャンパス内、ポプラ並木横の植物園「花木園」では、都心で見られるクロユリの群生地として人気で、多くの人が訪れる名所です。
宗谷岬(北海道)
花期:5月中旬~6月下旬
北海道稚内市の宗谷岬もクロユリの名所です。丘陵地の牧草地では千本以上のクロユリが見られる群生地で、潮風に吹かれながらクロユリを観賞できます。かわいらしいキタキツネにも遭遇するかもしれませんよ。
月山/頂上付近(山形県)
花期:6月下旬~7月上旬
月山神社が鎮座する月山頂上付近、山開きを迎えるころ、クロユリが咲き始めます。特に西側の草原に多く、ハクサンイチゲなどの高山植物とともに咲き乱れます。
乗鞍岳/畳平(長野県)
花期:7月
乗鞍岳の畳平バスターミナル(標高約2700m)南側に広がるお花畑にクロユリの群生があります。バスターミナルから歩いてすぐなので、登山しなくても簡単に鑑賞することができるのが魅力です。
北八ヶ岳/黒百合平(長野県)
花期:6月下旬~7月
北八ヶ岳の黒百合平(標高2400m)はその名の通り、クロユリの群生地。山小屋の「黒百合ヒュッテ」周辺や近くの登山道などに咲いています。
清楚な黒が魅力的なクロユリ
黒色には悪魔的なイメージがあることからか、呪いの伝説にも登場するクロユリですが、高原の中、うつむき加減に凛と咲くクロユリを見ると、礼服をまとった清楚な姿にも見えます。今回紹介した観賞地でクロユリを実際に見て、清楚な魅力を感じてみませんか?