残念!天気予報と山の天気が違った
晴れの日の登山は、登りもすがすがしく、稜線に出ると遠くの山まで見渡せて、とても気持ちのいい登山になります。雨の登山はいうまでもなく楽しさが削られ、雨や強風による山岳リスクも高まります。
まさに、山は天気次第。でも、天気予報だけに頼っていませんか?
「晴れマークを信じて山に行ったのに、雨だった」。そんな経験は誰もしたくないですが、登山者ならば一度や二度はあるはず。
山で雨が降りやすいのはなぜ?
登山をしているなら一度は耳にしたことがある格言。「山の天気は変わりやすい」
午前中は晴れていたのに雲が山裾からわき上がってきたり、稜線があっという間にガスに包まれたり、ころころ変わりゆくのが山の天気。それは、山の地形によるものです。
山岳地帯に風がぶつかると上昇気流が発生。上昇気流で吹き上げられた湿度を多く含んだ風が上空で冷やされると、雲ができます。
海と山が近く湿度の高い日本の気候。湿った風が次々に吹き上げられ、山で雲が発達やすい自然環境なのです。
天気予報は当てにならない!?
テレビや天気アプリなどの天気予報マークは、山の麓(街)の天気です。麓(街)と山頂では、標高差や地形に違いがあるため天気も違います。
天気予報は「長野県は晴れマークが多いな」など、全体的な傾向を知るのに便利な情報です。では、山の天気はどうやって情報を得るといいのでしょうか?
山の天気は「天気図」をチェックしましょう。山の上の天候や、風の強さなどを読むことができます。 しかし、専門用語や記号が多くて難しいのが天気図。
そこで、気象のプロに登山に役立つ気象の知識をうかがってきました。
これだけは知ってほしい!気象の基礎知識
教えていただいたのは、日本気象協会の安齊さん。安齊さんは大学時代から山の気象をフィールドで研究し、山を楽しむ登山者のひとりです。
安齊さん「天気図を読むために、まず押さえておきたい気象の基礎知識は、『高気圧と低気圧』と『前線』です」
この2つを知ることで、晴天や雨天などの天気の全体傾向をつかめるようになります。
大まかな天候を予測できる『高気圧』『低気圧』
気圧は大気の圧力で、簡単にいうと『空気の重さ』です。
周囲に比べて気圧の高いところを『高気圧』といい、周囲に比べて低いところを『低気圧』といいます。
テレビの天気予報を見ていると、「高気圧に覆われて、日差しが降りそそぎ穏やかな1日になるでしょう」や「低気圧が発達しながら接近するため、荒れた天気に警戒が必要です」 というのをよく耳にします。
高いところから低いところに流れる水のように、大気や風も高いところから低いところや、多いところから少ないところへ移動します。この移動が天気の変化をもたらします。
雲の少ない良い天気をもたらす『高気圧』
高気圧の中心では、気圧の低い周囲に向けて渦を巻きながら風を吹き出しています。そのため中心の地表付近では空気量が減少し、それを補うために上空から空気が下降。これが下降気流となって、上空の雲を消します。地表付近では湿った風でも冷やされず、雲ができないためです。
天気の崩れを引き起こす『低気圧』
低気圧の中心では、気圧の高い四方から空気が吹き込みます。空気量が増大した低気圧の中心から上空へと空気が移動。これが上昇気流となって、雲が発達しやすいため、天気が崩れやすくなります。
高気圧と低気圧が天気図で読めるようになると、「高気圧が続くから天気は安定しているな」や「翌日には低気圧がくるから天気が荒れるな」など、大まかな天気を読むことができます。
天候の大きな崩れが分かる『前線』
低気圧と同じように、『前線』も雨を降らせます。
「暖かい空気と冷たい空気」など、性質の異なる2つの空気の境界面を『前線面』といい、『前線面』と地表が交わるところ『前線』といいます。
『前線面』では上昇気流が発生し、雲が発達しやすく雨を降らせます。天候を左右する『前線』は4種類。
前線の種類 | 前線の記号 | 前線の特徴 |
温暖前線 | ![]() | 広範囲に絶え間なく雨が降る |
寒冷前線 | ![]() | 狭い範囲で激しく雨が降る |
停滞前線 | ![]() | 停滞して長い期間雨を降らせる |
閉そく前線 | ![]() | 気圧が衰退していく |
とくに注意したいのは 「停滞前線」です。梅雨前線もそのひとつ。文字通りに停滞するため、長い期間雨が降り、雨による災害を引き起こす可能性もあります。
『前線』を知ることで、大きな天候の崩れを読むことができます。
天気図から天気を予測してみよう!
安齊さん「気象の基礎知識が分かったら、登山に役立つ情報を天気図から読めるようにしましょう。雨を予測したり、風の強さが分かったりすると、安全に登山できるかの判断ができますよね」
天気図から「雨」を予測する
雨の予測は『低気圧』と『前線』の位置を確認しましょう。この2つが地域にかかっている場合は、天気が悪くなる(雨が降る)確率が高くなります 。
また、前線の南側は大気の状態が不安定で、離れていても雨雲が発達することも。
上の天気図を見ると、前線を伴う低気圧が東日本付近を北東に進んでいることがわかります。ここから予測できるのは次の3つ。
①低気圧と前線がかかっている東海、関東、東北は強い雨が降る
②低気圧が通過した西日本は回復傾向も、関西はまだ雲が残りそう
③北海道は高気圧圏内のところもあるが、低気圧の進路によってはこのあと天気下り坂
天気図から「風の方向や強さ」を予測する
風向きは「周囲の気圧の強さ」をみましょう。気圧の高いところから気圧の低いところへ、風は吹きます。
風の強さは「気圧の等圧線間隔」をチェック。間隔が狭いところは風が強く、間隔が広いところは穏やかな風が吹いています。
安齊さん「間隔が狭いところは急傾斜で、間隔が広いところは緩い傾斜という山の地形図に似ていますね」
この天気図を見ると、台風並みに発達した低気圧がオホーツク海に進み、冬型の気圧配置が強まっていることがわかります。ここから予測できるのは次の3つ。
①等圧線の間隔が狭い東北や北海道は、風が非常に強い(季節的に猛吹雪)
②風向きは南西から北東に吹く
③関東から九州は北日本より風が弱い
さらに詳しい山の気象情報を読みたいときは
天気図には種類があります。
・海抜0mを基準とした『地上天気図』(左図)
・上空の気象がみられる『高層天気図』(右図)
今回安齊さんに教えてもらったのは『地上天気図』で読める天気でした。
もう一つの『高層天気図』は、特定の高度における気象要素をみるために活用。高度1,500mや高度3,000mの天気を読めるため、登る山の標高に合わせて登山計画の参考にできます。
天気図を読めるようになるには
天気図に毎日触れて、自分で読むことが大切です。天気予報を聞いているだけでは、天気図を読む力がつきません。
天気図が自分にとって身近で親しみのある情報になるまで毎日触れて、知識と経験を積み重ねましょう。
天気図はどこから入手する?
天気図は、日本気象協会WEBサイトの実況天気図で72時間先の予想まで確認できます。
また、有料となってしまいますが、登山天気アプリでは、山頂や山腹別の天気マークも確認できるので便利。天気図の確認と合わせてうまく活用してみましょう。
天気図を制する者は、快晴登山を制す
天気図を読めるようになると、天気予報マークの根拠がわかります。天気を読んで自分で判断できると、安全な登山計画も立てやすく、登山口での残念な経験は確実に減らせます。天気図を読めるようになって、晴れの登山を楽しみましょう!